不正咬合や矯正後の後戻りを防ぐ「口腔筋機能療法(MFT)」とは?
歯並びは、遺伝だけでなく舌や唇、飲み込みの癖によっても影響を受けるということをご存知でしょうか。つまり、せっかく矯正治療をおこなっても、後天的な癖が原因で矯正後にも歯並びが乱れてしまったり、出っ歯や受け口などの「不正咬合」が生じたりする恐れもあります。このような癖は子どもだけでなく大人になっても残っていることがあり、長期的な歯の健康のためには改善したいところです。そこで今回は、矯正治療後の後戻りや不正咬合を予防する方法について、「松山矯正新宿御苑クリニック」の松山先生に解説していただきました。
監修歯科医師:
松山 仁昭(松山矯正歯科新宿御苑クリニック 院長)
奥羽大学歯学部卒業。奥羽大学大学院歯学研究科修了。その後、奥羽大学歯学部附属病院矯正歯科に勤務し、講座助手、臨床講師、講座講師、医局長を勤める。2016年、東京都新宿区に「松山矯正歯科新宿御苑クリニック」を開院。インフォームドコンセントを重視して、患者が安心・安全に治療を受けられるよう心がけている。歯学博士。日本矯正歯科学会指導医・認定医。日本成人矯正歯科学会、日本口蓋裂学会、日本顎変形症学会、東京矯正歯科学会、東北矯正歯科学会の各会員。
目次 -INDEX-
口腔筋機能療法(MFT)とは
編集部
歯並びは遺伝によるものだけではないと聞きましたが、本当ですか?
松山先生
はい。歯並びや噛み合わせは、必ずしも遺伝によって全て決まるわけではありません。飲み込みの仕方や舌の動かし方などの後天的な癖による影響も大きいと言われています。つまり、遺伝的要因と環境的要因が合わさって歯列が決まり、それらが悪いと不正咬合の原因になるとも考えられています。
編集部
遺伝はどうすることもできないですよね?
松山先生
たしかにそうですが、もう一方の環境的要因は訓練によって改善することができます。そこでよく用いられているのが、「MFT(口腔筋機能療法)」という口の筋肉のバランスを整えて機能不全を改善する訓練です。
編集部
MFTをおこなうことで、どのような効果が期待できるのでしょうか?
松山先生
口周りの筋肉の機能を改善させて、歯並びを正常な形態に保つための環境を整えることができます。また、唇と舌を正常な位置に改善することで、歯列に対する筋肉の圧力を整える効果も期待できるのです。
MFTの適応
編集部
MFTを受けた方がいいケースを教えてください。
松山先生
様々なケースが考えられますが、飲み込む際に舌が突出してしまう「舌突出癖」や、正常な位置よりも舌が下がってしまう「低位舌」などの癖がある人におすすめです。
編集部
なぜでしょうか?
松山先生
不正咬合や矯正後の後戻りなどのリスクがあるからです。本来、外側からの上顎が押す力と内側から舌が押す力とのバランスが整っている「ニュートラルゾーン」という位置に歯が並ぶようになっています。しかし、舌突出癖や低位舌の場合、力のバランスが崩れてしまうため、歯並びが悪くなってしまうのです。このように、歯並びと口の周りの筋肉は密接に関わっています。
編集部
舌の力は、歯を動かしてしまうほど強力なのですね。
松山先生
はい。舌の圧力はかなり強く、上唇の圧力の2倍とも言われています。そのため、舌癖がある場合は、矯正治療後にもしっかりトレーニングをおこなわないと歯並びが再び乱れてしまうことがあるのです。実際に私が治療させていただいた成人の患者さんでも、歯の移動終了に向けてトレーニングをしっかりおこなえず、後戻り防止中に下の歯が1本前に出てきてしまったケースがありました。しかし、再び訓練をやっていただいたことで癖が改善できて、出てきた歯も正常な位置に戻すことができました。このようにMFTでは癖の改善だけでなく、矯正後の歯列の後戻りを防ぐことも可能なのです。
編集部
MFTは何歳頃におこなうのがベストですか?
松山先生
小児期までにおこなった方が効果は出やすいです。成人になってしまうと、幼少期から続く長年の癖を改善するのに時間がかかってしまうこともあるかもしれません。ただし、前述したように、成人でもしっかりとトレーニングを実践すれば改善することはできます。
MFTの内容
編集部
MFTの具体的なトレーニング内容にはどのようなものがありますか?
松山先生
様々な種類があり、全てを紹介することはできませんが、例えば「口唇の練習」や「噛む練習」、「舌の位置を覚える練習」などがあります。口唇の練習であれば、風船を膨らませたり口笛を吹いたりしてストレッチをします。噛む練習では、奥歯・前歯でそれぞれ噛めるように訓練し、舌の位置を覚える練習では飲み込みなどについて指導しています。ただし、このようなトレーニング方法は一律に決まっているわけではなく、患者さんの口の中の状態や癖に応じて、それぞれを組み合わせておこなっていただきます。
編集部
トレーニングは、歯科医院でおこなうのでしょうか?
松山先生
歯科医院で指導しながら練習してもらい、自宅で実践していただきます。また、自宅でもやり方を確認できるように、トレーニング方法についてのイラストが描かれた冊子をお渡ししたり、動画を見ていただいたりするといった工夫をしている歯科医院もあります。
編集部
自宅でトレーニングをする際、注意点はありますか?
松山先生
ご本人のモチベーションを保つことが大切です。お子さんの場合、親御さんと一緒にやっていただくと思いますが、できたことを褒めてあげるようにしてくださいね。また、お子さんであっても、「MFTをやることでどのような効果が期待できるのか」、「やらないとどんなリスクがあるか」を説明するべきだと考えます。MFTをやる意味を理解してもらうことで、モチベーションの向上につながるでしょう。加えて、無理強いしないように、楽しい雰囲気でおこなうのもポイントです。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
松山先生
MFTは、矯正治療の補助的な手段として用いられています。不正咬合の予防や綺麗に並んだ歯並びを保つためには、非常に効果的な訓練と言えるでしょう。そのため、MFTをやるかやらないかで歯列の状態に大きな差が生じることも考えられます。ただし、MFTはあくまでトレーニングなので、継続しなければ効果は期待できません。習慣にすることは大変かもしれませんが、頑張って継続してほしいと思います。
編集部まとめ
舌や唇などの癖が歯列の乱れや不正咬合の原因になるとのことでした。しかし、MFTを継続することによって癖を改善し、不正咬合の予防や正しい歯列に導くことが可能です。また、今回紹介した癖は子どもだけでなく、大人になっても残っていることがあります。MFTは小児期から取り入れることが推奨されていますが、何歳でも遅いということはないはずです。不正咬合や矯正後の後戻りを予防したいと考えている場合には、まずは歯科医師に相談してみてはいかがでしょうか。
医院情報
所在地 | 〒160-0022 東京都新宿区新宿1-14-10 松山ビル3F |
アクセス | 東京メトロ「新宿御苑駅」 徒歩2分 東京メトロ「新宿3丁目駅」 徒歩6分 JR「新宿駅」 徒歩13分 |
診療科目 | 矯正歯科 |