矯正治療中は滑舌・食事に影響ある? 日常生活の工夫やコツも歯科医が解説

矯正装置をつけると「話しにくくなるのでは?」「部活動や楽器演奏ができないのでは?」といった不安から、治療をためらってしまう方も少なくありません。しかし、ほんの少しの工夫や心構えで、治療中の不快感を減らすことができます。そこで、矯正治療中の「滑舌」「食事」「生活」を快適にするヒントを、練馬関町かんけ歯科・矯正歯科の菅家先生に解説してもらいました。

監修歯科医師:
菅家 有美(練馬関町かんけ歯科・矯正歯科)
矯正治療中の会話をスムーズに 「滑舌」のお悩みと解決法

編集部
矯正治療中は「滑舌が悪くなる」とよく聞きますが、どの程度支障が出てしまうのでしょうか?
菅家先生
滑舌への影響は個人差があり、使用する装置によってもその度合いが異なります。たとえば、上あごに「パラタルバー」という装置がついている場合や、「矯正用アンカースクリュー」と呼ばれるネジを打った場合は、発音がしづらく感じられることがあるようです。ただ、話しづらさの多くは一時的なもので、通常は2~3日から1週間程度で慣れていき、違和感もなくなっていきます。
編集部
はじめのうちは話しづらさを感じても、慣れてくると支障はないということですね。
菅家先生
はい。ただし、発音がしにくくなる原因のなかには、舌の位置や動かし方に問題があるケースも少なくありません。矯正治療を始める患者さんの中には、もともと舌の基本的な位置や発音時の動きが正しくない方も多く、その状態で装置が入ることで、さらに違和感を覚えるケースがあります。
編集部
矯正治療中に滑舌が悪くなったと感じた場合、どのような対処法がありますか?
菅家先生
まずは、「ゆっくり・はっきり話すこと」を意識してみましょう。とはいえ、ご本人が気になっていても、周囲の人は文脈で理解することが多いため、日常生活にそれほど支障は出ないと思います。一方で、もともと舌の位置や動かし方に問題のある方は、舌の先端の位置をしっかり意識して話すことが大切です。これは滑舌の改善だけでなく、治療後の後戻り予防にもつながる重要なポイントになります。
編集部
具体的に、舌の先端をどこに置くのが正しいのでしょうか?
菅家先生

矯正治療中でも美味しく・楽しく 食事の工夫とポイント

編集部
矯正治療中の食事に制限はあるのでしょうか? 避けるべき食べ物・飲み物はありますか?
菅家先生
ワイヤー矯正の場合は装置の破損や脱落を防ぐため、ナッツやせんべいなどの硬いもの、ガムやキャラメルといった粘着性のある食品は控えたほうがよいでしょう。また、糖分や酸性の強い飲料を頻繁に摂ると、むし歯や酸蝕症のリスクが高まります。マウスピース型矯正装置は食事の際に装置を外せるため、基本的に制限はありませんが、装着中は水以外の飲食を避けてください。どちらの装置でも、食後の丁寧な歯磨きがとても大切です。
編集部
矯正装置をつけた直後や調整後、痛みで食事がしにくい場合の対処法を教えてください。
菅家先生
痛みがあるときは、茶碗蒸しや豆腐、おかゆなど、やわらかくて噛みやすい食品がおすすめです。バナナやヨーグルトも栄養価が高く、食べやすいでしょう。また、噛む回数を減らせるように食材を小さく切ったり、細かく刻んだりすると負担が軽減されます。痛みが強い場合は、アセトアミノフェンを含む鎮痛剤を服用してもよいでしょう。無理をせず、食べやすい工夫をして乗り切ってください。
編集部
ワイヤー矯正で食べ物が装置に挟まりやすい場合、外出先での対処法や持ち歩くと便利なアイテムはありますか?
菅家先生
外出先では、「歯間ブラシ」や「携帯用歯ブラシ」、さらに「ワンタフトブラシ」と呼ばれる先の細い1本ブラシを持ち歩くと便利です。装置の細かい部分に挟まった汚れも落としやすくなります。ただし、こういった道具がない場合でも、水で強めにうがいをしておくだけでもある程度の汚れは取れるので、無理なくできる範囲から対応していただければと思います。
編集部
マウスピース型矯正装置は食事の際、必ず外さなければなりませんか?
菅家先生
食事の際は必ず外すようにしてください。装着したまま飲食をすると、食べかすや糖分がマウスピース内に残り、むし歯や歯周病のリスクが高まります。さらに、飲食後はしっかり歯磨きをしてから再装着することも重要です。清潔な状態を保つことで治療の効果も高まり、トラブルの予防にもつながります。
矯正治療を乗り切る 日常生活の工夫

編集部
矯正装置をつけると「痛い」という話を聞くのですが、具体的にどんなとき、どんな風に痛むことが多いのでしょうか?
菅家先生
歯を噛み合わせたときに、痛みを感じることが多いようです。具体的には、「硬いものが噛めない」「歯と歯がぶつかる瞬間に痛い」と訴える方が多いように感じます。刺すような鋭い痛みというよりは、歯に圧がかかると「じんわり痛む」といったケースが多く、長い人だと1週間から10日ほど続くことがあります。
編集部
痛みは通常、どのくらい続くものなのでしょうか? また、痛みの緩和法があれば教えてください。
菅家先生
痛みの感じ方には個人差が大きく、痛みに強い人の場合は調整後1〜2日で治まるか、ほとんど痛みを感じないこともあります。平均的には、6割くらいの人が2〜3日で楽になる印象です。一方で、痛みに敏感な人は4日~1週間、まれに2週間ほど痛みを訴える方もいます。そうした場合は、歯の動きを妨げにくい「アセトアミノフェン系の鎮痛剤」を使うと、無理なく乗り切ることができます。
編集部
矯正装置をつけていると傷や口内炎ができやすいとも聞きますが、予防や対処法はありますか?
菅家先生
装置による傷や口内炎の予防には、「矯正用ワックス」の使用が効果的です。装置の尖った部分や粘膜に当たる箇所にワックスを付けることで、刺激をやわらげることができます。すでに傷や口内炎ができてしまった場合は、うがい薬や口内炎用の治療薬、ビタミンB製剤が有効です。また、治療中はやわらかい食品中心の食生活になりがちですが、栄養バランスにも気をつけると、治りも早くなります。
編集部
矯正装置をつけたまま運動や楽器演奏をしても問題はないのでしょうか?
菅家先生
基本的に問題なく行えますが、ラグビーやボクシングなどの選手同士の接触を伴うコンタクトスポーツでは、お口の中を守るために「マウスガード」の使用をおすすめしています。管楽器の演奏についても、最初は心配される方も多いのですが、ほとんどの人がしばらくすると慣れて普通に演奏できるようになります。過度に心配せず、続けていただいて大丈夫です。
編集部
最後に、読者へメッセージをお願いします。
菅家先生
矯正治療中は日常生活で不便を感じる場面もあるかもしれませんが、その先には見た目だけでなく、話しやすさや歯の磨きやすさなど、たくさんのよい変化が待っています。何か困っていることがある際は、担当医に遠慮なくご相談ください。本記事を参考に、頑張って治療を乗り切ってもらえればと思います。
編集部まとめ
矯正治療中は、装置による痛みや違和感、滑舌や食事の不便さなど、生活に支障を感じることもありますが、多くは時間とともに慣れていきます。さらに、本記事でご紹介した「舌の位置」や「食事の工夫」を意識することで、快適さは大きく変わるようです。困ったときは1人で抱え込まず、歯科医院に相談してみましょう。
医院情報
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診療科目 | 歯科 |