インプラント治療で顎骨壊死を起こすリスク要因と治療できないケースについて解説!
公開日:2025/09/09

インプラント治療は、失われた歯を補う治療法ですが、稀に顎骨壊死という重篤な合併症を引き起こすリスクがあります。
本記事ではインプラント治療と顎骨壊死について以下の点を中心にご紹介します。
- 顎骨壊死とは
- インプラント治療と顎骨壊死の関係性
- インプラント治療が難しいケース
インプラント治療と顎骨壊死について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。 ぜひ最後までお読みください。

監修歯科医師:
松浦 明(歯科医師)
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職場
医療法人 松栄会 まつうら歯科クリニック
出身大学
福岡歯科大学
経歴
1989年福岡歯科大学 卒業
1991年松浦明歯科医院 開院
2020年医療法人松栄会まつうら歯科 理事長就任
資格
厚生労働省認定研修指導医
日本口腔インプラント学会認定医
ICOI (国際インプラント学会)Fellowship認定医
所属学会
ICOI(国際口腔インプラント学会)
日本口腔インプラント学会
日本臨床歯科学会(SJCD) 福岡支部 理事
日本顎咬合学会 会員
日本臨床歯科CAD/CAM学会(JSCAD)会員
医療法人 松栄会 まつうら歯科クリニック
出身大学
福岡歯科大学
経歴
1989年福岡歯科大学 卒業
1991年松浦明歯科医院 開院
2020年医療法人松栄会まつうら歯科 理事長就任
資格
厚生労働省認定研修指導医
日本口腔インプラント学会認定医
ICOI (国際インプラント学会)Fellowship認定医
所属学会
ICOI(国際口腔インプラント学会)
日本口腔インプラント学会
日本臨床歯科学会(SJCD) 福岡支部 理事
日本顎咬合学会 会員
日本臨床歯科CAD/CAM学会(JSCAD)会員
目次 -INDEX-
インプラント治療の概要
インプラントとは具体的にどのような治療なのでしょうか。以下でインプラント治療について解説します。
インプラント治療とは
インプラント治療は、失った歯を補うために顎の骨に人工歯根(インプラント体)を埋め込み、その上に上部構造を取り付ける治療法です。この方法は、従来のブリッジや入れ歯と異なり、人工歯根が顎の骨と結びつき、しっかりと固定されるため、自然な噛み心地と見た目が期待できます。 インプラント体はチタンなどの生体親和性がある素材で作られており、体内でも安定した状態を保てるとされています。 また、インプラントは独立して機能するため、周囲の歯に負担をかけにくく、メンテナンスを行うことで長期間安定した状態で使用できるため、失った歯を補う方法として有用とされています。インプラントの構造
インプラントは、主に3つのパーツから成り立っています。- インプラント体(人工歯根):顎の骨に埋め込まれ、歯の根の役割を果たします
- アバットメント:インプラント体と上部構造をつなげる土台の部分で、患者さんの口腔内に合わせて高さや形が選ばれます
- 上部構造:実際の歯に相当し、外見的には天然歯とほぼ同じ質感や色を再現することを目指します
インプラント治療のメリット
インプラント治療は、以下のようなメリットが挙げられます。- 自然な噛み心地 インプラント体が顎の骨に固定されるため、天然歯のようにしっかり噛むことができます。
- 見た目が自然 上部構造は色調が天然歯に近いため、周囲の歯とよく馴染み、美しい仕上がりが期待できます。
- 周囲の歯に負担をかけない インプラントは独立して機能するため、隣接する歯を削ったり、支えにしたりする必要がありません。
- 健康な歯を維持できる 基本的に周囲の歯を削ることがないので、健康な歯を残せる可能性があります
