「インプラント」と「入れ歯」どっちを選ぶべき? それぞれのメリット・デメリットと選び方のヒントを歯科医が解説
失った歯を補う方法として歯科医から提示される「インプラント」と「入れ歯」の2つの治療法。インプラントの方が良さそうに思いつつも、外科手術の不安や費用面がネックとなって選択を迷ってしまう人は少なくないようです。そこで今回は、インプラントと入れ歯で迷った際の選び方のポイントを、「入江歯科クリニック」の入江先生にお聞きしました。
監修歯科医師:
入江 陽一(入江歯科クリニック)
目次 -INDEX-
インプラントと入れ歯はどう違う? それぞれのメリット・デメリットを徹底比較
編集部
はじめに、インプラントと入れ歯はそれぞれどういうものか、簡単に教えてください。
入江先生
インプラントも入れ歯も、歯を根元から全て失った場合にその歯の代わりを補う治療法です。インプラントは歯を失った部分の骨の中に人工歯根を埋め込み、その上に歯を被せていきます。自分の歯があったときと同じような状態を再現できるのが特徴です。入れ歯は歯を抜いた後にできあがった粘膜の上に、取り外し式の歯を乗せていきます。自分の歯が1本もない場合に入れるのが「総入れ歯」、欠損はあるものの部分的に自分の歯が残っている場合に入れるのが「部分入れ歯」です。部分入れ歯は残っている歯に「クラスプ」という金属のバネをかけて固定します。
編集部
入れ歯と比較した場合、インプラントにはどのようなメリットがありますか?
入江先生
入れ歯と比べてインプラントのメリットは、自分の歯があったときと同じぐらいしっかり食べ物が噛める点です。粘膜の上に乗っている入れ歯はギュッと噛むと沈んでしまうほか、あまり大きな力をかけると痛みが出たり、破損したりする恐れがあります。そのため、どんなに出来の良い入れ歯でも、自分の歯があるときの力を100とした場合、30ほどしか噛む力を回復できません。それに対してインプラントは、顎骨に埋め込んで骨で固定するため、硬い物でもしっかり噛むことができます。
編集部
では、インプラントと比較した場合の入れ歯のメリットを教えてください。
入江先生
抜歯以外に外科処置が必要ないため、治療による身体的な負担は入れ歯の方が少なくなります。費用面も保険適用外の入れ歯はそれなりに費用がかかりますが、保険適用であれば比較的安い費用で入れ歯を作ることができます。加えて、インプラントよりも治療期間が短いのも入れ歯のメリットです。
インプラントにするか、入れ歯にするか迷ったら? 選び方のポイント
編集部
インプラントか入れ歯か迷った場合に、選び方のポイントがあれば教えてください。
入江先生
費用面がクリアできるのであれば、見た目も噛み心地も自分の歯があったときと同じ状態に回復できるインプラントを基本的にはおすすめします。とはいえ、インプラントは外科手術が必要なことから「怖い」「できればやりたくない」と考える人もいらっしゃいます。その場合は、一度入れ歯を入れてみて、それからインプラントを検討してみるのも方法の1つでしょう。
編集部
先に入れ歯を入れて、その後にインプラントに変えることもできるのですか?
入江先生
はい。先に入れ歯を使ってみて、それで不自由でなければそのまま入れ歯でもいいし、やはり入れ歯は「無理」「しんどい」となったらインプラントにチェンジすることも可能です。入れ歯からインプラントへと回り道をする分、時間はかかってしまいますが、心理的には納得感が得られやすいでしょう。また、若い患者さんの中にはインプラントにしたくても費用面がネックとなって「今は入れられない」というケースも少なくありません。このように「今は無理だけど将来的にはインプラントにしたい」という場合に、とりあえず入れ歯を入れておく場合もあります。
編集部
入れ歯もインプラントも初めての場合は、先に入れ歯を試してみるのも良さそうです。
入江先生
そういう考え方もあっていいと思います。歯科医の視点ではインプラントをおすすめしたいところですが、それよりもまずは患者さんの意見やメンタル面を考慮して選択の幅を広げることが重要だと考えます。インプラントと入れ歯で迷った場合は、どの辺りで迷っているのかを担当医に伝えて、自分に合った治療の進め方を相談してみましょう。
高齢でもインプラントは大丈夫? インプラントを入れ歯に変えることは可能? インプラントを選ぶ場合に知っておきたいこと
編集部
インプラントか入れ歯かで悩むのは、どちらかというと高齢者が多いと思うのですが「年齢的にインプラントができない」というケースはないのですか?
入江先生
年齢はとくに関係ありません。高齢者でも全身疾患がなく、顎骨の状態が良ければインプラント治療は可能です。ただし、インプラントを選ぶ際、将来的に入院や介護が必要になった場合にメンテナンスをどうするかということを考えておくべきです。介護者にメンテナンスをお願いする場合、インプラントよりも、取り外しができる入れ歯の方がお手入れしやすいという利点があります。
編集部
そうなると、介護や寝たきりが心配な場合は「入れ歯」を選択した方がいいのでしょうか?
入江先生
仮にインプラントにする場合でも、いざというに備えて上部構造(人工歯)だけを外して、入れ歯に変えられるようにインプラントを設計することが可能です。将来的な介護や入院が心配な人はその旨を担当医と相談し、インプラントを入れ歯に変更できるような設計にしてもらうことも選択肢の1つとして考えてみるのもいいでしょう。
編集部
設計次第ではインプラントを後から入れ歯に変えることも可能なのですね。一方で、「インプラントにしたい」と希望してもインプラントにできないケースもあるのでしょうか?
入江先生
そうですね、インプラントにしたくてもできないケースはあります。例えば、ずっと昔に抜歯をして入れ歯を使っていた、あるいは何も入れずに放置していた場合に、骨の厚みが足りなくてインプラントにできないケースがあります。そのような場合でも「骨造成」という処置で骨を増すことはできますが、通常の治療よりも費用も時間もかかることから、断念する人も少なくありません。
編集部
そのほかに、インプラントができないケースはありますか?
入江先生
糖尿病や高血圧、心臓疾患などの持病があって検査の数値が悪い場合は、インプラント治療がおこなえません。このようなケースでは、まず医科での治療で病状をコントロールすることが優先されます。また、服用している薬の種類によっては、インプラントができない場合もあるため担当医によく確認しておきましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いいします。
入江先生
何らかの原因で歯を失った場合、自分の歯に最も近いという意味においてインプラントに勝るものはありません。しかし、「コスト的に厳しい」「手術が怖い」などの理由でインプラントにできない場合は、いったん入れ歯に寄り道してみるという選択肢があってもいいと思います。ゴールまでの道のりは少し長くなりますが、担当医と相談しながら自分にふさわしい治療を選択していきましょう。
編集部まとめ
インプラントと入れ歯にはそれぞれにメリットとデメリットがありますが、「自分の歯があったときと同じ状態に戻したい」いう場合にはインプラント一択となります。その一方で、インプラントは不安、あるいはインプラントにしたくてもできない場合は、担当医と相談しながら、治療の進め方を検討することが大切です。今回の記事を参考に、担当医と相談のうえ今の自分にふさわしい治療法を選んでいきましょう。
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