「部分矯正」が適している人・適していない人の違いはご存じですか? 治療前に知っておくべきコトを歯科医が解説!

歯並びの気になる部分を短期間・低コストで治せる「部分矯正」。手軽な印象から選ばれることも多い一方で、実際に適している人は限られており、「後戻り」や「噛み合わせへの影響」などの見えないリスクも存在しています。そこで、部分矯正が適している人・適していない人、全体矯正との違いや注意すべきポイントなどを、「青山表参道矯正歯科クリニック」の小田先生に解説していただきました。

監修歯科医師:
小田 義人(青山表参道矯正歯科クリニック)
部分矯正の特徴や全体矯正との違い

編集部
部分矯正とは、どのような治療法なのでしょうか? 全体矯正との違いなどを教えてください。
小田先生
部分矯正は、気になる歯並びだけを整える矯正治療です。全体矯正のように噛み合わせから根本的に治すことはできませんが、短期間で見た目を改善できます。医学的には全体矯正が本来の正しい治療ですが、費用や治療期間がネックとなって迷う人も少なくありません。そうした場合に、前歯などの気になる部位だけを短期間・低コストで整えられるのが部分矯正の特徴です。
編集部
実際のところ、治療期間はどの程度短くなるのでしょうか?
小田先生
治療期間としては全体矯正の4分の1~半分程度、期間にすると半年~1年短縮できます。奥歯の噛み合わせから根本的に治すことはせず、動かす距離や難しい動きを極力減らしていくため、違和感も少なく、短期間で完了できるのが特徴です。
編集部
全体矯正と比べて、費用はどの程度抑えられますか?
小田先生
一般的に広く用いられているマウスピース型矯正装置の場合、都内の相場だと30~50万円ほどです。全体矯正の相場が100万円前後なので、3分の1から半分程度に抑えられることになります。表側矯正はこれよりさらに費用を抑えられますが、対応している歯科医院は限られます。費用の相場としては、表側矯正で20~30万円前後、裏側矯正で40~50万円前後が目安です。
部分矯正が適している人・適していない人の違い

編集部
部分矯正は、どのような歯並びの人に適していますか?
小田先生
部分矯正が向いているのは、前歯の軽いガタつきです。医学的には「叢生(そうせい)」と呼ばれる歯並びで、症状が軽いケースであれば、ある程度きれいに並べられます。出っ歯や受け口は基本的に大きな改善は難しいのですが、「1本だけ前に出ている」など軽度なものであれば、部分矯正である程度の改善は見込めます。
編集部
前歯のすき間(すきっ歯)は部分矯正で治せるのでしょうか?
小田先生
前歯のすき間も部分矯正で比較的短期間で閉じることはできますが、原因によっては再び開いてしまうこともあるため要注意です。舌のクセや噛み合わせが原因で前歯が開いている場合、部分矯正で見た目を整えても後戻りしやすい傾向があります。すきっ歯になった原因を改善せずに治療すると、結果的に時間や費用がムダになることもあるため、慎重な判断が必要です。
編集部
部分矯正での治療が適していない、あるいは難しいのは、どのような歯並びですか?
小田先生
口元を大きく後ろに下げたいケースや、笑ったときに歯ぐきが目立つ「ガミースマイル」、重度のガタつきや歯並びの乱れは、部分矯正での対応が困難です。また、骨格そのものに原因がある歯並びも、全体矯正での対応が望ましいでしょう。
部分矯正にリスクはない? 治療を考える上で知っておきたいこと

編集部
部分矯正を検討する上で、知っておきたいリスクや注意点を教えてください。
小田先生
部分矯正に適応している患者さんであればそれほど問題ありませんが、実際のところ本当に適しているのは全体の1~2割にすぎません。それでも「気になる部分だけを治したい」という需要は多く、近年はマウスピース矯正をビジネスとして広めている企業も増えています。こうした企業は十分な説明がないまま治療が進められることも多く、本来は適応でないにもかかわらず無理に部分矯正をおこなった結果、大きなトラブルに発展するケースも少なくありません。
編集部
本来、適応でない人が部分矯正をおこなった場合、どのようなトラブルが起こり得ますか?
小田先生
歯列を無理に広げた結果、「歯ぐきが下がる」「歯が骨からはみ出してしまう」などが起こる可能性があります。また、歯を必要以上に削って形が不自然になったり、仕上がりにガタつきが残ったりするケースもあるでしょう。さらに、噛み合わせを考えずにすき間だけを閉じた結果、前歯ばかりが強く当たって奥歯で噛めなくなってしまい、後戻りしてしまうケースも少なくありません。このように、根本的な解決をせずに治療を無理に進めると、見た目だけでなく機能面にも悪影響を及ぼすため注意が必要です。
編集部
全体矯正のハードルが高いという理由で、「まずは部分矯正から」と考える人も多いと思います。これについてはいかがですか?
小田先生
「とりあえず部分矯正からはじめて、足りなければ全体矯正へ」という発想は理解できます。しかし、部分矯正と全体矯正はまったく別の治療で、考え方や方法も大きく異なることはあらかじめよく理解しておくべきです。部分矯正の後に全体矯正に移行すると難易度が上がり、治療期間や費用が増える傾向があります。実際に、はじめから全体矯正で治しておけばそれほど難易度は高くなかったのに、部分矯正を挟んだことで条件が悪化してしまうケースも少なくありません。
編集部
「部分矯正から全体矯正へ」という選択は、思っている以上にリスクが高いのですね。
小田先生
はい。部分矯正の後に全体矯正をおこなう流れは患者さんにとってわかりやすく、選びやすいことも理解できるのですが、医学的には正しい順番ではありません。2つの治療法は別物と理解し、はじめの段階で「部分矯正で進めるか」「全体矯正で根本から治すか」の二択で考えることが重要です。適応の見極めと十分な説明を受けた上で選択すれば、後悔やムダな負担を避けることができます。
編集部
部分矯正を検討している人が、歯科医院を選ぶ上で気をつけたいこと・注意したいポイントを教えてください。
小田先生
「部分矯正しか提供していない歯科医院」は避けた方がいいと思います。全体矯正は部分矯正よりも難しい症例を扱うため、部分矯正と全体矯正の両方を提供している歯科医院を選ぶと安心です。最近は「部分矯正専門のマウスピース矯正」が流行し、費用の安さで選ぶ人も増えていますが、適応やリスクが十分説明されないまま治療を進められるケースも多いため、注意が必要です。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
小田先生
部分矯正は、気になる部分だけを短期間・低コストで整えられるのが魅力的な治療です。しかし、医学的に最適な方法とは言えず、実際には様々なリスクが存在しています。治療を検討する際は、全体矯正と部分矯正の両方について説明を受け、両者を比較した上で自分に合った方法を選ぶことが大切です。後悔しないためにも、まずは信頼できる矯正歯科専門の歯科医院で相談してほしいと思います。
編集部まとめ
部分矯正は気になる歯並びだけを整えられる魅力的な治療ですが、実際に適応となるケースは1~2割程度にとどまるとのことでした。短期間・低コストに惹かれて安易に治療を選択すると、かえって歯並びが悪化したり、後戻りしたりするリスクを伴うため注意が必要です。治療を検討する際は部分矯正と全体矯正の両方を提供している歯科医院で十分な説明を受けた後、自分に合った方法を選択していきましょう。
医院情報

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| アクセス | 東京メトロ「表参道駅」 徒歩1分 |
| 診療科目 | 歯科 |
