静脈内鎮静法によるインプラントの手術とは?メリットとデメリットも併せて解説

インプラント治療を受ける際、痛みや不安を軽減するために静脈内鎮静法を使用する場合があります。静脈内鎮静法は、リラックスした状態で治療を受けられるため、恐怖心や痛みを感じづらくなります。しかし、静脈内鎮静法にはメリットだけでなく、いくつかのデメリットも存在します。
本記事では静脈内鎮静法によるインプラントの手術について以下の点を中心にご紹介します。
静脈内鎮静法によるインプラントの手術について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。ぜひ最後までお読みください。

監修歯科医師:
松浦 明(歯科医師)
医療法人 松栄会 まつうら歯科クリニック
出身大学
福岡歯科大学
経歴
1989年福岡歯科大学 卒業
1991年松浦明歯科医院 開院
2020年医療法人松栄会まつうら歯科 理事長就任
資格
厚生労働省認定研修指導医
日本口腔インプラント学会認定医
ICOI (国際インプラント学会)Fellowship認定医
所属学会
ICOI(国際口腔インプラント学会)
日本口腔インプラント学会
日本臨床歯科学会(SJCD) 福岡支部 理事
日本顎咬合学会 会員
日本臨床歯科CAD/CAM学会(JSCAD)会員
目次 -INDEX-
静脈内鎮静法によるインプラント手術

インプラント手術に使用される静脈内鎮静法とは、具体的にどのような方法なのでしょうか?以下では全身麻酔との違いについても解説します。
インプラントの手術で用いられる静脈内鎮静法とは
インプラントの手術で用いられる静脈内鎮静法とは、点滴から鎮静薬を静脈に投与することで、インプラントの手術中に意識が薄れた状態で治療が受けられる方法です。主に、患者さんの不安や緊張をやわらげるために用いられます。
静脈内鎮静法は、眠っているような感覚になるとされていますが、意識を失うわけではなく、自発呼吸も保たれています。静脈内鎮静法は、局所麻酔と併用して実施され、痛みの軽減と精神的な負担の軽減を同時に行える点が特徴です。重度の歯科恐怖症の方や、嘔吐反射が強い方、持病を持っていてストレス軽減が必要な方などに使用されています。全身麻酔と静脈内鎮静法の違い
歯科治療で使う麻酔法として、“静脈内鎮静法”と“全身麻酔”があります。どちらも患者さんの不安や痛みに配慮した麻酔法ですが、両者にはいくつかの違いがあります。
静脈内鎮静法は点滴で鎮静薬を投与し、うとうとと眠っているような状態をつくります。意識は薄く残りますが、緊張が和らぎ、治療中の記憶もほとんど残りません。 一方、全身麻酔は意識を失わせ、自発呼吸も抑制する深い麻酔であるため、人工呼吸器による呼吸管理が必要です。そのため、より高度な管理体制が整った専用設備で行われます。 このように、静脈内鎮静法は身体への負担が少なく日帰り治療にも対応しやすいのに対し、全身麻酔は歯科恐怖症や大規模な手術が必要な方などに使用されています。治療内容や患者さんの状態に合わせてそれぞれの麻酔法が選ばれます。静脈内鎮静法とは

ここからは、静脈内鎮静法の特徴や流れについて詳しく解説します。
静脈内鎮静法の特徴
これまで述べてきたように、静脈内鎮静法は、歯科治療における不安や恐怖をやわらげるために行う麻酔法です。歯科医師と歯科麻酔医が連携しながら実施しており、鎮静薬を点滴で体内に投与することで、患者さんは眠気を感じるような穏やかな状態になりつつも、会話や簡単な受け答えが可能な意識レベルが保たれます。
静脈内鎮静法の流れ
静脈内鎮静法を用いた歯科治療は、安全に治療を行うためにも、まず事前の診察が必要です。初回の受診時には、既往症や常用薬、アレルギーの有無、過去の治療での不快経験などについて詳しく確認され、治療前の注意点の説明などがあります。
治療当日は、血圧や体調の確認後、心電図や酸素濃度を測定するモニターを装着し、全身の状態をリアルタイムで管理しながら点滴が開始されます。鎮静薬は静脈から投与され、数分以内に鎮静効果が現れ、眠気を感じる状態になります。 治療中は会話ができる程度の意識が保たれますが、治療内容を覚えていないまま終了することも少なくありません。処置後は回復室でしばらく安静に過ごし、状態が安定したのちに帰宅できます。静脈内鎮静法のメリット

