そもそも歯周病って何?
日本の成人の8割が歯周病になっていると言われています。歯科疾患実態調査からその実際の数は約9500万人の人が歯茎に何らかの症状がみられると推定されます。ちなみに世界的にも歯周病になっている人は多く、世界で最も多くの人がかかっている病気が歯周病としてギネスにものっています。
また、歯周病の歴史は古く、日本に現存する最古(平安時代)の医学書『医心方』には歯周病について記述されています。
現在日本人の歯を失う原因の1番の理由が歯周病です。よって、その歯周病を予防または治療することにより、「生涯多くの自分の歯を残すことができる」といっても過言でありません。現在の日本の歯周病患者数(歯周病で病院で治療している人の数)は330万人と言われています。先ほどの9500万人のうち330万人しか治療していないことになります。軽度の歯周病ももちろん含まれていますが、『歯周病になっているのに気づかない人』や『歯周病だと気づいているが治療しない人』という歯周病の治療に至ってない人が数多くいるのが現状です。
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【歯周病とはそもそも何なのでしょうか?】
誰もが聞いたことがある病名ではないでしょうか。歯周病といえば、『歯茎から出血する』、『歯がぐらぐらする』など色々なイメージを持たれていらっしゃるとも思います。
まず・・・
歯は一つ一つ歯周組織によって支えられ、動揺を自覚することなく硬いもの噛むことができます。その歯周組織には4つの組織が存在します。
<歯周組織>
1.歯肉
歯の周りに存在し、細菌の体内への侵入をバリアする組織。しかし、皮膚と比べ薄く、柔らかくいため、血管が透けて赤く見えます。バリア機構は皮膚に比べやや弱いため、血管が豊富で免疫細胞も多く存在します。
2.歯槽骨
歯を支える部分の顎の骨を歯槽骨といいます。歯が入る槽の骨という意味です。(水が入るのが水槽ですね)歯根膜という線維が、歯槽骨に入り込んでいます。
3.セメント質
歯根表面を覆う歯質です。歯根ではなく咬む方の歯質はエナメル質が表面を覆い、歯根の方はセメント質が覆います。エナメル質やセメント質の次にある歯質は象牙質になります。
硬いエナメル質違い、やや柔らかく、歯根膜という線維が入り込んでいます。
4.歯根膜
歯根表面のセメント質と歯槽骨の間に存在します。歯が受ける力のクッションの機能や歯の圧(咬む力)に対する感覚を担います。例えば、前歯で食べ物の硬さを感じるのはこの歯根膜のおかげです。歯周組織の中でも、大きな役割を担い、歯槽骨を作る骨芽細胞やセメント質を作るセメント芽細胞、線維をつくる線維芽細胞が存在します。
◎歯周病とは・・・
これら歯周組織への細菌感染による炎症が生じることを歯周病といいます。歯肉だけに限局して生じた炎症は歯肉炎、それより炎症が進行し、歯根膜やセメント質、歯槽骨まで拡大すると歯周炎といいます。
【歯周病の分類】
◎歯肉炎
◦プラーク性歯肉炎
もっとも一般的な歯肉炎でプラークに存在する細菌により歯肉に炎症が生じます。
◦非プラーク性歯肉炎
外傷やアレルギーなどプラークの細菌感染以外の原因で生じる歯肉炎です。
◦歯肉増殖 : 薬物性や遺伝性に歯肉が増殖します。
◎歯周炎
◦慢性歯周炎
歯周病原細菌による感染により、歯周組織全体に炎症が生じている状態です。通常は症状がなく、慢性的に進行していきますが、免疫力の低下などにより、急性に転化し腫れたり痛みを伴うこともあります。
◦侵襲性歯周炎
以前は若年性歯周炎と呼ばれていました。成人してからではなく10代より歯周炎が発症することもあり、かつその炎症の進行が早く歯を支える骨の吸収が大きいのが特徴です。原因としては、特異的な細菌や免疫機構の低下、遺伝的傾向などがあります。
◦遺伝疾患に伴う歯周炎
全身的な遺伝性の疾患に伴う歯周炎。急速に進行する特徴。
【歯周病の兆候】
- 歯ブラシなどで歯茎から出血する
- 歯茎が腫れぼったい
- 歯茎がむず痒い(痛い)
- 歯がぐらぐらする
- お口の臭いが気になる
- 歯茎が急に下がる(歯が長くなった気がする)
- 食べ物が詰まりやすくなる
- 食べ物がうまく噛めない
- 朝起きた時にお口がネバネバする
- 上の前歯が出てきた(出っ歯になってきた)
- 歯石がついている
【歯周病の原因】
歯周病の原因は細菌です。口腔内には様々な細菌が存在していますが、その中でも歯周病の原因になる細菌があります。単独で悪さをする細菌もいれば、数種類集まって悪さをする細菌もいます。それらの歯周病原細菌の共通点は嫌気性菌といって、酸素を嫌う特性があります。歯と歯の間の歯周ポケットが浅いと酸素が多くあるため嫌気性菌は増えません。しかし、歯石が多くついてポケットの入り口を塞いでしまったり、歯周ポケットが深くなると、酸素は少なくなり嫌気性菌が生活しやすい環境になってしまいます。
細菌たちは食べかすなどを利用して集合体を作ります。それをプラークと言います。そのプラーク1mg中には10億の細菌が存在しています。そのプラークが歯面に付着し、2日間ついた状態でいると唾液中のリンやカルシウムと結合し石灰化し歯石となります。歯石になってしまうと歯ブラシではもう取れません。また、その歯石もさらに沈着したままいると、さらに強固に歯面とくっついてしまい、取りづらくなってしまいます。歯石は硬くなりますが、その表面は歯面と比べザラザラしています。するとそこにまた、プラークが付着しやすくなり、細菌の棲み処がさらに多くなってしまいます。
