噛み合わせは運動能力に影響する?歯並びとスポーツの関係性や改善するメリットも解説
公開日:2025/09/09

物を運んだり運動をしたりする際に、知らぬ間に歯に力が入っている経験をした方は少なくありません。このときに歯がしっかり噛み合っていると、いつも以上に力を発揮することが可能です。 噛み合わせは運動能力にどのような影響があるのでしょうか。この記事では歯並びとスポーツの関係性や、歯並びを改善することで得られるメリットを解説します。

監修歯科医師:
小田 義仁(歯科医師)
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小田歯科・矯正歯科
院長 小田 義仁
岡山大学歯学部 卒業
広島大学歯学部歯科矯正学教室
歯科医院勤務をへて平成10年3月小田歯科・矯正歯科を開院
所属協会・資格
日本矯正歯科学会 認定医
日本顎関節学会
日本口蓋裂学会
安佐歯科医師会 学校保健部所属
広島大学歯学部歯科矯正学教室同門会 会員
岡山大学歯学部同窓会広島支部 副支部長
岡山大学全学同窓会(Alumni)広島支部幹事
アカシア歯科医会学術理事
院長 小田 義仁
岡山大学歯学部 卒業
広島大学歯学部歯科矯正学教室
歯科医院勤務をへて平成10年3月小田歯科・矯正歯科を開院
所属協会・資格
日本矯正歯科学会 認定医
日本顎関節学会
日本口蓋裂学会
安佐歯科医師会 学校保健部所属
広島大学歯学部歯科矯正学教室同門会 会員
岡山大学歯学部同窓会広島支部 副支部長
岡山大学全学同窓会(Alumni)広島支部幹事
アカシア歯科医会学術理事
目次 -INDEX-
歯並びとスポーツの関係性
一見関係ないように見えて、歯並びとスポーツには密接した関係性があります。歯並びの良さはバランス感覚や運動能力など、スポーツに重要なパフォーマンスを発揮するのにとても重要な要素です。
ここでは歯並びの良し悪しがスポーツにどのように関係するかを解説します。
姿勢との関係
スポーツにおいてパフォーマンスを向上させるには、よい姿勢の維持が不可欠です。よい姿勢とは耳たぶから肩、腰からくるぶしまでが一直線になる状態を指します。例えば頭が前方にあり、背骨が曲がった状態などは猫背といって悪い姿勢の代表的な例です。 姿勢が悪いと筋肉のバランスも悪くなり、肩こりや腰痛の原因にもなります。歯並びが悪いと顎の上下がずれてしまい、全身の姿勢やバランスに悪影響を与える可能性があります。 歯並びの悪さはスポーツの際に転倒しやすくなったり、重心が移動しやすく十分なパフォーマンスを発揮できなかったりする原因の一つです。筋力との関係
筋力の大きさは人それぞれですが、大きさどおりのパフォーマンスを発揮するには下顎の位置が重要です。
人間には身体の位置や姿勢を安定的に保とうとする姿勢反射という機能が備わっています。そのためお顔の位置がぶれるとそれに合わせて肩や腰の位置も反射的に動こうとします。これが姿勢反射です。
それを抑えるためには、まず頭の位置の固定が重要なポイントです。頭の位置がしっかり定まっていると、その下の筋肉も安定した位置からずれることがなくなります。頭を固定するためには下顎が正しい位置にあることが重要な要素です。
力を入れるときに下顎が正しい位置にあれば問題ありませんが、歯並びが悪いと顎がずれるため、その都度顎を動かす必要があります。
しかし、元々歯並びがよければ顎は正しい位置にあり、力を使う際の負担も少なくなります。
運動能力との関係
運動能力には筋力の大きさだけでなく、持久力やバランス感覚などいろいろな要素が総合的に影響します。歯並びが悪いとバランス感覚が悪くなったり筋肉のパフォーマンスを十分に発揮できなかったりするだけでなく、持久力などにも影響します。 歯並びの悪さは噛み合わせの悪さにつながり、瞬間的な力の増幅にも差が出る重要な要素です。歯並びを改善することは、運動能力の向上にもつながります。噛み合わせが悪いと運動能力にどのような影響がある?
