特殊な歯周疾患
こんにちは、埼玉県浦和区の日本歯周病学会認定歯周病専門医が在籍する歯医者「ナカニシデンタルクリニック」院長の中西伸介と申します。
今回は特殊な歯周疾患というテーマです。逆に一般的な歯周疾患とはどのようなものでしょうか。
皆さんが歯周病と聞いて思い浮かべるのは、口腔内の歯周病原因菌が原因で起こり、口腔内の清掃状態が不良な方、だいたい40歳から発症する、経過は急に腫れて痛みを伴うこともあるがほとんどは慢性的に経過し、数年かけて進行する。また悪化させる因子として、歯並びの不正(磨き残しやすい)、喫煙者、歯ぎしりがあるというイメージでしょうか。
実はそれ以外にも歯周疾患があります。例えばご本人はブラッシングにもきちんと取り組み、我々歯科医師から見ても歯周病の原因となるプラーク(歯垢)がほとんど付着していないにもかかわらず、若い年齢でも歯が揺れてきたなどの症状があり、レントゲンを撮影すると歯を支える歯槽骨が大きく溶けてしまっていることがあります。今回は原因が不明あるいは経過が一般的な病態と異なる歯周疾患を見ていきたいと思います。
目次 -INDEX-
1 侵襲性歯周炎
通常の歯周炎に対して若い年齢から急速に歯槽骨などの歯周組織破壊が認められ、家族内(遺伝的)に発症を認めることがあるのが特長です。一般的にはプラーク(歯垢)付着が少なく10−30代で発症することが多いです。また歯槽骨を破壊する能力の高い特殊な歯周病病菌(A. actinomycetemcomitans, P. gingivalis)が歯周ポケット内から検出されることが多く、生体内では全身状態に問題はないものの生体防御機能や免疫応答の低下が認められたり、歯周炎感受性遺伝子の関与なども言われており、これらが複合して原因となっていると考えられています。
この侵襲性歯周炎の罹患率は1000−2000人に1人ぐらいです。罹患率はそう多くないものの歯周病専門医で見てもらうことをお勧めします。
関与していると言われている歯周病原因菌が特殊でありますが、あくまでも細菌なので、歯周治療と併用して抗生剤の内服治療も併用して行う事もあります。ただ歯周ポケット内に存在している細菌はプラーク(歯垢)という形態をとっているので抗生剤内服薬のみで根本的な治療は難しく通常の歯周治療と併用して行います。
2壊死性歯周疾患(壊死性潰瘍性歯肉炎・歯周炎)
※歯肉炎とは炎症があくまで歯肉のみに限局しているもの、炎症が進行し歯槽骨まで及んだ場合を歯周炎と定義します)
文字どおり歯肉の壊死と潰瘍形成を特徴とする疾患で診断上急性と慢性に区別されます。具体的な症状としては歯肉の潰瘍(偽膜形成)や出血、疼痛、発熱、リンパ節の腫脹、悪臭などを伴います。特殊な歯周病原因菌(P. intermedia)の関連が報告されています。発症には不良な口腔衛生状態、ストレス、喫煙、および免疫不全などが挙げられ、それこそ、HIV感染者の口腔内所見として認められることもありますし、受験勉強で睡眠不足が続いた10代20代の若者の口腔内所見として見られることもあります。
歯肉の壊死・潰瘍の範囲が数箇所から全体的に及ぶこともあり、疼痛が著しく広範囲の場合は食べものが接触するだけでも激痛を伴うため数日は食事も困難ということもあります。また重度になると発熱や倦怠感など全身に影響を及ぼすこともあります。治療は口腔内の衛生状態の改善を行いますが、しばらくは歯ブラシも当てづらい状況が続くと思うので、綿棒で汚れを拭うなどして、可及的に汚れを辞去し、うがい薬や抗生剤を使用し消炎します。そして歯肉が再生してくるのを待ちます。
3歯肉増殖
歯肉組織のコラーゲン繊維の過剰増殖による歯肉が肥大した状態です。いわゆる歯周病による歯肉の腫れよりも弾力があり色もピンク色なことが多いです。原因は種々ありますが、プラーク付着により増殖が増大することがあり、プラークコントロールの徹底により発症や再発をある程度予防することができます。
