歯をあまり削らない治療ドックベストセメントのメリットとは

「キュイーン」というエアタービンの音や歯を削られる感覚が苦手な方も多い虫歯治療。象牙質や歯髄まで深く進行した虫歯を削るときには、音や歯を削られる感覚だけではなく激しい痛みまで伴います。
こうした痛みや感覚から歯科医院への通院をためらってしまっている方も多いことでしょう。しかしその一方で虫歯は放置するとどんどんひどくなってしまい、最悪抜歯をしなければならなくなってしまいます。
今回は、虫歯治療に恐怖感を持たれている方におすすめのドックベストセメントという治療方法をご紹介します。ドックベストセメントを使用した虫歯治療では、歯をあまり削らずに済みます。歯を削る量が少ない分、エアタービンの嫌な音を聞く時間も、歯が削られる嫌な感触を感じる時間も短く済むのです。
虫歯治療への恐怖感が和らげば歯科医院への通院も気楽になることでしょう。
今回は、歯科治療が苦手な方でも安心して治療を受けることができるドックベストセメントのメリットや注意点をMedical DOC編集部がお届けします。

この記事の監修ドクター：
荻野 益男 歯科医師 功生歯科医院 院長

ドックベストセメントとは

ドックベストセメントは、殺菌作用を持つ銅を含んだセメントから作られています。
従来の虫歯治療では基本的に虫歯菌に侵された部分をすべて削り取りますが、ドックベストセメント治療では削る量を抑えてあえて患部を残し、銅の殺菌力で残りの患部の虫歯菌を無効化します。
このドックベストセメントは特に虫歯が神経まで達している場合に有効な治療方法です。通常の虫歯治療では歯の神経や血管を抜かなければならないような状況でも、ドックベストセメントを使えばこれらを残すことができる可能性があります。
進行した虫歯の治療では虫歯による激痛を解消するために神経や血管を抜く処置がなされますが、これには以下のようなデメリットがあります。
-血管が除去されると血液と水が歯に運ばれなくなり、歯がもろくなる
-歯が黒く変色する
-歯を再生する力が弱くなるため、虫歯が進行しやすくなる
-歯の異常に鈍感になる
-神経を抜いた歯の強度を保つための被せものにより、噛み合わせが悪くなる
これらのデメリットから、虫歯治療で神経を抜いた歯は寿命が短くなる傾向があります。
ドックベストセメントを使用する治療ではこうした神経を抜くことによるリスクを避けられますが、具体的にはどのようなセメントなのでしょうか？
まずはドックベストセメントの開発の歴史から見ていきましょう。

最初の施術は1800年代のアメリカ

アメリカ大陸がゴールドラッシュに沸いていた時代、歯科治療の詰め物としての赤銅セメントの研究をしていた歯学博士ドック・ホリデーは、6歳の女児の虫歯治療に赤銅セメントを使用し、加工金の王冠を被せる処置を行いました。
その後ドック・ホリデーは36歳の若さで生涯を閉じましたが、そのはるか後年、1967年に102歳で亡くなった上述の女児に、ドック・ホリデーによって治療された歯が健全な状態で保たれていたことが判明します。
さらに時代が進んだ1990年代に、アメリカの歯科医師ドクター・ティムが診療を行っていた際、歯垢が多いのにも関わらず虫歯菌によるう蝕のない患者さんの口から銅セメントを発見しました。
この事実に着目したドクター・ティムは銅セメントの研究を重ね、現在のドックベストセメントが開発されます。

ドックベストセメントの効果

100年以上の年月を経て日の目を見ることになったドックベストセメント。その効果には下記のようなものがあります。
-固まった後に銅イオンが少しずつ作用するため、長期間の殺菌効果を期待できる
-セメントが持つ豊富なミネラルが象牙質の再石灰化を促す

3-Mix法との違い

ドックベストセメントによる治療と同じコンセプトの治療方法として「3-Mix法」があります。3-Mix法も虫歯の患部を残して殺菌剤を塗布しますが、こちらはセメントではなく3種類の抗生剤を使用します。
両者はよく似た治療方法ですが、ドックベストセメントには3-Mix法にはない以下のような利点があります。
-硬い(3-Mix法は薬剤でありセメントではない)
-殺菌作用の継続時間が圧倒的に長い(3-Mix法の殺菌効果は24時間程度)
-アレルギーの心配がない

治療の流れ

半永久的な殺菌作用を持つドックベストセメントですが、その効果をどうやって生かすのか、治療の手順も気になるところです。
そこでここからは、ドックベストセメントの治療の流れをご説明します。