噛み合わせが悪いと運動能力に多くの悪影響を与えます。単純に力が入りづらい点だけでなく、バランス感覚や呼吸、怪我のリスクなど影響はさまざまです。
ここでは噛み合わせが悪いと運動の際にどのようなリスクがあるのかを細かく解説します。
バランス感覚が悪くなる
人間は身体全体でバランスを取っています。そのなかでも頭部は5~6kgの重さがあり、可動性の高い多くの関節で支えられているため、身体のバランスに影響を与える部位の一つです。 噛み合わせが悪いと頭は正しい位置からずれ、身体の揺れを大きくする傾向にあります。その結果、重心が定まらずバランス感覚に悪い影響を与えます。 また噛み合わせが悪いと三半規管にも影響を与えてしまうのも、バランス感覚が悪くなる原因の一つです。三半規管は身体のバランスを保つ器官になります。顎の関節は三半規管のある内耳に近い場所にあり、顎にかかる負担が大きいと三半規管にも負荷がかかってしまうのです。姿勢が悪くなる
噛み合わせの悪さが与える影響は頭のバランスだけではありません。頭のバランスが崩れると、身体全体でバランスを取ろうとして筋肉に大きな負担がかかります。
例えば頭が右に傾いていると、筋肉がバランスを取ろうとして左肩に力が入ります。すると上半身のバランスが崩れ、それを補おうとして腰の負担に続くのが一般的な流れです。
こうして肩や腰にも歪みが生じた結果、身体全体のバランスが崩れ、猫背など姿勢の悪化につながります。また筋肉の負担が長く続くと、背骨や骨盤の歪みにもつながりさらに姿勢が悪化していきます。
呼吸が浅くなる
噛み合わせと呼吸には密接な関係性があり、噛み合わせが悪いと口呼吸になりやすいといわれています。また逆に、口呼吸を続けているとお口周りの筋肉が衰え、噛み合わせが悪くなるともいわれています。 口呼吸は運動能力の低下の原因の一つです。鼻呼吸には冷たく乾いた空気を暖めて体内に取り入れる効果があります。また花粉やハウスダストなどの異物を鼻毛や粘膜でとらえ、空気をろ過して体内に取り入れます。さらには副鼻腔で作られる一酸化窒素が肺の血管を拡張し、酸素を多く取り込める点も特徴です。 口呼吸にはこのような副次効果がなく、酸素の取り込みが悪い浅い呼吸になってしまいます。力を入れづらくなる
歯を噛み合わせたときに臼歯部分がしっかりと接着するかどうかは、瞬間的な力やその状態を維持するのに強く影響します。 健康な成人男性を対象に、歯を食いしばったときに奥歯にどの程度力がかかるかを調査した研究があります。その研究によると27.5kg〜100kgの値を記録し、その平均は59kgでした。力を入れた際には自分と同じ体重くらいの負担が奥歯にかかっていることになります。 噛み合わせが悪いとこの力の逃げ場が少なくなり、その結果力の入りづらさに影響します。運動中に口腔内が傷つくリスクがある
噛み合わせが悪いと運動中に口腔内や舌を噛んでしまいやすく、傷つくリスクがあります。また出っ歯や受け口の場合、衝撃を受けた際に出っ張った部分が唇を傷つけたり、折れやすかったりするリスクもあります。 衝撃を受け止める際の支えも問題です。噛み合わせが悪いと口呼吸になりやすく、お口を開いているケースも少なくありません。その際に衝撃を受けると噛み合った歯で力を受け止めることができず、歯の根元に大きな負担がかかります。 その結果歯が折れたり欠けてしまったりする可能性も高くなります。噛み合わせの改善で運動能力にもたらされるメリット
噛み合わせが改善すると運動能力にどのようなメリットがあるのでしょうか。
噛みしめる行為は力を入れる際に重要な役割を果たします。そのため噛みしめる力が上がると運動能力にもよい影響を与えます。また姿勢や呼吸の改善にもつながり、基礎能力の向上にも有効です。
ここでは噛み合わせが改善した際に与えるメリットを解説します。
奥歯を噛みしめたときに力を入れやすい
よい噛み合わせには全身の筋力を瞬間的に増幅させる効果があります。 重い物を持ったりボールを投げたりという動作をする際、人は気付かない間に歯を食いしばります。このときに歯ががっちりと噛み合っていると、より強い力を出すことが可能です。 また全身の筋肉が膨張することで、全身の関節が固定されます。そのため身体の安全性確保にもつながり、より力を入れやすくなる点にもつながります。身体全体のバランスがよくなる
噛み合わせがよくなることで、頭が正しい位置で安定するようになります。主に首から下の筋肉バランスに悪い影響を与えていた下顎が正しい位置に収まり、その結果身体が無理にバランスを取ろうとしなくなります。 筋肉バランスがよくなるので、背骨や骨盤の歪みも減り、身体の重心の安定にも有効です。また猫背などの姿勢悪化も抑えるため、口呼吸などの運動能力の低下につながる行為を抑えるのにも効果があります。持久力や瞬発力が上がる
前述したように、歯を食いしばったときにがっちりと噛み合っていると、瞬間的により強い力を出すことが可能です。そのため瞬発力の向上に効果があります。 一方で歯を食いしばり続けるのは関節を固定することにもつながるので、早く体を動かし続ける行動には向いていません。例えばサッカーではボールを蹴る瞬間などは噛み合わせが影響しますが、走り続ける行為にはあまり影響はありません。 ただし、走り続けることができる持久力という点では噛み合わせの改善は有効です。これは噛み合わせがよくなることで鼻呼吸中心になり、口呼吸よりも酸素を取り入れやすい点が理由の一つです。 また噛み合わせを改善することで身体のバランスがよくなり、負担のかかりにくい姿勢になることにも理由があります。アスリートでも可能な歯列矯正
