前歯の差し歯で後悔するポイントは?保険内治療と自費治療の違いや差し歯の素材の特徴・成功させる方法も詳しく解説します
虫歯やケガで歯を失ったとき、その部分に人工の歯を取り付ける治療が行われます。これが差し歯です。
とくに前歯に限っては、歯並びを整えるために行われることもあります。ここでは、そんな差し歯を前歯にするときのポイントについて解説します。
前歯という、顔の中でも目立つ場所に入れる差し歯は絶対に失敗したくないものです。そのためにはどこに注意すればよいのでしょうか。
失敗例から学ぶために、ここではあえて前歯の差し歯で後悔するポイントをご紹介します。
また保険内治療と自費治療の差、さまざまな素材などについても解説しました。ぜひご覧ください。
監修医師:
郷 正憲(徳島赤十字病院)
目次 -INDEX-
前歯の差し歯で後悔するポイント
まずは、残念な例からみていきましょう。前歯の差し歯の失敗でもっともよく挙げられるのは、見た目の問題です。
前歯は他の歯と違い、外からよく見える場所にあります。しゃべるときや笑うときは、口元に注目が集まります。
前歯の美しい歯並びにこだわる方が多いのも当然のことでしょう。
そんな前歯が差し歯になったとき、まず見た目が気になってしまうというのもまた自然なことです。
つまり前歯の差し歯の最大のトラブルは歯列のズレなどの見た目の問題であるといえます。
こういったズレやサイズの違和感は見た目だけでなく使用感も悪くなるので要注意です。治療の際に違和感を覚えたら、すぐに歯科医に相談しましょう。
差し歯が取れたというのもよく聞くトラブルです。
差し歯は歯の下側の、歯ぐきに埋まっている部分(歯根)に芯を入れ、そこに人工の歯をかぶせる技術です。
人工の歯と本物の歯は接着剤でつけるのですが、その接着がうまくいかなかった場合取れてしまうことがあります。
また虫歯や歯周病で歯や歯ぐきの形が変わってしまったために差し歯が合わなくなって抜けてしまうケースもあります。
取れてしまった差し歯は、きれいに取れたのであれば再接着が可能です。
もし虫歯や歯周病が原因で抜けたのなら、原因のほうを先に治療する必要があるため差し歯の修復は後回しにされることもあります。
また長年使っている差し歯の着色や、黒ずみなどのトラブル例もあります。
これらのトラブルは再度の治療で解消することが可能です。しかし、余計な治療はできれば受けたくないものです。
差し歯のトラブルで後悔しないためにはどうすればよいのでしょうか。以下の項で考察していきます。
前歯の差し歯は保険内治療と自費治療でどう違う?
よく、歯科治療は高額になりやすいといわれます。なぜそうなるのでしょうか。原因の1つとして、歯科材料の多様さが挙げられます。
歯科治療に人工の材料が多く使用されているのは、皆様もご存知のことでしょう。
虫歯治療の詰め物から入れ歯などの義歯、差し歯などのいわゆる「かぶせ物」にいたるまで、さまざまな場面でさまざまな材料が使われています。
材料は安価なものから高価なものまで幅があり、また保険適用となるか自費治療になるかの問題もあります。そこで費用に大きな差が出てきてしまうのです。
前歯の差し歯も、使われる材料によって治療費に大きな差が出ます。
そもそも差し歯とは、何らかの理由で歯が失われたとき、その後に人工の歯を入れる治療です。
この人工の歯は、芯(ポスト)と上にかぶせるカバー(かぶせ物またはクラウン)のパーツにわかれています。
保険内治療と自費治療の差は、この2つのパーツの素材の差です。
保険適用になるのは、おもにプラスチックや金属などの比較的安価な素材です。
前歯の場合は金属という選択肢は稀ですので、ほとんどのケースでプラスチックになります。
これが自費になると、セラミックやジルコニアといった美しく長持ちする素材が使用できるようになります。
基本的に健康保険制度は病気の治療だけを援助するものです。
つまり歯の治療はプラスチック材料で十分可能であり、ほかのもっといい材料を使うのは個人の責任で行うべきという考え方が保険内治療の基本です。
歯の美しさを重視する場合、素材のよりよい選択肢はハイブリッドレジンやジルコニア・セラミックなどになります。
そういったいわば「ぜいたく品」は保険適用にはならないのです。
差し歯の素材による違い
差し歯にはたくさんの種類があります。ここでは、その種類を3つの素材にわけてご紹介します。
それぞれのメリットとデメリットを挙げましたので、素材選びにぜひお役立てください。
プラスチック
