インプラントの寿命はどれくらい? 再手術しないために知っておきたい知識を歯科医師が解説
「インプラント治療をしたら再手術が必要になった」という話を聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。たしかに、再手術になる場合もありますが、事前に知識を持っておけばそのような事態を防ぐことはできます。今回はインプラント治療を考えている人が知っておきたい基礎知識について、「グランプロデンタルクリニック銀座」の福島先生にお聞きしました。
監修医師:
福島 一隆(グランプロデンタルクリニック銀座 院長)
東京医科歯科大学歯学部卒業。2013年、東京都中央区に「銀座トリニティデンタルクリニック」を開院。2020年、「グランプロデンタルクリニック銀座」へ医院名を変更。現在は噛み合わせの回復・改善のために、顎関節・歯周病・矯正・インプラント・審美歯科を融合した総合歯科診療をおこなっている。メディア出演歴多数。日本口腔インプラント学会、日本歯科審美学会、日本抗加齢医学会、日本アンチエイジング歯科学会、日本歯周病学会の各会員。
「インプラント治療」の基礎知識
編集部
まず、インプラント治療について、解説をお願いします。
福島先生
歯科におけるインプラント治療とは、歯を欠損した箇所の骨に人工歯根を埋め込んで、人工歯をその上に装着する治療法です。インプラント治療をすることで、失った歯を取り戻し、噛み合わせと見た目の回復を目指します。
編集部
歯を失った場合に、差し歯をすることがありますよね。それとはどう違うのですか?
福島先生
簡単に言えば、差し歯は歯根が残っている人に対しておこなう治療です。差し歯の場合は、残存している歯根に芯を入れて、その上に被せ物を装着します。歯根が残っている場合は活用したいので、まずは差し歯で治療を進めるのが一般的です。他方、インプラントは歯根が残っていない人に対しても施すことができます。根っこから歯を失っている場合でも、顎の骨に人工歯根を植えるため、歯を完全に失った人でも治療できるのが特徴です。
編集部
インプラント治療には、どのようなメリットがあるのですか?
福島先生
人工歯根を植えつけるため、自分の歯と同じように咀嚼(そしゃく)できるのが一番のメリットだと思います。噛む機能の回復度合いは、入れ歯の場合で3割くらいと言われていますが、インプラントだと10割近く回復します。また、入れ歯だとゴマやイチゴなどを食べたときに、小さい粒が、入れ歯と歯肉の隙間に挟まって痛みが生じることもありますが、インプラントはそのような心配がありません。「硬いものを思い切り噛めない」、「食べられるものが限られている」という入れ歯のデメリットも、インプラントであれば安心して食事が楽しめます。
編集部
ほかには、どのようなメリットがあるのですか?
福島先生
ブリッジとは違って、ほかの歯を削らないで済む点もメリットとして挙げられます。隣の健康な歯への負担が少なくなるので、全体的な歯の寿命にもつながるのです。あとは、しっかりと計画を立てた上で治療すれば、再治療が最小限で済みます。ケースバイケースではありますが、治療後の通院はメインテナンスのみで大丈夫な場合もあります。
「インプラントの寿命」は?
編集部
反対にインプラントのデメリットはありますか?
福島先生
保険適用外となるので、保険適用の入れ歯に比べて費用がかかってしまう点でしょうか。ただし、先述したように治療をやり直す必要がほとんどなくなることを考慮すれば、入れ歯よりもインプラントの方が長い目で見たときの費用を抑えられると考えることもできます。
編集部
医院によって、インプラント治療の差が出ることはありますか?
福島先生
あり得ると思います。インプラント治療はプランニングが複雑であり、噛み合わせや歯周病、顎関節など、様々な要因を組み込んで計画を立てなければなりません。そのため、担当する歯科医師の技量に大きく左右されるということも、インプラント治療の注意点です。
編集部
実際、何年くらい長持ちするのですか?