虫歯の除去

まずは通常の虫歯治療と同じように虫歯菌に感染した部分を削り取ります。ただし、神経までは削らずに虫歯の一部を残します。

残った虫歯を洗浄

次亜塩素酸水で残った虫歯を洗浄します。

ドックベストセメントで封鎖

歯髄を保護する「コーパライト」とドッグベストセメントの粉を混ぜて患部に塗布し、ドックベストセメントで封鎖します。コーパライトにドックベストセメントを混ぜることで、銅イオンが患部へ浸透しやすくなります。

詰め物を設置

ドックベストセメントの上に通常の詰めものを詰め、治療完了です。

経過観察

ドックベストセメント治療後、一年ほどの時間をかけて銅イオンによって虫歯菌が殺菌されます。
一年後に虫歯の部分が再石灰化されていることを確認します。

ドックベストセメントのメリット

ここまでの解説を踏まえて、ドックベストセメントのメリットをまとめてみましょう。

歯を削る量が少なく済む

患部を残して殺菌するので、通常の虫歯治療と比べて歯を削る量が少なくて済みます。そのため治療の痛みも少なく、歯科医院が苦手な方やお子様でも安心して治療を受けられます。

治療回数が少ない

通常2～3回の通院で済みます。

歯の寿命が延びる

神経を抜かないので、歯の寿命が延びます。

アレルギーの心配がない

3-Mix法では懸念されるアレルギーの心配がありません。

長期間の殺菌効果が期待できる

100年近くの間、ドックベストセメント治療を施した歯が健全な状態で保たれていた例があります。

ドックベストセメントのデメリット

様々なメリットのあるドックベストセメントですが、あらゆるケースにおいて使用できる万能薬ではありません。
ドックベストセメントにはデメリットとして以下のようなことがあります。

保険外治療

ドックベストセメントは日本では保険適用ではないので、詰め物も含めてすべて自費治療になります。

虫歯の場所や状態によって適用できないこともある

すでに激しい痛みがある場合などには適さないことがあります。また、すでに神経が虫歯菌に侵されてしまっている場合は、神経を抜かなければなりません。

正確な虫歯の診断が必須

ドックベストセメントは虫歯の状態をきちんと診断した上で正しい使われ方をしないと、再び虫歯が進行して神経まで侵されてしまうケースもあります。

患部の根管治療の難易度が上がることがある

ドックベストセメントの治療により根管が細くなると、将来根管治療を施さなければならなくなったときに治療の難易度があがってしまったり、治療が不可能となり抜歯しなければならなくなったりすることがあります。

ドックベストセメントの注意点

ドックベストセメントは非常に有効な虫歯治療の道具ですが、使い方を間違えると虫歯がさらにひどくなってしまうケースもあります。
たとえば、残す虫歯の量を見誤ったためにドックベストセメントの殺菌効果が虫歯菌に負けてしまい、内部でさらに虫歯が進行してしまったケースなどがあります。また、虫歯がそれほど深く進行しておらず、通常の虫歯治療でも十分対応できる症状に対して自費診療であるドックベストセメントが使用されたケースもあります。
ドックベストセメントは、使用するのに適切な症状があります。安易にドックベストセメントを勧めてくるような場合にはご注意ください。
削らない・痛くない治療は魅力的ですが、ご自身の虫歯の状態をしっかりと把握させてもらえる歯科医院選びを心がけるようにするとよいでしょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか？
今回は、虫歯菌の殺菌効果が長期間続くうえに治療自体の痛みも少ないドックベストセメントをご紹介しました。
ドックベストセメントによる虫歯治療は、大切な歯をあまり削らずに済み歯の延命も可能な治療方法です。ある程度進行してしまった虫歯への対策として、一度ご検討してみてはいかがでしょうか。
ただし、ドックベストセメントは100年近く効果が続いていた実績もある有効な治療方法ですが、失敗例も多くありますので歯科医院選びはくれぐれも慎重におこなうことを心がけましょう。

監修ドクターのコメント

基本的に、歯を削ることによって歯の寿命は短くなってしまいます。
ドックベストセメントとは、虫歯に侵食された歯の部位に塗布する薬で、本来であれば削って除去するところを削らないで済ませます。よって結果的に歯を寿命を延ばすことが可能です。
かかりつけや専門医に是非ご相談ください。
監修ドクター：荻野 益男 歯科医師 功生歯科医院 院長

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