歯ブラシの時に出血する!どうして?
こんにちは、日本歯周病学会認定歯周病専門医でたまプラーザにある美しの森デンタルクリニックで院長をしております村野嘉則と申します。
みなさん、歯ブラシで歯を磨いているときに、歯茎から出血があって心配になったことはないですか。
「そんなの気にしなければ大丈夫!」なんて思っている方いませんか?
歯茎からの出血には様々な原因がありますが、その症状を放置することで病気が悪化してしまうこともあります。そして、その原因のほとんどは歯周病であり、実はブラッシング時の出血を気にされて歯周病専門医を受診される方が非常に多いのです。
今回は「歯ブラシの時に出血する!どうして?」のテーマで歯茎からの出血について日本歯周病学会認定歯周病専門医として詳しくご説明したいと思います。
目次 -INDEX-
「歯ブラシ時の出血の原因は?」
1.歯周病
原因として一番多いのは何と言っても歯周病です。出血の90%は歯周病が原因となって起きているといっていいでしょう。
歯周病はお口の中に棲んでいる歯周病原菌が原因となり引き起こされる慢性炎症です。炎症を起こした歯肉は弱く、歯ブラシなどの刺激で簡単に出血してしまいます。この歯周病には大きく分けて歯肉炎と歯周炎という病態があります。
歯肉炎とは歯の周りの歯肉にのみ炎症を起こし腫れている状態で、歯に付着する細菌の塊であるプラークが原因となり生じるプラーク性歯肉炎や妊娠中の女性がなりやすい女性ホルモンに関係した妊娠性歯肉炎などがあります。
プラーク性歯肉炎はその名の通りブラッシングで落とせなかったプラーク(細菌)が原因ですので、ご自身でしっかりとプラークを取り除くようにすれば治ります。炎症も歯肉だけに起きているもので歯を支えている骨などには影響は見られません。歯周病専門医が診察した場合でも簡単な治療で済む場合がほとんどです。ただ、重症化させないためには、早期発見が大切ですので、出血を自覚した場合は、なるべく早くかかりつけの歯医者さん、もしくは歯周病専門医に相談し、的確な診断と治療を受けることが病気を重症化させないポイントとなります。
妊娠性歯肉炎は妊娠時に分泌される女性ホルモンが影響し生じる歯肉炎で、妊婦の方に多い病気ですが、放置すると早産や低体重児の原因となる場合もありますので妊娠中でブラッシング時に出血がある場合などは、一度かかりつけの歯科医院か歯周病専門医に相談したほうが良いでしょう。
歯周炎のほとんどは慢性歯周炎と呼ばれるもので、まれに病気が急速に進行する侵襲性歯周炎があります。
歯周炎は歯肉炎から進行してしまったものが多く、歯肉の炎症が周りの組織に及んでしまい、歯を支える骨が溶けてしまうなどの組織破壊が起きた状態です。ほとんど症状なく進行し悪化すると出血以外に膿が出る、歯がぐらつく、力を入れて噛めないなどの症状が出てきます。ここまで進行してしまうと元の状態に治すことは難しくなるため、やはり出血などの初期症状に気付いた時点でかかりつけの歯科医院か歯周病専門医に相談していただく方が安心です。毎日のブラッシング時に出血などの兆候をよく観察し、歯周炎に進行する前の歯肉炎の状態で病気を見つけることが非常に大切なのです。
2.その他
歯周病以外の原因として、歯肉を火傷したことによる出血や単純にブラッシングの力が強い場合など、まれに悪性腫瘍や白血病、糖尿病、高血圧や血液をサラサラにするようなお薬を服用されている方、出血が止まりにくくなる血液疾患などがあげられます。歯茎からの出血が続く、または血が止まらないなどの症状がある場合にはやはり歯科医院で一度見てもらうとよいでしょう。
「出血してしまった場合どうする?」
ブラッシング時に出血する原因のほとんどが歯周病です。歯周病を予防することが出血の予防につながります。歯周病を予防するには、症状がない状態でも定期的なお口の健診が必要になります。
歯周病の原因は歯周病原菌と言われる細菌です。歯の表面に付着した細菌の集合体であるプラーク(歯垢)をブラッシングなどでうまく清掃できないと、細菌の出す毒素により歯茎が炎症を起こしてしまうのです。プラークが付着して、だいたい丸二日(48時間)経過すると唾液の中に含まれるカルシウムやリンなどのミネラルと結合、石灰化し歯石になってしまします。歯石が歯の表面に付着すると歯ブラシでは落とせなくなってしまいます。歯石自体から毒素などは出ませんが、表面がごつごつとしているためプラークがさらに付着しやすくなり細菌の巣となって歯周病を悪化させてしまいます。プラークや歯石が付着しないようにお口を清掃すること(プラークコントロール)が大切です。
歯周病が軽度の段階で歯肉炎を起こしている歯茎では、歯石などの付着がなければご自身でプラークコントロールを頑張っていただくことで歯周病原菌が減り、出血などの症状を改善させることが出来ます。歯石が付着した歯肉炎でも同様にプラークコントロールを頑張れば、出血を自覚しない状態にまで炎症を改善させることが可能ですが、歯石を残しておくと歯周病が再発しやすい状況に変わりないので、かかりつけの歯科医院か歯周病専門医を受診し、歯石を除去したほうが良いでしょう。
歯周病が進行し歯周炎となってしまった場合はどうしても治療をしないと出血の改善につながらないことがあります。
歯周病が軽度から中等度の状態では歯周ポケットという歯と歯茎の間にできた溝の中にも歯石が付着しているので、歯周ポケット内に器具を挿入する必要があり、痛みが伴う場合は歯茎に麻酔をして歯石を除去し、歯や根の表面をつるつるに磨きます。
歯周病が中等度から重度の場合、歯周病が進行し器具の到達できない深い歯周ポケットがあることが多いので、歯茎のお肉を少し切開し歯石や炎症を起こした組織を除去する、歯周外科処置が必要になることがあります。ここまで歯周病が進行すると治療が大変になりますので、なるべく早期の段階で歯周病専門医の在籍する病院などを受診し、歯周病を見つけて治療することがポイントです。
また、かかりつけの歯科医院や歯周病専門医の病院には歯科衛生士が在籍しています。歯周病を専門とする日本歯周病学会認定の歯科衛生士が在籍する病院もあります。受診の際には歯科衛生士からご自身にあった清掃器具(歯ブラシやフロス、歯間ブラシなど)を選んでもらい、適切な清掃方法を身に着けることが出血を予防するうえでとても重要です。これまで清掃指導を受けたことがある方も、お口の中の状況は変化するものです。お口の状況にあった清掃方法を歯科衛生士と定期的に確認する習慣をつけましょう。
まとめ
ブラッシング時の出血の予防には、歯周病を予防することが大切です。
ご自身にあった正しいお口の清掃方法を身に着けることと歯科医院での定期的な健診が非常に効果的です。
歯周病以外で歯茎から出血することもまれにありますので、ブラッシング時に出血を自覚した場合は、よくあることなどと軽視せずに、一度お口の専門家であるかかりつけの歯科医院や日本歯周病学会歯周病専門医を受診して相談することをお勧めします。