福島先生
現在とほぼ同様の形状をしたインプラント治療が始まってから、50年以上が経過しました。その間に少しずつ進化しながら現在に至り、その歴史の中でわかったことが色々な文献で報告されています。全てのインプラントに当てはまることではないかもしれませんが、私が使用しているインプラントに関しては「治療後に口腔内で機能している率は、10年で98%、20年で93%」というデータがあります。今後、さらに長期に渡った報告も出てくると思いますし、さらにメーカーの製作技術も日々進歩しているので、これからどんどん寿命が伸びるのではないでしょうか。
編集部
では、基本的に再手術の可能性はほとんどないということでしょうか?
福島先生
たしかに、再手術のリスクはとても低いのですが、メインテナンスが不十分だったことで「インプラント周囲炎」になってしまった場合は、再手術が必要なこともあります。インプラント周囲炎は、いわばインプラントが歯周病になった状態です。ただし、普通の歯も歯磨きを怠れば歯周病になりますよね。それと同じで、インプラントも基本的なメインテナンスをすることが、インプラント周囲炎のリスクを最小に抑えるためにも大切です。あとは、インプラント本体が折れることによる再手術が考えられますが、実際はかなり少数です。
インプラントを長持ちさせるためには?
編集部
インプラントを長持ちさせるためには、どのような点に気をつけたらいいのでしょうか?
福島先生
大切なことなので繰り返えさせていただきますが、まずは治療計画をしっかり立てることです。それから、治療後はメインテナンスのために最低でも3カ月に一度は通院して、定期的に状態を確認してもらいましょう。
編集部
そのほか、生活習慣で気をつけることはありますか?
福島先生
歯ぎしりや食いしばり、喫煙、飲酒もインプラントの寿命を短くする原因になります。歯ぎしりや食いしばりは、睡眠中に自分では気づかなくても起きていることがあります。そのため、睡眠中にマウスピースを着用することも改善に役立つでしょう。
編集部
万が一、インプラントが再手術になった場合、保証はあるのでしょうか?
福島先生
保証制度の有無についてはクリニックによって異なるので、治療を検討する段階でしっかり確認しておきましょう。インプラント周囲炎のほかにインプラント自体が破損して再手術になると先ほど説明しましたが、この場合は「人工歯を作り直す」、あるいは「欠けた部分を修復する」といった対処が必要になります。ただし、そうした場合も保証がきくのかを事前に確認しておくと安心感につながるでしょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
福島先生
インプラント治療は外科治療もおこないますが、咀嚼や機能回復を目的とした補綴(ほてつ)治療の一種です。そのため、外科や審美的な面だけを重視するのではなく、噛み合わせなどの機能を考慮して治療をしてくれる歯科医師を選ぶのが理想的です。また、インプラント治療は歯科医師の知識・経験・技術が大きく成否を分けます。初診時のカウンセリングでは、実際の自分と同じような患者さんの症例を見せてもらったり、歯周病や噛み合わせ、顎骨の状態など様々な事を多角的にしっかりと診る検査をおこなっているかを聞いたりすることも、クリニックを選ぶうえで重要です。
編集部まとめ
どの治療にも言えることですが、治療で満足のいく結果を出すためには、患者側が主体性を持って治療に取り組むことです。歯科医師任せにせず、こまめにコミュニケーションを取り、疑問や不安を解消しておくといった積極的な取り組みが必要です。今回のテーマであるインプラント治療に限って言うと、プランニングの時点で十分な説明がなされているかが1つのポイントになりそうです。
医院情報
所在地 | 〒104-0061 東京都中央区銀座2丁目10-11 マロニエ通り銀座館 4F |
アクセス | 東京メトロ有楽町線「銀座一丁目駅」 徒歩2分 東京メトロ銀座線・丸ノ内線・日比谷線「銀座駅」 徒歩6分 |
診療科目 | 歯科 |