私たちの身近にあるプラスチックも歯科材料として使われています。
プラスチックといってもいろいろなものがありますが、差し歯の素材としては、硬質レジンなどが挙げられます。
プラスチック製クラウンのメリットは、非常に安価でほとんどの場合保険の範囲内で治療ができるということです。
また、昔から使われているポピュラーな素材なので、安全性が確認されているという点も大きな利点といえます。
デメリットは耐久性がないことです。壊れやすく、数年で再治療が必要になるケースも珍しくありません。
また、長年使用しているとつやがなくなってきます。見た目にこだわりがある方にはおすすめできません。
ジルコニア
見た目にこだわる方にはジルコニアが最適でしょう。ジルコニアは丈夫で白くつやがあり、自然な歯に近い美しさが特徴です。
デメリットは治療費が高額になることです。保険が適用できないので治療は自費になります。
セラミック
セラミックとは、簡単にいうと陶器のことです。耐水性があるので食べ物などによる着色がほとんどなく、いつまでも美しさを保てます。
いっぽうでかみしめるなどの強い力に弱く、歯ぎしりする癖がある方には向きません。
またもうひとつのデメリットとして、装着する際に歯を削る分量が多めになりがちであることも挙げられます。
前歯の差し歯のメリット
虫歯の治療や事故など外的要因で歯が失われてしまったときは、差し歯を選択するのはやむをえないことです。
しかし、たとえば歯並びの改善など喫緊の必要性がないケースで差し歯を選択することもあります。その場合、どんなメリットがあるのでしょうか。
見た目の印象が変わる
前歯はとても目立つ部分です。差し歯にすることで前歯の歯並びが整い、見た目の印象はまったく違ったものになります。
歯並びが整ったことで笑顔に自信がもてるようになった、人前で歯を見せられるようになったという話をよく聞きます。それほど前歯の歯並びは重要なものなのです。
ちなみにこういった歯並びの修正やホワイトニングなど、見た目の美しさを追求する治療を専門に行う歯科を審美歯科といいます。
見た目にこだわりたい方は、専門の審美歯科に相談するとよいでしょう。
自分の歯を残せる
差し歯は通常、歯がなくなったところを埋めるためにするものです。しかし、自分の健康な歯がある状態で行うことも不可能ではありません。
審美歯科で行われる前歯の差し歯では、ラミネートベニアという方法が使われます。
形の悪い前歯を少しけずり、上からクラウンをかぶせる方法で、自分の歯はほぼそのまま残ります。
自分の健康な歯を残せるというのは大きなメリットです。付け替えも可能なので、合わなかった際の処置も楽になります。
前歯の差し歯のデメリット
前歯を差し歯にするという選択は、決してメリットばかりではありません。
ここでは、前歯を差し歯にすることにともなうデメリットについて解説します。
健康な歯を削る場合も
前歯を差し歯にするには、周囲にある程度スペースが必要です。
歯の上からかぶせ物をするので、できあがった差し歯は元の歯よりも少し大きくなります。そのため、左右の歯を削ってスペースを確保することがあります。
本来削る必要のない健康な歯を削ってしまうのは、あまりよいこととはいえません。これは差し歯の大きなデメリットといえるでしょう。
割れ・欠けのリスク
差し歯は衝撃で破損することがあります。
とくに前歯は顔の正面にあるのでぶつけたりすることも多く、また硬いものをかんで損傷したりするという事例も多数あります。
普通は硬い食物はまず前歯でかんでみるものです。前歯はそのぶん、損傷する確率が高い歯といえます。
もっとも割れたり欠けたりした差し歯は修復が可能です。基本は作り直しになりますが、きれいに割れた場合は接着で直せることもあります。
もしも差し歯が折れたら、折れた部分は捨てずに歯科医のところへ持っていきましょう。
素材によっては費用が高額
ラミネートベニアなどの審美歯科では保険は適用されません。必要性のある治療とはみなされないからです。
自費での治療にならざるをえないので、治療費が非常に高額になります。さらに効果が高い最新の素材を選べば、そのぶん費用も高くなっていきます。
きれいな前歯のためにいくら出費できるのか、費用と効果とのバランスをよく考えることが大事です。
前歯の差し歯治療を成功させる方法
前項では、前歯の差し歯は非常に高額になる可能性もあると述べました。そんな高価な治療であれば、ぜひ成功させたいと誰しも思うことでしょう。
ここでは前歯の差し歯を失敗なく完成させるポイントについて解説します。前歯の差し歯治療を成功させるポイントは3つです。