炎症は体の防御反応です。歯茎の周りの細菌による体内(最初は歯肉)への侵入に対して、防御することにより炎症が生じ、感染し続けることでその炎症の範囲が拡大し、歯周病が進行していきます。
【歯周病と関連するリスクファクター】
歯周病の進行を助長させる、または歯周病がある疾患を助長させるリスクのある要素
◦喫煙
歯周病の進行を助長させる大きなリスクファクターです。喫煙者は非喫煙者に比べ8倍歯周病になりやすいと言われています。また、ニコチンの影響で血管が収縮し、出血しにくいことから、歯周病の自覚が得にくいこともあります。
◦糖尿病
糖尿病の6番目の合併症は歯周病です。糖尿病により歯周病の進行が助長され、また、歯周病の進行により糖尿病が悪化すると言われています。
◦心臓病
歯周病によって歯周病原細菌が歯周組織の血管から侵入し、心臓内膜に感染する恐れがあります。細菌性心内膜炎を発症した部位より歯周病原細菌も検出されています。
◦ストレス
ストレスによる精神の緊張状態が続くことにより、自律神経が乱れ、免疫力の低下がおこり、歯周病原細菌への感染リスクが高まります。
◦肥満
BMIに比例し、歯周病の罹患が高くなることが報告されています。脂肪細胞が放出するサイトカインが歯周病による炎症を増強する可能性があります。
◦早期低体重出産
中等度以上の歯周病に罹患している初産妊婦は、歯周病になっていない妊婦に比べ、早産や低体重出産になる割合が7倍以上高いことがわかっています。それは喫煙や高齢出産、アルコールよりもはるかに高いリスクです。早産妊婦の羊水中から歯周病原細菌が検出されたことから、細菌が歯周組織より毛管内に侵入し、胎盤や子宮に直接影響する可能性があります。
◦呼吸器疾患
誤嚥により、多くの歯周病原細菌が肺に入り、肺炎を発症する恐れがあります。
【検査方法】
◎歯周組織検査
〇歯肉の炎症
プロービング時の出血の有無などで検査します。
※プロービング:プローブという歯周ポケットを測定する物差しで、ポケットの深さを測定すること。
〇歯周ポケット
歯の周りの6か所を基本として、ポケットの深さを測定します。(6点法)
歯茎の辺縁からポケットの底の深さを測ります。
〇アタッチメントレベルの検査
歯周ポケットの測定と同様の方法ですが、基準が歯の表面構造のエナメル質とセメント質の境を基準とし、そこからポケット底までの距離を測定します。
〇口腔衛生診査
プラークコントロールレコード(PCR)を測定します。
プラークを染色する液を歯の周りに染み込ませ、プラークの残渣状態を測定します。
〇歯の動揺度
歯のぐらつきを測定します。
Millerの分類を用いることが多く、0~3度に分類します。
0度:歯の生理的な動揺(0.2mm以内の動揺)
1度:軽度な動揺(0.2~1.0mmの範囲の動揺)
2度:中等度の動揺(1.0~2.0mmの範囲の動揺)
3度:重度の動揺(2.0mm以上の動揺、または歯の垂直的な動揺)
◎レントゲン検査
口腔内デンタルエックス線写真やパノラマエックス線写真を用いて、歯を支える歯槽骨の状態や、歯石の付着状態、不適合な詰め物・被せ物などを検査します。
◎咬合の検査
かみ合わせが強く当たっている歯がないかなど検査します。また、咬合関係や歯周病で出っ歯になっていないかなど検査します。
◎細菌検査
唾液や歯周ポケットの中の細菌の量や種類を検査します。歯周病治療において、用いる抗生物質の種類を判断したり、治療前後での測定により、治療の効果を判定します。
【予防または治療について】
歯周病の予防または治療は、歯周病原細菌の付着を予防したり、またはついてしまった細菌を除去することにあります。細菌の棲み処はプラークであり、プラークはザラついた歯石の上に付着しやすいです。毎日のホームケアにより、プラークを除去し細菌の感染を防ぎ、またプラークが歯石にならないようにする必要があります。しかし、ご自身でのホームケアだけでは、なかなかとり切れることは難しいため。定期的にクリニックにて、取り残したプラークや歯石を取り除く必要があります。
また、ついてしまった歯石は、ホームケアでは除去できないため、クリニックにて専門的に歯石を徹底的に除去し、またプラークが停滞しにくいような環境作りが必要になります。歯ブラシの当て方やフロスや歯間ブラシの再確認や、適合の不良な詰め物や被せ物はプラークの付着の原因になりやすいため、適合の良い被せ物などにする必要があります。
【歯周病まとめ】
歯周病はサイレントディジーズ(Silent Disease:静かなる病気)と呼ばれ、症状がなく進行する恐れがある病気です。また、症状が出た時には多くの歯を支える歯周組織の破壊が進行していることが多く、取り返しのつかないことになりえます。見た目ではわかりにくい疾患ですが、クリニックにおいて比較的簡単に歯周病の検査を受けることもできます。歯を失う原因の1位である歯周病を毎日のオーラルケアと、定期的な検診やメンテナンスによる予防、または進行している炎症を安定させ治療することで、いつまでもご自身の歯で美味しくお食事ができることでしょう。