- 長期間使用できる インプラントは安定性が高い治療法とされており、適切にメンテナンスを行えば長期間の使用が期待できます。
- 顎の骨の健康維持 噛む力が骨に伝わるため、骨の健康を保ちやすく、骨吸収を防ぐ効果が期待できます。
インプラント治療のデメリット
インプラント治療には、いくつかのデメリットも存在します。 まず、治療にかかる費用が高額であることが挙げられます。なかでも、複数本やすべての歯をインプラントにする場合、治療費はかなりの額になります。 次に、治療期間が長いこともデメリットです。インプラントの治療期間は数ヶ月にわたる傾向があり、場合によっては骨の再生を行うための手術が必要なこともあります。 さらに、インプラント治療には外科手術が伴うため、手術のリスクや感染症、合併症のリスクがあります。特に全身疾患がある患者さんは、治療が受けられない場合もあるため、慎重な判断が求められます。 また、治療後のメンテナンスが重要で、定期的なケアを怠ると、インプラント周囲炎などの問題が発生し、最悪の場合インプラントが抜け落ちることもあります。インプラント治療と顎骨壊死のリスク
インプラント治療は、顎の骨に人工歯根を埋め込んで歯を補う方法ですが、骨粗しょう症の治療に使われる薬剤は、顎骨壊死(顎の骨の壊死)のリスクを高める可能性があります。
これらの薬は長期間使用することで骨の血流が低下し、顎骨壊死を引き起こす場合があります。インプラント治療後に顎骨壊死が発症すると、治癒が遅れることがあるため、しっかりとした治療計画が欠かせません。
インプラント治療が可能な場合でも、まずはリスク評価と管理が重要です。治療前に歯科医師と内科の主治医が連携し、患者さんの状況に応じた治療方針を決定します。
骨粗しょう症の治療薬の使用が続いている場合、手術前に休薬を検討することは明確なエビデンスがありません。インプラント治療に関して服用中の薬の種類や用量によって内科医師との十分な相談が必要です。
また、インプラント埋入予定部位の骨代謝が十分であるかどうかを、歯科用CTスキャンなどの画像診断で評価します。
もしインプラント治療が難しいと判断された場合、代替治療として入れ歯やブリッジなどの補綴治療を選ぶことが考えられます。
いずれにおいても、治療を受ける前に歯科医師に自身の服用薬について正確に伝え、リスクについて十分に理解することが重要です。
顎骨壊死の概要
ここまでインプラント治療と顎骨壊死のリスクについて触れましたが、顎骨壊死についてもう少し詳しく解説します。
顎骨壊死の症状
顎骨壊死の症状は多岐にわたりますが、初期症状は歯肉の腫れや歯の動揺、歯周組織の異常、口腔内に潰瘍ができることがあり、これらの症状はしばしばほかの歯性感染症と類似しているため、顎骨壊死が発見されにくいことがあります。 顎骨壊死が進行すると、膿が出たり、下唇にしびれが生じたりするケースもあります。 また、歯が揺れたり、抜けたりするほか、顎の腫れを伴うこともあるようです。さらに特徴的な症状は、骨が露出することで、治療が難しくなる可能性があります。 顎骨壊死は、外科的な治療や抜歯後に発症するほか、義歯や外的な衝撃が原因となる場合もあります。治療が難しく、症状の強さや進行度に応じて適切な治療が求められます。顎骨壊死の治療方法
顎骨壊死の治療は多岐にわたりますが、基本的なアプローチは壊死した骨を取り除くことです。手術によって骨の一部を切除し、顎骨の正常な機能の回復を目指します。壊死の進行を抑えるために、抗菌薬が使用されることもあります。 顎骨壊死の予防には、口腔内を清潔に保つことが重要です。特に、骨粗しょう症の治療に使われる薬剤を服用している患者さんの場合、インプラント治療や外科的な処置を避けることが推奨されます。 やむを得ず治療を行う場合は、服用している薬の一時的な中止が検討されることがあります。また、歯科医院への定期的な通院と口腔ケアが必要です。 治療中は、正しい歯磨き方法を学び、家庭で実践することが予防につながります。インプラント治療が困難なケース