歯列矯正中であってもスポーツは可能です。しかし矯正器具にも種類があり、スポーツによる向き不向きもあります。
ここでは歯列矯正装置の種類と、特徴を解説します。
ワイヤー矯正(表側矯正)
歯列矯正のなかでもスタンダードな矯正装置です。ブラケットと呼ばれる小さな装置を歯に取り付け、中心にある溝にワイヤーを通すことで歯を動かします。細かい歯の移動が可能なため、幅広い症例に対応が可能です。 ワイヤー矯正は表側で歯を動かすため、会話や食事の際に舌に器具が当たらないメリットがあります。普段の生活の邪魔にならないため、一度慣れてしまえば歯列矯正前と変わらない生活を送ることが可能です。 一方で歯の表面に装着するため、歯列矯正しているのがわかりやすいデメリットもあります。セラミック製の矯正器具など目立ちにくいものも増えていますが、人前で大きくお口を開けたり笑顔を見せる際には気を付ける必要があります。 また一度装着すると取り外しができないため、歯磨きの際に磨き残しをしないよう丁寧にケアする必要がある点に注意です。なお、衝突などの際には矯正装置が口腔内を傷つける可能性があります。そのためラグビーや格闘技などのスポーツには不向きな矯正器具になります。裏側矯正(舌側矯正)
裏側矯正(舌側矯正)とは名前のとおり歯の裏側にブラケット装置を装着する治療法です。一目で歯列矯正をしているとわからない見栄えの良さが特徴です。 またアスリートのように激突などの衝撃を受ける機会が多い方でも、器具で唇を傷つけにくいメリットがあります。この他にも歯の裏側を舌で触れないため、舌癖の解消にもつながります。ただし舌癖が強い場合には、逆に舌を傷つけてしまう可能性がある点に注意が必要です。 また、常に舌側に装置があるため異物感や痛みを感じるケースもあり、発音や咀嚼にも影響します。ワイヤー矯正と同様に一度装着したら取り外せず、直接確認しにくい場所に装着するためワイヤー矯正以上に歯磨きに手間がかかる点もデメリットです。マウスピース型矯正
マウスピース型矯正は取り外し可能なマウスピースを装着し、歯列矯正を行います。透明なマウスピースを使用するので目立ちにくい点が特徴です。
また外して食事や歯磨きができるので、お手入れがしやすくむし歯になりにくいメリットがあります。同様にスポーツをする際に取り外すのも可能です。
ただし、取り外し可能といっても一日20時間以上は装着する必要があるため、自己管理の徹底が必要です。
またワイヤー矯正や裏側矯正(舌側矯正)と比べると完治まで時間がかかるケースが多く、歯並びや骨格によっては使用できない場合もあります。
この他にも歯の一部だけを治療する部分矯正の場合、前歯から第2小臼歯までの範囲しか対応していない点もデメリットです。
歯列矯正中にスポーツをする場合の注意点
歯列矯正中にスポーツをしても問題はありません。しかし、ラグビーや格闘技のようにお顔に強い衝撃を受ける可能性のあるスポーツの場合、装備が頬粘膜や唇の軟組織を傷つける可能性があります。
またボールがお顔に当たる可能性のある野球やサッカー、バレーボールなどの球技も同様です。そのため歯列矯正中にスポーツをする際にはマウスガードを装着するのが有効です。
歯列矯正治療中の段階や歯の移動方向によってマウスガードの設計も変わるため、歯科医師に事前に相談しておくとよいでしょう。
なお、以下のスポーツについては歯列矯正の有無に関わらずマウスガードの装着が義務化されています。
- アメリカンフットボール
- ラグビーU15
- ラグビーU19
- ラクロス
- ボクシング
- テコンドー
- アイスホッケー
- ホッケー
噛み合わせのセルフチェック方法
正常な噛み合わせは1歯対2歯咬合といわれています。歯を噛み合わせたときに、上1本の歯に対して下2本の歯が噛み合っているのが理想です。
例えば上顎の第一小臼歯に対して、下顎の第一小臼歯と第二小臼歯が噛み合っているような状態です。歯を閉じた状態で鏡を見て、確かめてみるとよいでしょう。
また上下の奥歯をカチカチと噛み合わせたときに、常に同じ位置で安定して噛めれば噛み合わせがよいといえます。
この他にも日本顎咬合学会が作成した噛み合わせのセルフチェックシートもあります。
- 噛み合わせの位置が定まらないと感じたことがある
- お口や顎がスムーズに動かないことがある
- 噛み合わせの高さに不満を感じたことがある
- 自分の歯並びが気になる
- 歯ぎしりや歯を強く噛みしめる癖がある
- 左右どちらか一方で噛む癖がある
まとめ
歯並びが運動能力に与える影響や、歯並びを改善することで得られるメリットを解説しました。 スポーツにおいて十分なパフォーマンスを発揮するには、日々の練習だけでなく歯並びの改善も重要な要素です。 また歯並びの改善はスポーツを楽しむだけでなく、普段の生活の向上にもつながります。歯並びを気にする機会があった際には、歯列矯正を検討してはいかがでしょうか。
参考文献



