歯科矯正をはじめるタイミングに「最適解」はあるのか?
子どもの歯科矯正と比べて「大人になってからの歯科矯正は難しい」とする説をみかけます。その「子ども」や「大人」とはなん歳のことなのでしょう。また、治療可能な年齢上限はあるのでしょうか。矯正治療と年齢の関係について「原田歯科クリニック」の原田先生を取材しました。
監修歯科医師:
原田 幹夫(原田歯科クリニック 院長)
東京医科歯科大学歯学部卒業。歯科勤務を経た1987年、千葉県千葉市に「原田歯科クリニック」開院。1989年には、医療法人の理事長就任。「人々を美しく健康で幸せにすること」をミッションに掲げている。国際口腔インプラント学会認定医、日本アンチエイジング歯科学会認定医。日本アライナー(マウスピース)矯正研究会会員。
意外と早い、歯科矯正上の大人区分
編集部
歯の矯正治療に、「はじめ時」というタイミングはあるのでしょうか?
原田先生
小学校の高学年以上になったら、時期による大きな違いはないと思います。そのぐらいから顎の成長がほぼ落ち着くので、それ以降にできることは変わりません。ただ、成人に近づくほど骨が硬くなるので、治療期間は長くなることはあります。ですから、費用面を含めて患者さんが「よし、はじめよう」と思い立ったタイミングがはじめ時でしょう。
編集部
歯の矯正治療は自費ですし、やはり「費用」が切り口になりそうです。
原田先生
一般に歯科矯正治療には60万~120万円ほどかかります。お子さんなら親の判断が挟まるでしょうし、大人の方なら自己負担の覚悟が必要でしょう。ぜひ、複数の矯正歯科で説明を受けて、自分自身に必要性があるのかどうかも検討してみてください。 “現状確認”は、治療と切り離してでも受けるべきだと思います。
編集部
その一方、小学校高学年未満の子どもには、「一期矯正」という概念がありますよね?
原田先生
はい。永久歯に生え替わるタイミングで、「顎の適切なスペースづくりをしていきましょう」という治療です。歯の数に対してスペースが狭いと、いわゆるガチャ歯や八重歯などを生じさせてしまうかもしれません。よって、現在の歯列に不都合がなかったとしても「一期矯正が必要」とするドクターはいらっしゃいます。他方で、抜歯すればスペースを確保できるから「不要」とする考え方もあり、統一されていない印象です。
編集部
乳歯の段階で歯列が乱れていたら、「一期矯正」を受けるべきでしょうか?
原田先生
スペース不足が明らかだったら「一期矯正」を受けたほうがいいでしょうね。ほか、注意すべきは「受け口」です。下顎は、上顎がかぶさって歯止めをしていないと、上顎の約2倍のスピードで突出していきます。ぜひ、早めに治療を開始しましょう。また、スペースの問題ではなく、例えば指しゃぶりの影響だとしても、歯科医院でのチェックを挟みたいですね。指の圧で上顎の骨格が曲がっているかもしれません。
個々にあるはじめ時
編集部
総じて、矯正治療のはじめ時は、歯科医師の見立てによっても自分の症状によっても違ってくるのでしょうか?
原田先生
はい。矯正治療のはじめ時は、一律に決まっていない印象です。もちろん原則として、顎の成長が止まるより前にはじめたほうが、「楽といえば楽」でしょう。ただし、本当に矯正治療が必要かどうかですよね。なお、この考え方には審美を含めません。「見た目」のお悩みなら、困っている時がはじめ時です。
編集部
まずは、複数の歯科医師の意見を聞くところから必要ですね。
原田先生
それが結論ということでいいと思います。ぜひ、治療と切り離して、正しい情報をたくさん仕入れてください。“情報収集のはじめ時”なら、「今、この瞬間から」です。その際、インターネットに限らず、「歯科医師の生の声」を聞きましょう。最新の治療方法がアップデートされているかもしれませんし、サイトに載っている治療方法がやれることの全てとも限りません。
編集部
いろいろな意見を聞くと、かえって迷いそうです。
原田先生
小学校の高学年以上になったら「いつでも一緒」なので、あせる必要はありません。ただし、結婚式などのイベントに間に合わせたい場合は、個々にリミットがあると思います。間に合わせたいがために「無理な選択をしていないか」を慎重に判断してください。
編集部
そういう、外部要因的な“はじめ時”もあるのですね。
原田先生
問題は、イベントまでの時間が短くて、「100%にしたいところを70~80%」で済ませるケースでしょう。この前提なら、脱着可能なマウスピース型の矯正治療が向いているかもしれませんね。イベント後の治療再開も容易です。一方、1度外したワイヤーを再度はめる手間は、初診とほぼ変わりません。
適応上限と保険適用症例
編集部
最後は、矯正治療の年齢上限についてです。
原田先生
医学的な上限はありません。原則として、あらゆる年齢で矯正治療をはじめられます。ただし、加齢や歯周病などで顎の骨がやせてきていると、無理はできないですね。加えて、矯正治療を終えるまでの期間や、矯正治療の恩恵を受けられる年数、端的に言えば「寿命」も関係してくるでしょう。
編集部
年齢上限にも「一律の正解」はないのでしょうか?
原田先生
あらゆる治療に「一律な正解」はありません。その方の生まれもった状態や病状、日々の過ごし方は、個々に異なりますからね。また、残っている歯の本数によっては、矯正装置が支えられないので、難しくなります。まずは、お気軽にご相談いただいて、「なにができて、なにができないのか」を話し合いましょう。
編集部
念のためですが、絶対に「今やっておいたほうがいい」という症状と年齢があれば教えてください。
原田先生
原則として自費の矯正治療ですが、保険適用の症例が2例あります。「国が必要を認めている」ことになりますので、診断がつき次第、矯正治療を受けてみてはいかがでしょうか。保険適用の2例とは、くちびるに割れ目が生じている「唇顎口蓋裂」(しんがくこうがいれつ)と、上下の顎のどちらか大きくずれている「顎変形症」です。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
原田先生
総じて、矯正治療のはじめどきは、「やりたいと思ったとき」になるでしょう。ただし、現状確認や治療プランの説明を受けるのは、「今、このときから」です。その際、該当歯科医院のサイトに載っている情報は限定的ですので、歯科医師と会って相談してください。
編集部まとめ
保険適用の例外を除くと、矯正治療のはじめ時に正解はないとのことでした。ただし、小児の「一期矯正」に限り、受けられる期間は決まっています。永久歯へと生え替わるタイミングまでです。この時期の小児矯正では、抜歯か非抜歯かという選択を迫られるものの、まずは、歯と顎の様子を診てもらいましょう。矯正治療は自費なので、歯科医師による考え方の違いが重要になりそうです。できれば、セカンドオピニオンを受けてみてください。
医院情報
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診療科目 | 歯科 |