インプラントをダメにしないで、長持ちさせるメインテナンス方法ってあるの?
「インプラントの人工歯」と「天然歯」で、お手入れするうえでの違いはあるのでしょうか。「うすい歯科医院」の薄井先生によると、両者の形は微妙に異なり、インプラントならではのメインテナンス方法が存在するとのこと。また、顎に悪いクセを是正することも大切だと言います。詳しい話を伺いました。
監修歯科医師:
薄井 隆(うすい歯科医院 院長)
奥羽大学歯学部卒業。奥羽大学保存科第2医局入局を経た2000年、福島県郡山市内に「うすい歯科医院」開院。生まれ育った地元で、「自分が患者だったらこんな歯医者に通いたい」をモットーとし、地域医療に努めている。日本歯内療法学会、日本歯周病学会、日本先進インプラント医療学会、米国インプラント学会(AAID)の各会員。メディア出演・執筆歴数。
歯科医師のオススメは音波歯ブラシ
編集部
むし歯にならない人工歯とはいえ、インプラントにもお手入れが必要なんですよね?
薄井先生
そのとおりです。インプラントの根元は天然歯と比べて“細い”ため、歯茎のくぼみに汚れがたまりやすいのです。丁寧なブラッシングを欠くと、インプラント周囲炎になりかねません。インプラント周囲炎とは、インプラント周りの組織で炎症が起きインプラントが歯周病と同じような状態になることです。
編集部
どうやってお手入れをしたらいいのでしょう? 普通の歯みがきとは違うのですか?
薄井先生
当院では「音波歯ブラシ」を使っていただくようアドバイスしています。音波の振動により、通常の電動歯ブラシよりも効果的にプラークなどを取り除けます。水だけを吹きつけるタイプのお手入れグッズもありますが、やはり、物理的に磨きたいですよね。それでも100%予防できるとは限りませんので、定期的な検診を受けてください。
編集部
歯間ブラシなどでは不十分なのですか?
薄井先生
タフトブラシや歯間ブラシでは、インプラントのくぼみになかなか入っていかないのです。お手入れグッズの多くは天然歯を想定していますので、やはり、音波の力を借りたいところですね。当院の経験則からしても効果的です。
編集部
ほか、自宅でできることはありますか?
薄井先生
歯ぎしりや食いしばりといったクセをお持ちの方は、ぜひ、この機に是正してください。インプラントに必要以上の力がかかるため、埋入した部分の骨を圧壊しかねません。リスクとしては、インプラント周囲炎症よりも高いくらいです。なお、歯ぎしりや食いしばりをしているかどうかは、歯のすり減り具合や歯茎の状態から判断できます。
編集部
クセは自覚が難しいと思いますが、治せるのでしょうか?
薄井先生
まずは、時間をかけてでも自覚していただくことですね。加えて、必要により、就寝時にマウスピースを装着していただきます。ちなみに、食事をするときに“かむ”程度の力なら、骨の圧壊は起こりません。歯ぎしりや食いしばりの力は、ものすごく強いのです。また、天然歯には「歯根膜」というクッション剤があるのですが、インプラントにはありません。顎の骨にピッタリくっついている分、衝撃を受けやすくなっています。
編集部
ほか、食べ物などの注意点があったらお願いします。
薄井先生
インプラントにダメな食べ物は、基本的にありません。もし、インターネット上に書かれているとしたら、かなり情報が古いか、思い込みの類いだと思われます。ただし、歯そのものに悪い食べ物はいくつかあります。例えば大量のお酢や黒酢には、歯を溶かす効果があります。糖分の多い食べ物も、むし歯や歯周病の原因になりますよね。
プロによるメインテナンスも大切
編集部
定期検診では、何をしてくれるのでしょう。
薄井先生
歯科衛生士さんが中心となって、インプラントに限らず、お口全体のチェックとプロによるお掃除をします。当院の場合は、音波歯ブラシを当てる場所のご指導もいたします。このとき、何か問題があれば、歯科医師にバトンタッチして、診断や治療にあたります。通院頻度の目安として、3カ月に1回くらいは受診していただきたいですね。
編集部
唾液検査のお知らせなどを見かけますが、必要なのでしょうか?
薄井先生
たしかに唾液検査はインプラント周囲炎の鑑別法として有効ですが、ピンポイントの患部を検査するものではありません。定期検診を受けていれば十分でしょう。唾液検査を用いるとしたら、むしろ、インプラントの施術前です。歯周病が認められたら、インプラントを埋入する前に治療します。
編集部
もし、人工歯が欠けた場合は?
薄井先生
歯科医院によっては、インプラントに補償を付けているところもあります。保証の期間内なら、無料で交換してくれるでしょう。ただし、適用除外要件には注意してください。例えば、交通事故などの外力によって欠けてしまった場合は、補償が効きません。ほか、定期検診の頻度、糖尿病などの全身疾患、医師が与えた指示を怠っていることなども関係してきます。
編集部
人工歯だけでなく、顎に埋め込んだインプラント体はどうなのですか?
薄井先生
インプラント体に使われるチタンは、腐食の影響を受けにくいとされています。腐食より注意すべき点は、やはり、食いしばりや歯ぎしりによる圧壊でしょう。
再治療が必要となるかどうかは、メインテナンス次第
編集部
いままでのような注意点を守ったとして、インプラントはどれくらい長持ちするのですか?
薄井先生
基本には「ずっと持つ」ものだと考えています。ただし、上述の注意点に加え、「適切なかみ合わせが取れている」「ある程度の歯が残っている」といった理想的な条件が前提です。どのような場合でも「ずっと持つ」わけではありません。
編集部
そうしたなか、補償期間が10年などと区切られているのはどうしてなのでしょう?
薄井先生
そもそも、人によって効果や環境が異なる医療行為に、補償という概念はなじみません。その一方、補償が全くなくても怖いですよね。おそらく、「間を取って」ということだと思います。なお、補償期間が終わっても、インプラントがきちんと機能しているなら、再手術の必要はないでしょう。
編集部
他院のケースも含め、先生の知っている限りでもっとも「持ち」が短かった症例は?
薄井先生
骨との癒着が難しく、手術をあきらめるケースでしょうか。傷の治りが人によって違うのと一緒で、予見は困難とされています。確率としてはわずか数%ですが、起きるときには起きる症例です。
編集部
施術するときの医院選びも、「持ち」と関係してくるのでしょうか?
薄井先生
医師の経験値が多ければ多いほど、イレギュラーな事態への対応力に優れているでしょう。設備面でいえば、外注でもいいので、必ずCTによる診断をおこなっていることが重要です。X線では不十分だと思います。なお、専用のオペ室は、必要条件だと考えていません。オペ室がなくても、十分かつ安全に手術できます。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
薄井先生
インプラント治療は、手術を終えてからがスタートです。メインテナンスは「不都合が起きないようにするもの」であって、不都合が起きてから慌てても遅いでしょう。インプラントの患部に限らず、お口の中全体をチェックいたしますので、ぜひ、定期的に通院してください。
編集部まとめ
インプラントを長持ちさせようとするなら、通常のブラッシングに一工夫加えることが欠かせないようです。また、クセによる損壊リスクの話は意外でした。知らず知らずのうちにインプラントの寿命が縮んでいくことのないよう、定期的に、プロのチェックを受けてみてください。また、補償の適用除外要件には注意しましょう。細則に書かれていることが、そのまま、「インプラントを長持ちさせるコツ」なのかもしれません。
医院情報
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アクセス | JR郡山駅 徒歩10分 |
診療科目 | 歯科 |