顎骨壊死以外にも、インプラント治療が難しいケースには以下のようなものが挙げられます。
ケース①持病がある
インプラント治療は、持病を持つ方にとっては難しい場合があります。 例えば、骨粗鬆症の治療に使用される薬剤は、骨を破壊する細胞を抑える一方で、副作用として顎骨壊死を引き起こす可能性があります。 また、糖尿病がある場合は、血糖値がコントロールされていないと感染症や治癒力の低下が起こるため、インプラント治療が難しくなります。 さらに、腎疾患がある方も、免疫力の低下により感染症のリスクが増すため、インプラント治療が制限されることがあります。ケース②未成年や妊婦
未成年の場合、顎の骨が成長段階にあるため、インプラント手術が悪影響を及ぼす可能性があります。 インプラントは一度埋め込むと動かすことができず、顎の成長に合わせてインプラントの位置がずれてしまうことがあるため、未成年の患者さんは顎の成長が終わるまでインプラント手術を控え、ほかの代替手段を使用することが推奨されます。 妊婦の場合、インプラント治療は基本的に避けましょう。 インプラント手術にはレントゲン撮影や投薬が必要ですが、これらが胎児や母体に与える影響は不明な点も多いとされています。 妊娠中に歯の問題がある場合は、入れ歯やほかの治療法で対処することが推奨されます。 どうしても妊娠中に治療を行う必要がある場合は、歯科医師と相談し、安定期に入った5ヶ月頃に手術を行えるとされていますが、慎重に計画を立てることが大切です。ケース③喫煙習慣がある
喫煙習慣がある場合、インプラント治療の成功率が低くなることがあります。タバコに含まれる一酸化炭素やニコチンは血流を悪化させ、インプラント手術後の治癒を妨げる原因となります。 なかでもヘビースモーカーの方(1日に20本以上吸う)は、インプラントの成功に影響を及ぼす可能性が高いとされています。一酸化炭素が血液中の酸素供給を減らし、ニコチンが血管を収縮させるため、人工歯根と顎の骨の結合がうまくいかないことがあるからです。 さらに、喫煙者は歯周病になりやすいため、インプラント治療後にインプラント歯周炎が発生するリスクも高まります。 喫煙がインプラント治療に与える影響を減らすためには、治療中は禁煙することが推奨されます。ケース④顎の骨が薄い
インプラント治療は、人工歯根を顎の骨に埋め込む方法ですが、顎の骨が薄い場合には治療が難しくなります。インプラント手術には、人工歯根を埋め込むために十分な骨の量が必要なためです。 顎の骨が痩せていたり薄くなっていると、人工歯根を安定して埋入するための土台が不足し、インプラント治療が行えないことがあります。 なかでも前歯の顎の骨は奥歯と比較して薄く、少し骨が吸収するだけでもインプラントの埋入が難しくなることがあります。これは、骨が脆弱な状態では人工歯根がしっかりと固定されず、インプラントが長期的に安定しない可能性が高いためです。ケース⑤複数のむし歯や歯周病がある
むし歯や歯周病がある場合、インプラント治療を行う前に治療を済ませることが重要です。むし歯や歯周病が存在すると、インプラント手術時に細菌感染を引き起こすリスクが高まります。 細菌感染が起こると、人工歯根と顎の骨がうまく結びつかず、インプラントが安定しないため、インプラント治療ができない場合があります。 また、インプラントが無事に埋入できた場合でも、歯周病に似たインプラント周囲炎を発症することがあります。インプラント周囲炎は、インプラント周辺の組織が炎症を起こし、インプラントが抜け落ちたり、周囲の骨が溶けてしまったりする原因になります。 むし歯や歯周病を放置したままインプラントを行うことは、治療後の成功率を低下させるため、事前に口腔内の問題を解決することが必要です。ケース⑥歯並びが悪い