薬物性歯肉増殖症
原因となる薬物として抗てんかん薬(フェニトイン)、高血圧薬(ニフェジピン)、免疫抑制剤(シクロスポリンA)などを服用している方に歯肉増殖が見られることがあります。
遺伝性歯肉繊維腫症
遺伝的に突発性に発現するものもある。発症は乳幼児で上下顎の頬舌側の腫れを認めますが抜歯後に腫れが消退します。
組織学的分類では炎症性、腫瘍性、巨細胞性、先天性エプーリスとして分けられています。
4−1全身疾患またはその治療に伴う歯周病変
歯周病を悪化させやすい全身疾患もあります(白血病・糖尿病・骨粗鬆症・AIDS・後天性好中球減少症・自己免疫疾患など)
糖尿病
特に血糖値のコントロールが不良の状態だと免疫が抵抗しているため健常者と同じように歯周病に罹患し易く、また炎症の進行が早くなり、重度になる傾向があります。
骨粗鬆症
全身の骨がもろくなっていたり、骨密度が低くなっていると歯周病に罹患した場合重症化し易くなります。
自己免疫疾患(リウマチ)や移植後など免疫抑制剤を使用している場合
体の中の免疫が落ちていると歯周病に罹患し易く重症化しやすくなります。
HIV感染に関連して見られる歯肉病変
帯状歯肉紅斑及び壊死性潰瘍性歯肉炎という歯肉炎が見られることがあります。壊死性潰瘍性歯肉炎は非感染者でも認めることはありますが、帯状歯肉紅斑は非HIV感染者ではあまり認められず、複数歯の歯肉辺縁に沿って1−2mm幅の帯状の発赤が生じることを特徴とします。2つの特徴的な歯肉病変は特殊な免疫機能の低下によって引き起こされるため、これらの異常所見からHIV感染の早期発見につなげることもできると考えられています。
4−2妊娠性歯肉炎
全身疾患とは異なりますが特殊な状態ということで、妊娠期間中に歯肉に異常を認めることがあります。全ての方に起こるわけではありませんが原因の一つとして歯ブラシを口腔内に入れることも入れることができないほどのひどいつわり、軽度であっても歯磨き粉の匂いも受け付けないなどブラッシングがしっかりできない状態にあり妊娠性歯肉炎が発症してしまうケース、また妊娠中はホルモンバランスが変わったり、体の中の免疫応答が低下すること、ポケット内の歯周病の細菌のバランスが変化し歯周病が発症しやすい環境になります。また妊娠性のエプーリスと言って歯肉の繊維性の増殖を認めることもあります。これはほとんどが出産後に消退します。
4−3歯周炎を伴随する遺伝疾患
遺伝疾患の中には歯周疾患を伴うものもあり、歯槽骨が溶けてしまうことにより歯が早期脱落し易くなります
・家族性周期性好中球減少症
・Down症候群
・白血球接着能不全症候群
・パピヨン・ルフェーブル症候群
・低フォスファターゼ症
・小児遺伝性無顆粒球症 など
5プラーク細菌以外の感染による歯肉病変
通常歯周疾患の原因は歯周病原因菌、いわゆる細菌感染を想像すると思いますが、それ以外でも歯周疾患を発症することがあります
・ウイルス感染によるもの
・真菌感染によるもの
・自己免疫疾患による粘膜皮膚病変
・扁平苔癬
・類天疱瘡
・尋常性天疱瘡
・エリテマトーデス
まとめ
今回はいわゆる般的な歯周病とは異なる歯周疾患のお話をさせていただきました。ですが、上にあげたもののほとんどは、やはり発症の原因は、菌は特殊であっても、生体の免疫の異常があっても歯周病原因菌が歯周ポケットに定着することから始まります。
そのため日々のブラッシングはとにかく一番重要ということになります。
ただ特殊な疾患も含まれていて難治性であったり、進行が早い病気もあるので歯周治療しているのになかなか改善しない、まだ通常は歯周炎に罹患しにくい若い年齢なのに歯が揺れてきたなど自覚症状がある場合は必ず専門医のいる歯科受診をお勧めします。