静脈内鎮静法にはどのようなメリットがあるのでしょうか? 以下で解説します。
リラックスした状態で治療が受けられる
静脈内鎮静法を用いることで、患者さんは不安や緊張が軽減し、穏やかな状態で治療に臨むことができます。半分まどろんでいるような感覚のなかで治療が進むため、ストレスを感じにくく、特に歯科治療に強い恐怖心がある方や、治療中に緊張で動いてしまう方におすすめです。
また、長時間に及ぶインプラント手術でも、リラックスして治療を受けることができるため、体力的にも精神的にも患者さんの負担が軽減されます。さらに、治療中の音や振動、痛みなどを感じにくくなっているため、気がつけば処置が終わっていたという方も少なくありません。患者さんの手術の体感時間が短い
静脈内鎮静法には“健忘効果”があり、治療中の出来事をほとんど覚えていないまま手術が終わっています。そのため、実際の処置時間が長くても、患者さん自身はあっという間に終わったように感じることがほとんどです。
特にインプラント手術のように時間を要する歯科治療では、この効果が大きなメリットとなります。施術中はウトウトとした意識のなかでリラックスして過ごせるため、身体への緊張も少なく、終了後に「もう終わったのですか?」と驚かれることも珍しくありません。静脈内鎮静法のデメリット

静脈内鎮静法にはメリットがありますが、デメリットも存在します。 以下で解説します。
静脈内鎮静法を受けられない可能性がある
静脈内鎮静法はすべての方に適応できるわけではありません。緑内障や重度の基礎疾患(心疾患、呼吸器疾患、肝・腎機能疾患等)をお持ちの方、妊娠中またはその可能性がある方、てんかんの既往歴がある方などは、安全面を考慮し、静脈内鎮静法が使用できないケースもあります。
また、小顎症や開口障害、極度の肥満がある場合には、緊急時の気道確保が困難になる可能性があるため注意が必要です。さらに、使用する薬剤に対してアレルギーがある方や、長期間向精神薬を服用している方も対象外となることがあります。 そのため、治療前に麻酔科医が詳細な問診と体調確認を行い、安全に治療が行えるかどうかを慎重に判断しています。効果の感じ方は個人差がある
静脈内鎮静法はリラックス効果が期待できますが、その効き方には個人差があります。効果が現れやすい方もいれば、穏やかに作用する方もおり、一度の投与で十分な効果が得られない場合には、追加の鎮静薬が必要になることもあります。
また、全身麻酔とは異なり、意識を失うものではないため、体質や服用中の薬の影響により反応に違いが出るケースもあります。そのため、静脈内鎮静法は、事前に患者さんの体調や既往歴などをしっかりと確認したうえで使用されます。麻酔からの回復時間が必要
静脈内鎮静法は、治療中にリラックスした状態をつくり出す一方で、処置が終わった後もその効果がしばらく残るため、治療終了後も意識がややぼんやりした状態が続きます。 そのため、歯科医院によっては、患者さんが十分に覚醒し、安全に帰宅できるよう、治療後に一定の時間休めるような専用スペースを用意している場合があります。また、当日は自身での運転は避けて、できるだけ付き添いの方と一緒に受診することをおすすめします。
自由診療のため費用が高くなる
静脈内鎮静法は、専門的な知識と高度な技術を要するため、対応できる歯科医師が限られています。そのため、保険が適用されないケースもあり、自由診療として扱われることが多いようです。
治療費に加えて、麻酔にかかる費用が別途必要となるため、費用面での負担が大きくなる可能性があります。静脈内鎮静法が向いている方

静脈内鎮静法は、歯科治療に対して強い不安や恐怖を抱いている方におすすめの麻酔法です。過去の治療で気分が悪くなった経験がある方や、治療器具が口腔内に入るだけで吐き気を催すような強い嘔吐反射のある方ににもおすすめです。
特に、インプラント手術や複数本の親知らずの同時抜歯、歯周外科など、治療時間が長くなりやすい外科処置を受ける際に使用されており、処置中の不安感やストレスを軽減させます。さらに、限られた期間で複数の治療をまとめて行いたい方、例えば、海外在住の方や多忙なビジネスパーソンにも活用されています。静脈内鎮静法を受ける前の注意事項