歯の色を合わせる
差し歯は人工物ですので、色を選ぶことができます。通常は、義歯を作る歯科技工士が患者さんのほかの歯を写した写真や色見本などを参照して決めます。
せっかくだからもっと白い歯にしたい、小さくて可愛らしい歯にしたい、と思う方もいらっしゃるかもしれません。
白い歯には誰もがあこがれるものですが、不自然なほど白くするのは考えものです。そこだけ浮いてしまうほど白い歯は全体的にみれば美しいとはいえません。
周りの歯に合った白さやサイズにするのが、自然な前歯に見せるコツです。
かみ合わせを確認する
さらに大事なのは、かみ合わせです。
歯はもちろん、かむためにあります。かみ合わせは歯本来の仕事にかかわるものですから、場合によっては美しさよりも優先されるべきものです。
かむときに上の歯と下の歯がうまく平らに接触しない、つまり「かみ合わない」状態をかみ合わせが悪いといいます。
かみ合わせが悪いと物がしっかりかめず、また特定の歯だけがほかの歯に強くぶつかることで痛みが出ることもあるのです。
そのままにしておくとあごの関節や筋肉にも負担がかかり、長期的なお口周りの疲労感に発展することもあります。
このようなことにならないように、差し歯を入れる際にはかみ合わせもよく確認しましょう。
差し歯は調整が可能です。違和感がある場合は早めに担当の歯科医に相談しましょう。
歯科医に希望を伝える
3つ目のポイントは、実際に治療を担当する歯科医に、「こうなりたい」という希望を伝えることです。
これは当たり前のことに思えるかもしれません。しかし実際には、歯科医の考える治療法と治療を受ける患者さんの理想との間には大きな差があることが多いのです。
差し歯にした結果が「想像していたものと違う」「こうなるとは思わなかった」とならないためには、ご自分の理想を明確に知らせる必要があります。
伝え方のコツとして、いちばん大切なのは治療の前に考えをしっかりまとめておくことです。
伝えたいことや質問したいポイントを書き出しておくのがおすすめです。
どんな前歯にしたいのか・費用は自費か保険内か・素材はどんなものが希望かなどポイントはいろいろあります。
できるだけシンプルな言葉で、短く明確な表現を心がけましょう。
ポイントを書き出してみることは、歯科医との意思疎通だけでなく自分の中のイメージをより確かなものにするのにも役立ちます。ぜひ一度お試しください。
差し歯の素材の特徴や費用を理解して後悔のない治療を
ここまでみてきたように、差し歯にはさまざまな要素があります。素材やかかる費用など、選び方で治療のプロセスと効果はだいぶ違ってきます。
後悔しない治療を受けるためには、ご自分に合った治療かどうか事前によく検討することが大切です。
後になって「こんなはずではなかった」と後悔しないように、理想の前歯のイメージを十分に整理して治療に臨みましょう。
差し歯は生涯に何度も受ける治療ではないので、治療にあたっては「この際だからあれもこれも」といろいろな希望が出てきて迷ってしまうかもしれません。
そんなときこそ慎重に、各素材の特徴や対費用効果を検討してみてください。
よりきれいな前歯を手に入れるには高額な費用がかかりますが、その費用と結果とのバランスをうまくとってこそ後悔のない歯科治療といえます。
またその際、治療を行う歯科医とよく相談することも大事なポイントです。
前の項でも述べましたが、治療を行う歯科医と共通のイメージをもつということは、後悔しない治療のためにとても大事なことです。
日ごろから意識して、なんでも話せる歯科医を探しておきましょう。
編集部まとめ
前歯を差し歯にする際の注意点を、後悔するポイントと題してご紹介しました。
あこがれのきれいにそろった白い前歯を手に入れるためには差し歯が有効ですが、費用や事後のトラブルなど問題もないわけではありません。
メリットとデメリットを考え合わせて、最適の方法を選ぶことが大事です。そのためにぜひ、本稿で述べたポイントをご活用ください。
前歯は顔のイメージを決める大事な部分です。自分の前歯が気になる方は、差し歯も含めたさまざまな方法を検討してみましょう。
参考文献
- 差し歯・冠|テーマパーク8020
- お口のトラブル解決します!補綴歯科へようこそ|日本補綴歯科学会/編集医歯薬出版
- ここが知りたい!歯科治療ベストアンサー!|ネット歯科相談研究会/編集クインテッセンス出版
- 歯のきほん|柿本和俊・隈部俊二・神光一郎・中塚美智子・三上豊/著誠文堂新光社