スケーリングとは
こんにちは。埼玉県草加市谷塚にある“谷塚藤波歯科医院”院長で、日本歯周病学会専門医の藤波弘州です。
このブログをお読み頂いている方の中には、歯科医院を受診されて歯周病と診断を受けた方もいらっしゃるかもしれません。治療が開始されるとまず、ブラッシング指導とスケーリングという治療が行われたのではないかと思います。ブラッシング指導とスケーリングは,歯周病治療の基本となるような治療内容になります。ブラッシング指導は文字通りご自身で行う歯ブラシに対して、適切な磨き方をお伝えし,適切な歯ブラシを行うことでプラークの除去を日常行って頂けるようにするものです。では“スケーリング”とはどんなものなのでしょうか?
今回は“スケーリング”はどのような治療なのか?そして何を目的として行う治療なのか?をお話ししたいと思います。
なぜスケーリングを行うのか?
歯周病は大きく分けると「歯肉炎」と「歯周炎」に分けられます。「歯肉炎」は歯肉のみに炎症が限られているもの,「歯周炎」は歯肉からセメント質,歯根膜や歯槽骨などの歯周組織に炎症が及んでしまったものです。
一般的には,主原因である細菌性プラークと呼ばれる細菌の塊が長期間にわたり歯茎に対して持続的な刺激を加えることが必要です。そしてプラークが唾液中のカルシウムやリンなどの成分と結びつき石のように固くなり,歯の表面に強く沈着したものが歯石と呼ばれます。その歯石は表面が凸凹しているため,細菌の住処となりやすく,歯周病の原因となってしまいます。そのため,歯石の除去を行うことが非常に重要になります。その治療法がスケーリングなのです。
スケーリングとは
スケーリングは,歯周治療のなかでプラークコントロールとともにきわめて重要な処置となります。そして歯周基本治療の時だけでなく,歯周外科治療,サポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)でも行われます。
スケーリングとは,歯に付着した歯肉縁上および歯肉縁下の細菌性プラーク,歯石,その他の沈着物を色々なスケーラーと呼ばれる道具を使用して,機械的に除去することです。スケーリングの目的はこの細菌性プラークが多量に付着してしまう原因を除去し,歯科医師や患者さんご自身が細菌性プラークを除去しやすい環境を作っていくことです。
スケーリングに使用する器具
歯石は非常に固く,ブラッシングで除去することはできません。歯科医院で使用している特殊な器具は必要となります。歯肉縁上歯石を除去する際には主にシックルタイプを用います。
手用スケーラー
手用スケーラーには鎌型(シックルタイプ)スケーラー,鋭匙型(キュレットタイプ)スケーラー等があります。
音波スケーラー,超音波スケーラー
音波スケーラーならびに超音波スケーラーを利用して細菌性プラーク,歯石,その他沈着物を機械的に除去します。従来は,歯肉縁上歯石を短期間で効果的に除去できるため,歯茎の上の歯石除去に使用されていました。最近は,スケーラーのチップの改善により,歯茎の中のスケーリングも行うことが可能となりました。また,歯石の除去を行いたい部位に合わせたチップを使用することで高い歯石除去効果が得られることも報告されています。
また手用スケーラーと比較しても同じくらいの効果が得られると言われています。
スケーリング後に見られる症状
スケーリングを行うと,歯根面に付いている歯石,沈着物や感染歯質を除去すると,処置後,一時的に象牙質知覚過敏が生じる場合があります。これは歯の根の周りを覆っていた歯石を取り除くことで,歯の根が口の中に露出することで一時的に知覚過敏の状態になることがあります。
また歯石が存在していたことで,歯周病が進行した状態になり,歯茎や歯槽骨に炎症が起きてしまい,歯を支える骨が溶けてしまいます。その歯石を除去することで腫れている歯茎が引き締まり健康な歯茎の状態になると,歯茎の下にある歯槽骨は少なくなってしまっているため,歯の根が露出することでも同様の知覚過敏が起こることがあります。
治療の実際
スケーリングは歯周基本治療の中の1方法となります。そのほかにはブラッシング指導,プラークリテンションファクターの改善,歯周ポケット掻爬,抜歯,揺れている歯の暫間固定,といった様々な治療法で基本治療を行っていくこととなります。スケーリングは「機械的な歯肉縁上プラークコントロール」の中で大きな鍵となる治療です。
機械的な歯肉縁上プラークコントロールは,歯ブラシで行って頂くブラッシングが主体となります。歯周病の重症度,治療期間,生活習慣などに合わせて歯間ブラシ,デンタルフロスなどの歯間清掃用具や電動歯ブラシ,音波ブラシ,超音波ブラシなども使用して頂きます。さらに歯科医師,歯科衛生士によるスケーリングや機械的歯面清掃などを行い,プラークコントロールを行いやすい口腔内環境を整えることにより,良好な口腔衛生状態を維持する効果が期待できます。また, 4mm以上の歯周ポケットに対しては,歯肉縁下のプラークコントロールを併用します。なお,スケーリングを含めた歯肉縁上プラークコントロールは,歯肉縁下処置の効果を持続させるためにも必要不可欠です。
まとめ
スケーリングは歯周病治療の中で非常に多くの治療段階で行われる治療です。現在歯周病は脳血管疾患,糖尿病,高血圧といった様々な全身疾患と関連がある(詳しくは飯島先生がまとめられている 歯周病と全身疾患について をご参照ください)と言われています。やはり歯周病になってしまった際には歯周病専門医,認定医が在籍している歯科医院を受診され,徹底的に歯周病の治療を行い,歯周病の状態を改善させていくことをおすすめします。
そして正しいブラッシング法,補助的口腔清掃器具の使用法を身につけていくこと,ご自身では届かない場所の細菌性プラークや固くなってしまった歯石の除去を行い,歯周病にならないような口の中の環境を維持するために定期的に歯科医院を受診されることをおすすめいたします。