大人のインプラント治療は何歳までできる? いつまでにしておくべき?
高齢になってからインプラント治療を受けると、どのようなリスクが考えられるのでしょうか。また、安全に施術するとしたら、いつごろが好ましいのでしょう。「歯を失うリスク」は年齢とともに高まるため、ぜひ、知っておきたいところです。これらの疑問を、「うすい歯科医院」の薄井先生に投げかけてみました。
監修歯科医師:
薄井 隆(うすい歯科医院 院長)
奥羽大学歯学部卒業。奥羽大学保存科第2医局入局を経た2000年、福島県郡山市内に「うすい歯科医院」開院。生まれ育った地元で、「自分が患者だったらこんな歯医者に通いたい」をモットーとし、地域医療に努めている。日本歯内療法学会、日本歯周病学会、日本先進インプラント医療学会、米国インプラント学会(AAID)の各会員。メディア出演・執筆歴数。
インプラント治療は、年取ったらできないの?
編集部
インプラント治療に、年齢的な上限はあるのでしょうか?
薄井先生
「上限はない」と思います。ただし、高齢になるほど高血圧や糖尿病、骨粗しょう症の罹患(りかん)率が上がりますので、その結果、施術できないケースはあるでしょう。
編集部
しかし、寝たきりや認知症になると、セルフメンテナンスや通院がしづらくなるのでは?
薄井先生
たしかにそうなのですが、寝たきりの患者さんが入れ歯を使い始めたら、起き上がれるようになったという症例もあります。インプラントも同様で、「きちんとかめる」ことが、脳の機能的にも栄養学的にも、好影響をもたらすかもしれないのです。厚生労働省も、かむことと健康寿命の関連性を明らかにしています。
編集部
訪問診療でメインテナンスをおこなう方法もありますね?
薄井先生
身体機能の“回復”はレアケースなので、選べるとしたら、訪問診療になる前のタイミングが好ましいです。インプラントで身体機能を“維持”するという考え方は、十分にありえます。
編集部
万が一寝たきりや認知症になったら、インプラントを「抜く」のでしょうか?
薄井先生
抜いたほうがいいですね。寝たきりの方に多いのが、「拘縮(こうしゅく)」という体に力が入った状態です。お口でいえば、食いしばりのような症状を起こします。このとき、天然歯であれば“折れてくれる”のですが、インプラントはなかなか折れません。むしろ、歯茎の奥まで刺さってしまいます。
歯の欠損を放置してはいけない
編集部
今度は、年齢の下限について教えてください。
薄井先生
インプラントを埋入できるのは、顎の成長が止まる20歳以上とされています。成長途中の骨は柔らかいですし、動きますから、土台としてふさわしくありません。個人差はあるもの、一般的な目安としては、成長が止まってからです。
編集部
個人差があるとすると、「20歳の誕生日以降」のような決め方はできませんよね?
薄井先生
適応時期の見極めということですよね。ザクっとした方法として、身長を測ってみるといいでしょう。何回か計測してみて、背が伸びていなかったら、成長は止まっているはずです。ただし、そこまで厳密なものではありません。
編集部
歯の抜けている箇所があったら、20歳でインプラントを入れるべきでしょうか?
薄井先生
歯の欠損部分を補う方法として、インプラントが最も優れているのは確かです。入れ歯だとものをよくかめずに顎がやせてきますし、ブリッジは歯の一部を痛めてしまいます。また、歯の抜けた状態を放置していると、いろいろと不都合が生じます。たとえば、歯列の乱れや、顎の骨が薄くなってインプラントを打てなくなることなどです。
編集部
若い人に固有な事情はありますか?
薄井先生
年を取ってから歯が抜けた人に比べ、「歯のない期間が長い」ことになります。その結果、先ほど述べた不具合や、お手入れの難しさによる虫歯リスク、見え方による長期のコンプレックスなど、さまざまな弊害が生じるでしょう。また、残っている天然歯に負担をかけますので、徐々に口腔(こうくう)環境が崩れていきかねません。若くして歯のない方ほど、そのスタート時期が早いということです。
インプラントを定期検診のきっかけに
編集部
インプラントを入れるようになった経緯、つまり抜歯の原因も改善する必要がありますよね?
薄井先生
とくに歯周病は治しておきたいですね。インプラント周囲炎は、天然歯の歯周病よりもかかりやすいとされています。ぜひ、定期的なメインテナンスで、お口の健康を守っていきましょう。むしろ、インプラント治療が定期検診のきっかけになると、うれしいです。若いうちからお口の健康管理をしていれば、そうそう、口腔環境は崩れません。
編集部
そう考えると、好ましい習慣が身に付くまで、インプラントを先延ばしにしてもいい気がします。
薄井先生
どうでしょう。歯科医師からしたら、一刻も早く「定期検診の流れ」に乗っていただきたいです。金銭的な負担を除けば、インプラントを後回しにする理由はありません。それに、歯の欠損原因で多いのは、意外と、歯ぎしりや食いしばりです。こうしたクセの改善は、後回しにするほど、悪影響をもたらします。
編集部
今回の結論としては、「インプラント治療に年齢上限はない、20歳になったらすぐにでも検討」ということでしょうか?
薄井先生
それでいいと思います。「インプラントにしたら、寝たきりにならない」とは断言できないものの、「かむ重要性」に着目してください。加えて、若いときの1本の欠損は、総入れ歯の入り口になりえます。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
薄井先生
インプラントが、人生という長い時間軸に深く関わっていることをご理解いただけたでしょうか。また、どの時間軸を取っても、「インプラントを入れるメリットのほうが多い」と考えています。今後、ますます高齢化社会が進むと思われますので、患者さんやそのご家族でよく話しあって決めてください。
編集部まとめ
治療方法という意味でのインプラントには、年齢的な上限がないとのことでした。むしろ施術時の健康状態で決まるため、若くしても非適応の可能性はありえます。また、「かめる能力の維持により、健康寿命を延ばそう」という発想が斬新でしたね。「8020運動」にこだわらず、歯の数がすべて整った状態を、若い段階から維持していきましょう。
医院情報
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診療科目 | 歯科 |