日本人のお口の状況・歯に対する意識はどうなの?
こんにちは。日本歯周病学会専門医の武内崇博と申します。
欧米の方の口元に注目すると歯並びは整っており美しい笑顔が印象的です。日本もホワイトニングや歯科矯正などが一般的になってきてはいますが、まだまだ歯への意識は低いように感じます。そこで今回は、日本人のお口の状況・歯に対する意識について解説していこうと思います。
執筆歯科医師:
武内 崇博(みなきたデンタルクリニック)
目次 -INDEX-
日本人の歯の状況(平成28年歯科疾患実態調査のまとめ)
まず日本人のお口の状況についてまとめてみましょう。厚生労働省は1957年より6年おきに国民の歯科保健状況を調べるために実態調査を行っています。特定の地区からランダムに抽出された満1歳以上の世帯員を対象に主に現在の歯の状況、歯の数や補綴(歯が欠けたり、なくなった場合に被せ物や入れ歯などの人工物で補うこと)の状況、歯肉の状態、フッ化物の塗布状況、歯並びの状況や歯ブラシの使用状況などを調査しています。最新の調査は平成28年で、6278人を対象に行われました。かなり大規模な調査であることがわかります。
平成28年歯科疾患実態調査(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/62-28.html
25歳以上は80%以上が虫歯を有している
まずは虫歯の状況についてです。乳歯では4歳以上8歳未満において約40%の方が虫歯の既往がある、あるいは未処置の虫歯を有していました。過去の調査と比較すると減少傾向にはありますが、依然高い値であるといえます。5歳以上15歳未満の乳歯と永久歯が混在している(混合歯列)場合は、12歳及び13歳を除くと4〜7割が虫歯を有していました。同様に過去の調査と比較すると減少傾向にありました。永久歯列に移ると驚きの結果が出ています。25歳以上85歳未満では80%以上が虫歯を有しており、35歳以上55歳未満では100%に近い値を示しました。若年者は虫歯を小さく削って詰める充填が大半を占めましたが、35歳を超えると歯の全体を削り被せるクラウンが増えていき、50歳以上になると歯を失ったときに用いるブリッジの支えの歯として削られていることが多いようです。
「8020」達成者は約半数と推定
歯を失った経験のある人は各年齢層において減少傾向にあります。しかし55歳以上では約半数以上の方が何かしらの欠損補綴(ブリッジ・入れ歯・インプラントなど)を受けており、年齢が高くなるにつれ入れ歯を入れる傾向にあるようです。近年話題になることが多いインプラントを入れている人はどの年齢階層でも5%に満たなかったと報告されています。高額であることやマスコミによるネガティブな報道によって消極的になってしまっているのでしょうか。20本以上の歯を有する人の割合はどの年齢層でも増加傾向にあり、さらに75歳以上85歳未満の8020(1989年から厚生労働省と日本歯科医師会が推進する80歳になっても20本以上の歯を保とうという運動)達成者は51.2%と推定されるそうです。平成5年の段階では10%に満たないことから、かなりの進歩が伺えますね。
虫歯に代わり、増える歯周病
それでは歯肉の状況はどうでしょうか。ここではいわゆる歯周病の程度のことを指します。歯と歯茎の間の溝のことを歯肉溝(歯周ポケット)といい、その溝の深さが4mmを超えると、歯周病と診断されます。またその深さを測る際に出血した場合は炎症の活動期にあると診断します。4mm以上の歯周ポケットを有する人は各年齢層で増加傾向にあります。歯肉出血を有する人は15歳以上で30%を超えました。これは難しい判断になりますが、日本の歯科医療のレベルが上がり歯を残せるようになりました。歯周病は歯がある人にしか起こらない病気です。抜歯になる歯が減ったかわりに歯周病が増えてしまったといわれています。しかし若年者でも増加傾向にあるのはあまりいい状況とはいえません。
歯磨き意識は向上も、フロス使用率はまだ低い
それでは歯周病と深く関わる歯磨きの状況はどうでしょうか。1歳以上の人の中で毎日歯を磨く人の割合は95.3%、2回以上磨く人の割合は77.0%と低いように感じますがこれでも増加しているようです。デンタルフロスや歯間ブラシなどの補助的清掃器具を用いている人の割合は30.6%と全体の三分の一にも満たない結果となりました。これでは歯周病の割合が増えるのも納得がいきます。
最新の歯科疾患実態をもとに国民のお口の状況をまとめてみました。日本は国民皆保険制度があり安価で歯科医療が受けられる恵まれた国ですが、本当に先進国に相応しいお口の状況といえるかは疑問が残ります。日本人の歯に対する意識についてまとめてみましょう。
日本人の歯に対する意識
続いて、日本歯科医師会が2016年に10000人を対象に「歯科医療に関する一般生活者意識調査」を実施しました。その調査結果をまとめてみたいと思います。
⻭科医療に関する⼀般⽣活者意識調査(日本歯科医師会)
https://www.jda.or.jp/jda/release/pdf/DentalMedicalAwarenessSurvey_h30.pdf
予防意識拡⼤の兆し
この1年以内に歯科健診を受けている人は全体の49.0%となりました。歯科医院もしくは病院によるものが44.6%、学校や企業によるものが4.0%、自治体によるものが1.6%と打ち分けられています。全体的な傾向で見ると女性や高齢者で多く、年代別で見ると10代と70代で高い値を示しました。
現在治療を受けている人が14.5%、治療中断中が7.1%、過去に治療を受けたことがある人が75.0%で合計した歯科治療経験者は96.2%でした。歯科受診のきっかけとして、「痛み・はれ・出血があったから」(32.3%)、 「定期的に通う(チェック)時期だったから」(31.9%)、「過去の治療箇所の不具合が生じたから」(23.7%)というものでした。過去のデータより定期検診による受診の割合が増え、わずかながら予防への意識が芽生えているといえます。
かかりつけ歯科医がいる人の割合は67.0%で年齢があがるにつれ増えていきます。過去のデータより20代、30代でかかりつけ医がいる割合は増えており、若年者の歯科への意識向上が伺えます。
歯科疾患への理解はまだまだ浅い
歯科医療についての認知度では、「歯科疾患と全身の病気との密接な関係」(82.4%)、「歯並びやかみ合わせの悪さが歯の病気の原因となる」(88.1%)も8割を超えていますが、いずれも、「聞いたことがある程度」という人が多く、「詳しく知っている」の割合は 1〜2割にとどまっています。歯科疾患と全身の健康との関わりについてでは、歯周病と低体重児出産や早産、糖尿病、肺炎などへ影響を及ぼすことについては5割以上が「全く知らない」としています。
つまり若年者を中心に予防への意識が芽生え、定期的な歯科受診が増えているのは事実です。しかし、歯科疾患への理解はまだまだ浅く我々歯科医師は国民の健康向上のためにこのようなブログなどを通じて、国民の歯科に対する意識を変えていく努力がまだまだ必要です。
まとめ
驚くべきデータの数々でしたがいかがでしょうか?日本は国民皆保険制度により恵まれた環境であるにもかかわらず、まだまだお口の健康レベルは低いといえるでしょう。不具合を感じてから歯科受診をするのではなく、定期的な歯科受診により疾患の早期発見・早期治療、さらには疾患にさせない予防の意識を持つことがみなさんのお口の健康につながります。是非、歯科医院などで一度検診を受けてみませんか?