ここまで静脈内鎮静法を受けるメリットやデメリットについて解説してきました。次は、静脈内鎮静法を受ける前の注意事項について解説します。
術前に絶飲絶食が必要
静脈内鎮静法を安全に行うためには、治療当日の数時間前から飲食を控える必要があります。鎮静中に嘔吐が起きた場合、吐物が気道に入り込むことで窒息や誤嚥性肺炎といった重大なリスクが生じる可能性があるためです。
処置の約5〜6時間前から食事を避け、飲み物も治療2時間前を目安にストップします。ただし、水やお茶、スポーツドリンクなどの透明な飲料であれば、治療の2時間前までは摂取可能です。また、日常的に服用されている薬がある場合は、服用方法について事前に歯科医師と相談してください。当日の手指のマニキュアは落としておく
静脈内鎮静法を受ける際には、当日までに手のマニキュアやジェルネイル、つけ爪などを外しておかなければいけません。鎮静中は、血中の酸素濃度をモニターする機器を指先に装着し、継続的に確認しますが、爪に色がついていたり、人工物が覆っていると、正確なデータが取得できず、全身状態の把握が難しくなります。
万が一に備えた安全管理の一環として、施術前にはネイルをオフし、爪を自然な状態にしておきましょう。当日の運転は控える
静脈内鎮静法を受けた当日は、薬の影響で一時的に判断力や集中力が低下し、ふらつきや眠気が残ることがあります。そのため、自動車やバイク、自転車などの運転は危険です。ご自身での運転は控え、できるだけ家族の送迎やタクシーなどを利用してください。
公共交通機関を利用する場合も、転倒や体調不良に備えて、可能であれば付き添いの方と一緒に行動するようにしましょう。また、当日は無理をせず、ゆっくり過ごしましょう。静脈内鎮静法を受けた後の注意事項

治療後は、麻酔の影響がしばらく続くため、以下の点に注意しましょう。
1. 体調管理 当日は判断力や集中力が低下している可能性があります。重要な仕事や機械操作、判断を伴う行動は避け、自宅で安静に過ごしてください。 2. 薬の服用 処置後に痛みが出る場合は、歯科医師から処方された鎮痛薬を服用してください。 3. 飲酒を控える アルコールの摂取は、薬の作用に影響を与えるため当日は控えてください。 4. 副作用に備える まれに吐き気や頭痛、めまいが現れることがあります。体調に不安がある場合は、無理をせず、速やかに歯科医師へ相談してください。 5. 自動車や自転車の運転は避ける 前項でも述べたように、意識がはっきり回復するまでは、自動車やバイク、自転車の運転は避けましょう。家族や友人の迎え、もしくは公共交通機関を利用して帰宅してください。まとめ

ここまで静脈内鎮静法によるインプラントの手術についてお伝えしてきました。静脈内鎮静法によるインプラントの手術の要点をまとめると以下のとおりです。
- 静脈内鎮静法とは、点滴から鎮静薬を静脈に投与することで、意識が薄れた状態になり、手術中もリラックスしたまま過ごすことができる方法のこと。患者さんの不安や緊張をやわらげるために用いられることがある
- 静脈内鎮静法のメリットは、リラックスした状態で治療が受けられること、患者さんの手術の体感時間が短いこと。デメリットは、静脈内鎮静法を受けられない可能性があること、効果の感じ方は個人差があること、麻酔からの回復時間が必要なこと、自由診療のため費用が高くなること
- 静脈内鎮静法を受ける前の注意事項は、①治療当日は判断力や集中力が低下している可能性があるため、重要な仕事や機械操作などは避け自宅で安静にすること②処置後に痛みが出る場合は、歯科医師から処方された鎮痛薬を服用すること③薬の作用に影響を与えるためアルコールの摂取は避けること④まれに吐き気や頭痛、めまいが現れること⑤意識がはっきり回復するまでは、自動車やバイク、自転車の運転は避けることが挙げられる
インプラントの手術を受ける際に静脈内鎮静法を併用することで、恐怖心や緊張を和らげ、心身への負担を軽減できることがわかりました。一方で、注意すべき点もあるため、治療前にしっかりと歯科医師と相談することが大切です。インプラント治療に不安を感じている方は、静脈内鎮静法の選択肢について検討してみるのもひとつの手段です。
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。参考文献