歯並びが悪い場合、インプラント治療が困難になることがあります。 インプラント治療は、人工歯根を顎の骨に埋め込み、上部構造をしっかりと固定する必要があります。しかし、歯並びが悪いと、インプラントの位置を適切に決めることが難しく、人工歯根や上部構造を適切な位置に埋め込めない可能性があります。 さらに、インプラントの埋入後に噛み合わせが悪くなり、治療後の予後が悪化する可能性もあります。インプラントの位置が適切でない場合、上部構造が破損したり、人工歯根が脱落したりするリスクが高まります。 また、歯並びが悪いために清掃性が悪化し、歯垢や歯石が溜まりやすくなります。 この状態が続くと、インプラント周囲炎などの病気を引き起こす原因になります。インプラント治療の歯科医院を選ぶポイント
インプラント治療はリスクもあるため、信頼できる歯科医院を選ぶことが大切です。
丁寧に治療の説明をしてくれる
インプラント治療にはリスクが伴うため、治療の方針、治療にかかる費用、そして可能なリスクを十分に把握し、納得したうえで治療を始めることが大切です。 治療が進むなかで、どのようなステップがあり、どのような仕上がりになるのかが明確でないと、不安が募り、信頼関係を築くことが難しくなります。 信頼できる歯科医師であれば、以上のような点をきちんと伝えてくれるでしょう。治療の説明がわかりやすく、丁寧であることが重要です。医療設備が整っている
インプラント治療の成功には、医療設備の充実も大きなポイントです。 インプラント治療は、顎の骨に人工歯根を埋め込む外科手術を伴うため、精密な診断と治療が求められます。 なかでも歯科用CTスキャンは、顎の骨の状態を正確に把握するために欠かせない機器です。顎の骨の厚みや硬さを計測するには、歯科用CTスキャンが不可欠で、3Dの画像をもとにインプラントの埋入位置を決めることができます。 また、口腔内スキャナーを導入している歯科医院は、型取りも迅速かつ精密に行える可能性が高まるため、患者さんの負担の軽減にもつながります。豊富な経験と知識を持った歯科医師が在籍している
インプラント治療の成功には、歯科医師の豊富な経験と知識が欠かせません。 インプラントを埋入するためには、顎の骨の状態や神経の位置を考慮する必要があります。骨の量が不足している場合には、骨造成といった追加的な治療が必要となり、高度な技術が求められます。 さらに、外科手術が関わるため、全身の健康状態や神経の走行を踏まえた治療が求められます。経験豊富な歯科医師は、複雑なケースにも柔軟に対応できる可能性があるため、治療がスムーズに進み、成功率も期待できます。 また、歯科医師の技術と知識は日進月歩で進化しており、定期的に研修や勉強会に参加して新しい技術を学び続けている歯科医師を選ぶことが、より高い治療成果につながります。 インプラント治療を受ける際は、その歯科医師がどの程度の経験を持っているか、どれだけの症例を扱ってきたかを確認することが重要です。まとめ

ここまでインプラント治療と顎骨壊死についてお伝えしてきました。インプラント治療と顎骨壊死の要点をまとめると以下のとおりです。
- 顎骨壊死とは、外科的な治療や抜歯後に発症するほか、義歯や外的な衝撃が原因となる場合もある疾患で、症状は歯肉の腫れや歯の動揺、歯周組織の異常、膿が出たり、下唇にしびれが生じたりする
- 骨粗しょう症の治療に使われるビスフォスフォネート製剤やデノスマブなどの薬剤は、顎骨壊死(顎の骨の壊死)のリスクを高める可能性があり、インプラント治療後に顎骨壊死が発症すると、治癒が遅れることがあるため、しっかりとした治療計画が欠かせない
- 糖尿病や妊娠中の方、顎の骨が薄い方、むし歯や歯周病がある方などは、状態によってインプラント治療ができない場合がある
インプラント治療を行いたい場合は、歯科医師と密に相談することが大切です。 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
参考文献
