「AI」と「デジタル技術」で進化するインプラント治療とは 医療DXの最前線を歯科医師に聞く

歯を失ったときに「もう一度しっかり噛めるようにしたい」と考える方にとって、インプラント治療は大きな希望を与えてきました。しかし、その一方で「手術は怖い」「本当にうまくいくのか」といった不安を抱える方も少なくありません。そんな中、AIやデジタル技術の進歩によって、インプラント治療はかつてないほど安全性と精度を高めています。今回、「ミズキデンタルオフィス・インプラント横浜」の水木院長に、医療DXがもたらすAIとデジカル化によるインプラント治療の進化について詳しく伺いました。
目次 -INDEX-

監修歯科医師:
水木 信之(ミズキデンタルオフィス・インプラント横浜)
従来のインプラント治療 ~経験と技術に頼った時代~

編集部
まずは、従来のインプラント治療について教えてください。
水木先生
インプラントは、歯を失った部分に人工の歯根を埋め込み、その上に人工の歯を装着することで見た目の自然な歯や噛む機能を回復する治療です。日本では1990年代以降に広まり、現在では歯を失った方の有力な治療選択肢のひとつになっています。ただし、当初はレントゲンや石膏模型など、限られた検査手段しかなく、骨の状態や神経の位置を「平面」でしか把握できませんでした。そのため、最終的には歯科医師の経験や勘に大きく頼らざるを得ない部分がありました。
編集部
「経験のある先生ほど成功率が高い」というイメージですね。
水木先生
そうですね。熟練した歯科医師であれば9割以上の成功率を出すことも可能でしたが、骨の厚みや神経・血管の走行が複雑なケースではリスクが高まります。特に下顎の奥には「下歯槽神経」や「下歯槽動静脈」という重要な神経・血管が通っているので、わずかなズレで痺れや出血が出ることもありました。
編集部
ほかにはどのような懸念点が挙げられますか?
水木先生
骨量が不足している場合には、骨を足す「骨造成」が必要になりますが、術中に想定外の状態に直面することも珍しくありませんでした。つまり、従来の方法でも十分に噛める歯を再建できましたが、患者さんにとっては「見えない部分が多い」という不安が残っていたのです。
「AI」と「デジタル」が変える ~顔貌との調和を考えたインプラント治療~

編集部
近年では、インプラント治療にAIやデジタル技術が導入されることが増えたと思います。具体的にどう変わったのでしょうか?
水木先生
まず、大きな変化は「可視化」できるようになったことです。CTで顎の骨を立体的に撮影し、口腔内スキャナーで歯や歯ぐきの形をデータ化します。さらにフェイススキャナーで顔全体の情報も取得し、それらを重ね合わせて3Dで表示することができます。
編集部
まさに「見える診断」ですね。
水木先生
はい。これにより、骨の厚みや神経・血管の位置を正確に把握できます。さらに、AIがそのデータをもとに、インプラントを入れる位置や角度を自動的に提案してくれるのです。従来は術者が頭の中でイメージしていた計画を、今は3Dシミュレーションとして患者さんに「見える形」で共有できるようになりました。
編集部
患者さんも自分の治療を理解しやすくなりそうですね。
水木先生
その通りです。以前は「ここにインプラントを入れます」と口頭で説明しても、なかなか実感が湧きにくかったと思います。今では3D画像で「ここに歯が入ります」「笑ったときにこう見えます」とお見せできるので、審美的な面も含めて安心感や納得感が格段に高まりました。
編集部
実際の手術の精度も変わっているのでしょうか?
水木先生
はい。シミュレーション通りに埋入するためにコンピューター制御によるナビゲーション機器、またはコンピューターのデジタルデータから3Dプリンターで製作した「サージカルガイド」という器具を使います。サージカルガイドはマウスピースのような形をしており、穴の位置や角度が事前に設計されているため、ドリルがぶれずに正確にインプラントを埋め込むことができるのです。研究によると、サージカルガイドを使用した場合はインプラントの埋入誤差が大幅に減少し、合併症リスクも下がり、患者さんの負担も大きく減ることが報告されています。つまり「AIによるシミュレーション」と「ガイドによる精密な埋入」を組み合わせることで、これまで以上に安全で確実な治療が可能になっているのです。
編集部
精度が高まることで、治療期間や患者さんの負担はどのように変わるのでしょうか?
水木先生
骨の状態を正確に把握できるので、小さな切開で済む、または切開しないこともあるので、不要な外科処置を避けられることがあります。また、手術時間の短縮や術後の腫れ・痛みの軽減にもつながります。結果的に、患者さんの身体的・心理的負担を減らせるのが大きなメリットです。
インプラント治療の未来とは? ~DXが広げる可能性~

編集部
今後、インプラント治療はどのように進化していくのか、水木先生の展望をお聞かせください。
水木先生
海外ではすでにロボットによるインプラント埋入手術が導入されています。AIが設計した通りにロボットがミリ単位で制御しながら埋め込むため、ヒューマンエラーをさらに減らせるのです。日本でも数年以内に普及が進むのではないかと考えています。
編集部
ほかにはどのような進化が考えられますか?
水木先生
クラウドを使ったデータ共有も大きな可能性があります。患者さんの口腔内データや治療計画をクラウドに保存することで、他院の専門医などによるセカンドオピニオンや転院の際にもスムーズに引き継げます。
編集部
患者さんにとっては安心材料になりますね。
水木先生
そうですね。データがあることで「いつどこで治療を受けても同じ品質を担保できる」時代に近づいています。また、定期メンテナンス時にも過去データと比較して状態を確認できるので、長期的に歯を守るうえでも有効です。
編集部
AIやDXは、インプラントの適応範囲も広げていくのでしょうか?
水木先生
骨が薄い方や全身疾患をお持ちの方など、これまでリスクが高いとされていたケースでも、安全性が確保できれば治療が奏功する可能性があります。つまり、より多くの方が安心してインプラントを選択できる未来が見えてきているのです。
編集部
最後に、メディカルドック読者へメッセージをお願いします。
水木先生
編集部まとめ
インプラント治療は、かつては経験と技術に大きく依存していましたが、今やAIとデジタル技術の進歩によって「可視化」「高精度」「安全性向上」「患者満足度向上」が実現しています。シミュレーションやサージカルガイド、ナビゲーションにより、治療は患者にもわかりやすく、安心感を持って臨めるものへと変わりました。さらにロボット手術やクラウドデータ共有といった新しい技術が実用化されれば、「誰でも」「どこでも」「安心して」受けられる治療へと進化していくでしょう。医療DXは、単なる技術革新ではなく、患者と医療者双方に大きなメリットをもたらす変革なのです。




