目次 -INDEX-

インプラント治療の流れについて

 更新日:2023/03/27

歯周病の治療を日々行っていく中で、残念ながら抜歯となる患者さんもいらっしゃいます。その時に ①ブリッジ(歯を削って何本か繋がった被せ物を入れていく治療法)、②入れ歯(針金を歯にかけていく、取り外し式のもの)、③インプラント治療 を提案していきます。
①、②の治療は健康保険の適応となりますが(材料によっては適応外の場合もあります)、③のインプラント治療は保険適応外となります。かなり金額も高額になるため、適切な治療を行うためにはしっかりとした診査、治療計画が必要となります。それではインプラント治療を行うためにはどのような治療の流れとなるのでしょうか?今回はインプラント治療の流れに関して述べていきたいと思います。

藤波 弘州

執筆歯科医師
藤波 弘州(谷塚藤波歯科医院 院長)

プロフィールをもっと見る
《保有資格》
日本歯周病学会専門医、臨床歯周病学会認定医、研修指導歯科医等。

《自己紹介》
谷塚藤波歯科医院、院長の藤波です。患者さんに喜んでもらえる歯科医療をご提供することで、今までの感謝を還元し、貢献していきたいと考えています。

 インプラントとは

インプラントとは、体内に埋め込まれる人工物の総称であり、歯根の代用物(人工歯根)として用いるものがデンタルインプラントである。広義にはこの治療のことをインプラントと、狭義にはインプラント体(体内に埋め込まれる人工物)のことを、インプラントとそれぞれよぶ。(口腔インプラント学学術用語集 第3販補訂版 公益社団法人日本口腔インプラント学会 編 参照)
と日本口腔インプラント学会では定義されています。金属、最近ではジルコニアと言われる材料もありますが、人工物を骨の中に入れ、その人工物を歯の根の代わりとして被せ物を作っていきます。

 インプラント治療の流れ

インプラント治療は下記の流れに沿って行っていきます。
1 口腔内診査
2 局所の検査
3 診断・治療計画立案
4 むし歯や歯周病など歯の欠損以外の治療
5 インプラント一次手術
6 インプラント二次手術
7 暫間上部構造装着
8 印象・咬合採得
9 最終上部構造装着
10 咬合調整
11 メインテナンス
このように多くの治療ステップを踏んでいく治療になります。
今回はインプラントを1本埋入する予定で説明していきます。

 1 口腔内診査

お口の中の現在の状態を把握し、治療必要な部位の確認を行います。来院された患者さんのインプラント治療に対する希望や、それまでの歯科治療の経緯、そして歯を失うに至った経過に関しても十分問診を行います。またインプラントはお口の中の手術を行う治療法になるため、高血圧や糖尿病といった現病歴も詳しく伺います。

 2 局所の診査

顎の関節の動き、顎の動き方、お口の中の噛み合わせの状態、歯を失った部位の状態、歯肉粘膜、顎の骨(歯槽骨、上顎骨・下顎骨)の吸収状態や骨の形態、歯の生えている向き、笑った時の口元と歯の関係性など、お口の周りを全体的に診査します。またお口の中の型取りを行い、お口の動きと噛み合わせを模型上でも診査します。そして、エックス線写真CT撮影を行い、インプラント手術を行う予定部位やその周囲の神経の走行などを診査します。

 3 診断・治療計画立案

①、②で行った診査結果を元に診断、そして治療計画立案を行います。治療を行った後のお口に中の状態をゴールとして設定し、その状態が患者さんの希望に沿っているのか、そして必要な治療法、治療期間、費用を検討します。
インプラント手術を行う部位、必要なインプラント本数、被せ物の形態などもこの時点で決定します。

 4 むし歯や歯周病などの治療

インプラント治療は外科手術です。その手術を行うに辺り、手術予定部位周囲の歯の治療を基本的には先に行います。むし歯や歯周病、そして歯の根の病気(根尖病変)は口腔内細菌による感染性疾患です。特に根尖病変が存在することでインプラント手術部位が細菌感染を起こし、治療が失敗してしまうことを防ぐためにも非常に重要な点となります。

 5 インプラント一次手術

インプラント体を顎の骨に埋め込む手術になります。歯肉を切開し埋入する手術法、歯肉に切開剥離を行わないで埋入するガイデットサージェリーを用いたフラップレス手術法があります。フラップレス手術の方が生体への侵襲が少なく短時間で終わることが多いのですが、直接骨の形態を確認することが出来ないため、インプラントの埋入方向の確認が非常に難しくなります。
治療計画立案の際にこの一次手術と同時に暫間的な被せ物を装着する即時荷重、インプラント体埋入後1週〜2ヶ月の間に暫間的な被せ物を装着する早期荷重、インプラント体埋入後2ヶ月以上経過した後に暫間的な被せ物を装着する待機荷重を選択しておきます。
この待機荷重では、下顎では3ヶ月、上顎では6ヶ月以上待つ遅延荷重という方法もあります。今回はこの待機荷重に沿って説明していきます。

 6 インプラント二次手術

インプラント一次手術後2ヶ月以上経過した後に行います。歯肉に切開剥離を行い、インプラント体を確認します。インプラントに被せ物を支持もしくは維持の機能を果たす構造体であるアバットメントをインプラントに締結します。歯肉の切開剥離を行わずインプラント体を見えるようにする、ティッシュパンチという方法もあります。

 7 暫間上部構造装着

インプラント二次手術を行い歯肉の治癒を待った後に、インプラントと仮の被せ物を入れていきます。この仮歯でしっかり噛めるのかどうか、発音に問題はないか、食物を飲み込む際の問題はないか、などお口の中でしっかりと歯の代わりとして機能するかを確認していきます。

 8 印象・咬合採得

⑦の仮歯でお口の中での機能、審美性、清掃性に問題がないことを確認した後に、最終的な上部構造を作成するために型取りと噛み合わせの位置関係の記録をとります。

 9 最終上部構造装着

最終的な上部構造としては、金属、高分子材料(硬質レジン、ハイブリッドレジン)、セラミックスなどが用いられます。この材料は、患者さんの噛む力や審美性などによって決定されます。

 10 咬合調整

最終上部構造と噛み合う歯に問題が出ないように慎重に噛み合わせの調整を行います。噛み合わせが強くなり過ぎてしまうと、噛み合わせの歯が割れる、揺れてくる、インプラントの被せ物が割れる、インプラントが揺れてしまうなどのトラブルが起きてしまう可能性があります。

 11 メインテナンス

お口の中と、人工物であるインプラントに問題が起きていないかを定期的にチェックを行う必要があります。プラークコントロールの状態、インプラント周囲粘膜の状態、プロービング深さ、動揺、エックス線写真などの検査を行います。またインプラント体のスクリューの緩み、破折、被せ物の破損、噛み合わせの歯の破折、揺れ、痛み等も確認します。
そしてインプラント周囲粘膜炎インプラント周囲炎のチェックも勿論行っていきます。

 まとめ

今回はインプラント手術が1本の場合を中心にまとめてきました。従って本数が多くなるほど、より緻密な検査、手術手順、被せ物の作成手順が必要となります。また被せ物だけでなくインプラントによって支えられる入れ歯などもあります。その治療法の決定には診査が非常に重要となります。またインプラントも歯周病のような状態になります。プラークコントロールが不十分な方ですと、インプラント周囲の骨破壊が起きてしまうかもしれません。歯周病と同様に徹底したプラークコントロールを行い、手術終了後も長期間使用できるようにメインテナンスで歯科医院を受診するようにして下さい。

この記事の監修歯科医師