子どもの歯並び、自然に正しく成長させることってできますか?
歯の矯正治療がなかった時代、人類の歯並びはガタガタだったのでしょうか。おそらく“そうではなかった”ことを考えると、生活習慣や環境要因が歯並びに大きく関わっていそうです。親が子どもにしてあげられることはなんなのか。「長谷川みらい歯科・矯正歯科」の長谷川先生が解説します。
監修医師:
長谷川 雄一(長谷川みらい歯科・矯正歯科 院長)
舌の力の総量は、1日延べで500kgにも
編集部
歯並びの乱れって、遺伝的なものなのでしょうか?
長谷川先生
遺伝的要因もありますが、成長・発育に関わる「後天的要因」のほうが大きいと考えます。なかでも私が注目しているのは、「舌の機能と位置」ですね。13歳くらいまでのお子さんなら、「舌が適正な歯並びをつくっている」と言ってもいいと思います。
編集部
「舌」ですか? 意外です。
長谷川先生
正確には、「舌の力によって、顎が正しい方向に広げられている」と言うべきでしょうか。本来なら、口を閉じているとき、舌は上顎にくっついています。ところが昨今、口呼吸の顕著な「口をポカンと開けているお子さん」が散見されています。舌は、口が開いた状態だと、下顎にくっつきますよね。そうなると、顎は下の方向に成長するので、出っ歯の子や笑うと歯ぐきの露出する子が増えていると考えられます。
編集部
正直、舌に顎を動かすほどの力はないように思います。
長谷川先生
例えば矯正治療でかける力は、数gから大きくてもせいぜい200g程度とされています。一方、舌がもつ力は、通常で500g、ものを飲み込むときには900gにも及びます。しかも、食事に限らず、唾液などを無意識に飲み込んでいる回数も含めると、「1日約600回」押し続けているのです。
編集部
治療よりも強い力で矯正しているようなものですね?
長谷川先生
歯列や顎の位置異常といったいわゆる歯列不正の症例を追っていくと、どうやら、その原因として考えられるのが「舌の機能や力」なのではないかと。加えて、変な飲み込みかたをするお子さんは、唇から頬の筋肉を緊張させます。この力って、内側に締めつける動きですよね。なおのこと顎が成長していきませんし、歯列の乱れも生じてきます。
人生の岐路は、母乳保育の時代までさかのぼる
編集部
ところで、正しい飲み込み方って、教わるものでしたっけ?
長谷川先生
母乳から離乳食、普通食へと変わっていく時期に、かまなくていい食事が多いと、「よく噛んで飲み込む」という一連の動作を習得できません。例えば水を飲むとき、舌の位置は下にありますよね。本来の「固形物を噛んで飲み込む」動作なら、舌の位置は上にないといけません。
編集部
液体の母乳の時代は、舌が下でもやむなしなのでしょうか?
長谷川先生
母乳を与えているときの赤ちゃんは、吸っておらず、「顎で噛みながら舌を使って飲み込んで」います。ところが、ミルクの出やすい哺乳瓶やストローなどを多用していると、吸うクセがつきかねません。そこで、吸い口の形状を工夫した哺乳瓶などが登場してきました。より「自然な形」に近い構造をしています。
編集部
生まれた直後から、舌の上下が決まっていくということですか?
長谷川先生
はい。そして、舌が下のお子さんは、「口ポカン」になりやすいのです。顎が下に向かって成長していくわけですからね。さらに言うと、鼻呼吸が会得できず、口呼吸になりがちです。口呼吸は楽な反面、肺などの呼吸器の発育を妨げます。その結果として最も怖いのは、呼吸器が十分に育っていないことによる「睡眠中の呼吸障害」でしょう。脳が酸素不足になり、発達障害や知能指数の低下へ至ることもあります。
舌や口周りの筋肉が矯正装置になってくれる
編集部
舌に注目した矯正って、いつごろからはじめるものなのでしょう?
長谷川先生
こちらの言っていることを理解してもらう必要がありますので、目安としては、6歳前後になるでしょうか。もし関心があるなら、「マイオブレース矯正」などのキーワードで検索してみてください。最寄りで取り扱っている医療期間を見つけることができるでしょう。逆に13歳前後を過ぎると、この治療の効果が弱くなってしまいます。
編集部
マイオブレース矯正の費用体系って決まっているのですか?
長谷川先生
保険の認められていない自費診療なので、医院により異なってくるでしょう。症状にもより、35万円から60万円ほどの差があると思います。ただし、この時期に正しい機能を身につければ、「子どもの歯並びを自然に成長させる」ことが可能です。
編集部
まさに、「舌が適正な歯並びをつくっている」と?
長谷川先生
はい。舌と歯列は、相互に関係しています。よい歯並びを“見た目上”つくったとしても、舌の機能が伴っていないと、やがて後戻りしてしまうでしょう。他方、舌や頬が正しく機能すれば、後戻りを防ぐ「リテーナー」の代わりになってくれます。加えて、口呼吸の問題も解決しているはずです。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
長谷川先生
マイオブレース矯正に限らず、歯の矯正とお口の機能を“セット”で考えられている小児矯正の先生は、少なからずいらっしゃると思います。要は、「歯列の形・歯並び」だけを整えるのではなく、お子さんのクセや成長にも向かい合っていこうということです。そうした医療機関で、一度、詳しい話を聞いてみてはいかがでしょうか。
編集部まとめ
タイトルの「自然に」には、「なにもしないで」という意味と、「人工的な手を加えないで」という意味があります。ところが、便利な現代社会は、この後者である「人工的な手を加えないで」を妨げているのかもしれません。体に優しい食事とはなんなのか、本来の機能を使わないことでどのような弊害が起きるのか、ぜひ、ご家族やパートナーと話しあってみてください。
医院情報
所在地 | 〒329-1105 栃木県宇都宮市中岡本町3710-94 |
アクセス | 宇都宮駅より車で16分 |
診療科目 | 一般歯科、矯正歯科 |