インプラント手術は1回法と2回法のどちらを選ぶ? 特徴や適応基準を歯科医が解説
インプラント手術には、手術が1回で終わる「1回法」と2回に分けておこなう「2回法」の2つの術式があります。どちらの術式を選択するかは、インプラントを埋入する部位の骨の量や状態によって異なります。今回はインプラント手術の1回法と2回法、それぞれの適応基準やメリット・デメリットなどを「小室歯科・矯正歯科近鉄あべのハルカス診療所」の小室先生に解説していただきました。
監修歯科医師:
小室 暁(小室歯科・矯正歯科近鉄あべのハルカス診療所)
目次 -INDEX-
インプラント手術が1回で済む「1回法」の流れとメリット・デメリット
編集部
インプラント手術の「1回法」とは、どのような術式なのでしょうか?
小室先生
1回法は文字通り、インプラント手術が1回で済む術式です。インプラントは、インプラント体(人工歯根)・アバットメント(連結部)・上部構造(人工歯)の3つのパーツで構成されます。一般にインプラント手術とは、「インプラント体」と呼ばれるチタン製の人工歯根を骨に埋め込む手術を意味します。その手術を1回で終わらせることができるのが1回法です。
編集部
1回法の簡単な流れを教えてください。
小室先生
1回法では、インプラント体を骨の中に埋入した後に連結部にあたるアバットメントを装着し、アバットメントが表に出た状態で歯ぐきを縫合します。ただし、このあたりはインプラント体の種類や形状によって多少の違いがあり、インプラント体の上部を表に出して縫合する場合もあります。手術後、インプラント体が骨にしっかり結合したら型取りをし、人工歯を作製、装着して治療は終了です。
編集部
インプラント手術の1回法には、どのようなメリットがありますか?
小室先生
一番のメリットは、手術が1回で済むので患者さんの身体的負担が少ないことです。また、状態がよければ手術をしたその日に仮歯が入るため、歯のない期間が「ない」もしくは「短い」というのも患者さんにとってはメリットだと思います。
編集部
では反対に、1回法のデメリットは何でしょうか?
小室先生
1回法はどんなケースでも適応できる術式ではなく、患者さんのお口の状態や骨の量によっては対応できない場合もあります。また、1回法ではインプラントの一部が露出した状態で歯ぐきを縫合するため、完全に歯ぐきを閉じてしまう2回法と比べると、術後の感染リスクは高いと言えるでしょう。
インプラント手術が2回必要な「2回法」の流れとメリット・デメリット
編集部
もう一方、インプラント手術の「2回法」とはどのような術式なのでしょうか?
小室先生
2回法はインプラント手術を2回にわけておこなう術式です。インプラント体を骨の中に埋入した後、もう一度歯ぐきを切開する処置(二次手術)が必要になります。
編集部
2回法の簡単な流れを教えてください。
小室先生
インプラント体を骨の中に埋入するまでは1回法と同じですが、2回法の場合はここでアバットメントは装着せず、開いた歯ぐきを完全に閉じてしまう点が1回法とは異なります。1回目の手術の後、インプラント体が骨と結合したら歯ぐきを少しだけ切開して、そこにアバットメントを装着します。これが2回目の手術(二次手術)です。2回目の手術後、切開した歯ぐきが綺麗に治ったら型取りをして、人工歯を作製・装着します。
編集部
インプラント手術の2回法には、どのようなメリットがありますか?
小室先生
ほとんどの症例で適応できるのが2回法のメリットです。また、インプラント体を埋入する1回目の手術で歯ぐきを完全に閉じてしまうので、1回法よりも術後の感染リスクが抑えられます。
編集部
では、2回法のデメリットにはどのようなものがありますか?
小室先生
手術を2回おこなう必要があるため、1回法と比べると患者さんの負担が大きいことや来院回数が増えてしまうことがデメリットとなります。
インプラント手術をするならどっち?「1回法」と「2回法」の違いや適応基準
編集部
インプラント手術の1回法と2回法は、どのように選ばれるのでしょうか?
小室先生
先ほどもお話ししたように、2回法は比較的どのケースにも適応できるのに対して、1回法は適応できるケースが限られます。したがって、1回法の条件に当てはまるケースは1回法、そうでない場合は2回法を選択するのが一般的です。
編集部
では、1回法が選べる具体的な条件について教えてください。
小室先生
インプラント体を埋め込む部分に十分な高さと厚み、硬さを維持した骨が残っていることが最大の条件です。骨が少ないケースでは骨を増やす「骨造成」という処置が必要となりますが、1回法でおこなうと術後の感染リスクが高く、予後が悪くなってしまう可能性はあります。したがって、骨造成を伴うケースは、感染リスクの少ない2回法を選択していきます。
編集部
ほかにも、1回法と2回法の選択基準はありますか?
小室先生
歯周病で歯を失った人や糖尿病の人など、お口の中で細菌に感染するリスクの高いケースについては、1回法よりも2回法の方が予後は安定しやすいでしょう。また、術前のCT検査で1回法が適応できると判断したケースでも、実際に手術をしてみると「想定以上に骨が柔らかい」などの理由で、2回法に変更される場合もあります。
編集部
1回法と2回法で、費用の差はあるのでしょうか?
小室先生
インプラントの治療費は歯科医院ごとに料金体系が異なるため、一概にどちらが安い・高いと断言するのは難しいのですが、一般的には2回法の方がやや高い傾向にあると言えます。また、2回法で骨量を増やす「骨造成」をおこなう場合は、その費用が別途かかってしまうため相対的に費用が高くなってしまいます。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
小室先生
インプラント手術の1回法・2回法にはそれぞれに適応の基準やメリット・デメリットがあります。患者さんの立場でみると手術が1回で済む1回法の方がメリットは大きいように思えますが、お口の状態によっては必ずしもそうではない場合もあるため注意が必要です。自身のケースはどちらの術式が適しているのか、まずは担当医によく相談してみましょう。メリット・デメリットの両方をしっかりと説明してくれる歯科医院だと、安心して治療に臨めるかと思います。
編集部まとめ
インプラント手術の1回法と2回法は、インプラント体を骨の中に埋入した後にもう一度手術をするのか、しないのかに違いがあるとのことでした。1回法は手術が1回で済む分、身体への負担が少ない一方で、「骨の厚みや高さが十分に残っている」という条件をクリアしないと選択することができません。骨の量が少ない・柔らかい、あるいはもともと細菌の感染リスクが高いケースでは1回法よりも2回法の方がメリットは大きいでしょう。どちらの術式を選ぶかについては詳しい検査の後、担当医とよく相談したうえで決定していきましょう。
医院情報
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診療科目 | 歯科、矯正歯科、歯科口腔外科 |