目立たない部分入れ歯「ノンクラスプデンチャー」が向いているケースと向いていないケース
目立たない部分入れ歯として、多くの人が活用しているノンクラスプデンチャー。一般的な入れ歯と違って金属製のバネがないため、装着しているのがわかりにくく、見た目を気にする人に選ばれています。しかしその一方、入れ歯の機能やメンテナンスの観点では注意しなければならないこともあるようです。一体、ノンクラスプデンチャーが適しているのはどのようなケースなのでしょうか。木村歯科医院の木村卓哉先生に教えてもらいました。
監修医師:
木村 卓哉(木村歯科 院長)
1995年大阪歯科大学卒業、その後、大阪歯科大学欠損歯列補綴咬合学講座所属。神戸の地で開業して40年以上になる木村歯科の院長に就任し、専門分野である補綴修復に注力。治療後の定期的なメンテナンスによって、治療箇所、さらには口腔全体を長期的に健やかに保つことを心掛けている。その他、審美歯科(補綴修復治療)、矯正歯科、インプラント治療なども行う。丁寧でわかりやすいカウンセリングと双方向のコミュニケーションを心がけ、機能性や審美性だけでなく、噛み合わせも念頭に置いた「総合治療」を提供している。
目立たない部分入れ歯「ノンクラスプデンチャー」
編集部
ノンクラスプデンチャーとはなんですか?
木村先生
簡単にいえば、部分入れ歯の一種です。クラスプとはバネ(留め金)の意味であるため、ノンクラスプデンチャーとは「金属製のバネがない入れ歯」ということです。最近では「目立たない入れ歯」と言われることも多いですね。
編集部
ノンクラスプデンチャーは、部分入れ歯の一種なのですね。通常の、金属製のバネがある入れ歯とどう違うのですか?
木村先生
通常の入れ歯は、金属製のバネを残存している歯に引っ掛けて固定します。しかしそれだとバネが目立ってしまい、「入れ歯をするようになってから、人前で笑ったり、話したりするのが苦手になった」という人も少なくありません。それを解決できるのがノンクラスプデンチャーです。すなわち、ノンクラスプデンチャーは見た目に金属バネがないので、入れ歯と気づかれにくく、審美的な不満を解消することができるのです。
編集部
バネがなくて、どのように口のなかで固定するのですか?
木村先生
じつは、ノンクラスプデンチャーは「バネがない」のではなく、「金属製のバネがない」という意味であり、金属バネの代わりに歯ぐきと同じピンク色の樹脂が口のなかで固定しています。
編集部
金属バネを使っていないということで「目立ちにくい」という点のほか、メリットはありますか?
木村先生
金属を使っていないので、金属アレルギーの方でも安心して使っていただけるというメリットがあります。
ノンクラスプデンチャーのデメリットとは?
編集部
ノンクラスプデンチャーのメリットはよくわかりました。それでは反対に、デメリットはなんですか?
木村先生
そもそもクラスプには、「維持」「把持(はじ)」「支持」という3つの役割があります。維持とは、噛んだときに入れ歯がはずれないようにする作用、把持とは噛んだ時の横揺れから守る作用、支持とは噛んだときに入れ歯が沈み込むのを防ぎ、歯ぐきや骨へ負担をかけないようにする作用のことです。この3つの作用により、入れ歯はきちんと口のなかで固定され、噛むときにもずれないようになっているのですが、そもそもノンクラスプデンチャーではこのクラスプがないため、3つの作用を果たすことが難しいのです。
編集部
もう少し、詳しく教えてください。
木村先生
たとえば、「支持」の作用について、金属製のバネがついた入れ歯とノンクラスプデンチャーを比較してみましょう。バネがついた入れ歯の場合は「レスト」といって、噛んだときに義歯が下へ沈んでしまうのを防ぐ金属製の装置がついています。しかしノンクラスプデンチャーの場合は、基本的にレストをつけることができません。そのため、噛むたびに歯が下へ沈みやすくなり、骨が下へ食い込んでしまう、というリスクがあります。
編集部
なるほど。同じように、ノンクラスプデンチャーでは維持や把持の作用も行われないのですね。
木村先生
そうです。そのためノンクラスプデンチャーでは、噛んだり強い力がかかったりしたときに、ずれたり、はずれたりしやすくなります。
編集部
ほかにもノンクラスプデンチャーの注意点はありますか?
木村先生
素材自体の耐久性がそれほど高くないので、繰り返し装着していると、ピンク色の樹脂の部分が割れたり、削れたり、緩くなったりしてしまうことがあります。しかし従来の入れ歯なら大抵の場合、修理することができるのですが、ノンクラスプデンチャーの場合はほとんど修理することができません。そのため、従来の入れ歯に比べて作り直しになる間隔が短くなる、と言えるでしょう。
ノンクラスプデンチャーが適しているケースとは?
編集部
それでは、ノンクラスプデンチャーが適しているケースとは、どのようなものでしょうか?
木村先生
たとえば、前歯を1本だけ部分入れ歯にしたいという場合は、ノンクラスプデンチャーが良いでしょう。前歯は審美的にとても重要な部位ですから、金属製のバネを使った入れ歯に比べて、見た目がきれいに仕上がります。ただし、あまり本数が多いと入れ歯や周辺の歯に対する負荷が大きくなるので、入れ歯にするのは1本、せいぜい2本にとどめておきましょう。
編集部
前歯が欠損した場合、部分入れ歯以外に選択肢はあるのですか?
木村先生
ブリッジやインプラントがあります。しかしブリッジは健康な歯を削らなくてはなりませんし、インプラントは外科手術になるため、「どちらも避けたい」という方もいるでしょう。その場合は、ノンクラスプデンチャーを使用しても良いのではないかと思います。
編集部
ノンクラスプデンチャーを長く使用するために、気をつけるべきポイントはありますか?
木村先生
食後と就寝前には必ず洗浄を行うことを心がけましょう。その際には水を流しながら、柔らかい歯ブラシや綿棒で丁寧に汚れを洗い落とし、義歯洗浄剤の中に浸します。また、カレーやコーヒー、ワインなど着色しやすいものを飲食したときには、色あせを防ぐため、早めに洗うようにしましょう。
編集部
最後にメッセージをお願いします。
木村先生
ノンクラスプデンチャーは見た目が美しく仕上がるとして、近年、人気の部分入れ歯です。しかしその一方、適応範囲が狭く、耐久性やメンテナンスの面では、従来の、金属製のバネがついた部分入れ歯に軍配が上がります。しかし、前歯の1本だけ部分入れ歯にしたいというようなケースには、ノンクラスプデンチャーが適していますし、ほかにも口腔内の状態によっては、ノンクラスプデンチャーでも対応できることがあるかもしれません。これから部分入れ歯を作る方は、歯科医師とじっくり相談すると良いと思います。
編集部まとめ
入れ歯にも樹脂を使ったものや金属を使ったものなど、さまざまな種類があります。それぞれ特徴や長所、短所が異なるので、入れ歯を作る時には、自分のケースにぴったりなものを選ぶことが大切です。入れ歯は長い期間、毎日使うものですから、できる限りストレスの少ないものを選びましょう。
医院情報
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診療科目 | 一般歯科、予防歯科、審美歯科、インプラント |