話題のオンライン歯科診療、私たちはどんなときに活用するべき?
全国的な外出自粛が続くなか、紙面をにぎわしている「オンライン診療」とはなんなのでしょうか。歯科領域ですでに実績を重ねてきた竹山先生によると、「オンライン診療」ならではの“意義”があるとのこと。知らないと実生活に差がつきそうな新しい取り組みについて、最前線の事情を伺いました。
監修歯科医師:
竹山 旭(竹山歯科口腔医院 院長)
新しい枠組みだが、時限的な措置であることに注意
現在、オンライン診療に注目が集まっていますね。
そうですね。世界で猛威を振るっている新型コロナウイルスの影響で、非対面式診療の必要性が問われてきました。“歯科”に時限的な措置として初診も含めたオンライン診療が認められたのは、2020年4月24日のことです。他方、“医科”には、以前から一部初診でもオンライン診療が認められていました。ただし、いずれにしても「時限的な措置」であることにご注意ください。
「初診」というキーワードが気になります。その医院に初めて行くことでしょうか?
そうではありません。以前に行ったことのある医療機関でも、全く新しい主訴であれば、初診という扱いになります。「以前に治したところとは違う歯が痛む」、「むし歯が治ったと思ったら口内炎になった」。これらはすべて、初診です。
なぜ国は、初診のオンライン歯科診療を認めてこなかったのでしょう?
オンライン診療は、患者さんの健康状態について得られる情報が対面診療に比べて限定的であるため、主に診断等の判断が必要となる初診ではオンライン診療が原則禁止とされていました。ただし、そもそも歯科の場合は、初診以外の場合であっても、オンライン診療が普及してきませんでした。ひょっとしたら、「歯科は外科処置を伴うので、オンライン診療に向いていない」とする見方があったのではないでしょうか。個人的には、歯科診療の予防面、つまり「家庭で取り組める健康管理」の役割が大きいと思っています。
具体的なオンライン歯科診療の仕組みについて教えてください。
今のところ、オンライン歯科診療では、①保険診療と②自由診療のどちらも実施することができます。また、診療行為(医療行為)ではありませんが、最近では③遠隔健康医療相談という枠組みもオンラインで提供することが可能です。教科書的な内容といいますか、誰にでも当てはまる一般論的な指導をもって相談対応をしています。
「遠隔健康医療相談」って新しい切り口ですね?
急性疾患ではない「日頃の疑問」を聞きたい時などに活用してみてください。例えば、「デンタルフロスの正しい使い方を知りたい」とか「子どもがはみがきさせてくれなくて困っている」などですね。ただし、患者さんやご家族の症状に合わせた、具体的な個別対応ではなく、あくまで一般論の範囲での回答になります。
「遠隔健康医療相談」の費用体系はどうなっているのでしょう?
非医療行為ですからまちまちです。医師や歯科衛生士のような国家資格取得者に限らず、企業が運営する診療相談サービスもあります。ざっくりした感覚で言えば、1回あたり、無料から3000円といったところでしょうか。また、サービス提供者は徐々に増えている印象ですね。
外出自粛か対面優先か、迷いがちな場面でも専門家の意見が聞ける
他方、歯の急な痛みなどは、受診が必要ですよね?
はい。直接の受診を規制するものではありません。とはいえ、皆さんからしたら、「不要不急なのか、必要火急なのか」を判断しにくいですよね。そんなとき、歯科医師という専門家から「すぐ来てください」とか「しばらく様子を見てみましょう」などの助言があれば、動きやすいのではないでしょうか。
なるほど。治療の中身ばかりに目が向いていました。
オンライン歯科診療は、個人的には「トリアージ的な運用」に意味があると考えています。来院が必要なのか、処方箋の発行のみで解決できる話なのか、自宅での工夫でなんとかなるレベルなのか。その振り分けが、わざわざ来院していただかなくても、オンラインでその判断ができるということです。
念のため、オンラインでおこなう治療の中身についてもお願いします。
具体的な運用方法は「まだ、決まっていない」というのが実情です。そのうえでの話ですが、おそらく、各医療機関の公式サイトなどで、「オンライン歯科診療」の専用ページなどが立ち上がってくるのでしょう。そこで患者さんとやりとりしながら、今後の方針を決めていくことになると思います。
オンラインの場合、保険診療か自由診療かは、なにで決まるのですか?
端的に言うと、「歯科医師の総合的な判断」で決まります。保険の入れ歯に関する相談だから「保険」ということではありませんし、自費のインプラントに関することだから「自由」ということでもありません。保険の算定項目に定められている医療行為なら保険診療、それ以外の医療行為は自由診療となります。また、一般論で済みそうなら遠隔健康医療相談という選択肢もあります。
対面診療にしても、「保険か自由か」を患者と相談しながら決めていましたしね?
そうですね。もちろん、オンラインでの視診や診断にはリスクが伴います。ですから、初診に限定するなら、いずれ「元の対面方式に戻る」可能性が高いのではないでしょうか。あくまでも、新型コロナウイルスの影響下を前提とした時限的な措置です。
思っていたより大枠ですね?
時限的な措置として初診が認められたこと、「オンライン」という歯科ではあまり普及してこなかった概念が急に注目を集めたことから、医療従事者のなかでも混乱されている方は少なくないでしょう。ただし、歯科は「オンラインによる視診での診断がある程度は可能」な領域であると考えています。現在、初診からのオンライン診療を、時限的措置ではなく恒久化することが政府で検討されていると伺っておりますので、もしかすると歯科でも初診からオンライン診療を行うことが当たり前になるかもしれません。
日常の「見える化」により、予防周知の可能性も
オンライン歯科診療は、新型コロナウイルスの受け皿になるんでしょうか?
外出自粛が続いているから「歯が多少痛くても我慢しよう」という発想は、全くもって不要です。もし、そんな考えが広まっているとしたら、国民の健康に著しい悪影響をもたらします。このような状況だからこそ、交通費や通院時間の“要らない”オンライン診療や遠隔健康医療相談を積極に利用すべきです。
歯科診療に、いままでと違った変化が起こりそうですか?
予防習慣をより周知させていく機会だと考えています。歯科医院の中では、患者さんが自宅で何をしているかが「見えない」んですよね。「奥歯でかまずに丸のみしている」とか「ブラッシングの圧が強すぎないか」とか、むしろ、そうした日常行為をスマホなどで映してもらえることができます。加えて、女性が多い歯科衛生士さんの「働き方改革」にもつながるでしょう。遠隔健康医療相談であれば、子育てしながら自宅で相談対応をすることも可能なはずです。
進め方によっては、「よりよい医療」にもつながると?
そのとおりです。食べ方は人により異なるはずですし、ブラッシングの方法もまちまちでしょう。従来の治療は、そうした実情を無視しておこなっていたんですよね。考えてみれば「おかしな話」で、オンラインにより、むしろ個人に寄り添った治療が実践できるかもしれません。
考えられるオンライン診療のトラブルはどんなものがありますか?
歯科衛生士さんが、非医療行為である遠隔健康医療相談なのに、個別の対応をしてしまうケースですね。個別の対応は診察扱いですから、歯科医師にしかできません。また、連絡先がオープンになると、ストーカー被害も考えられるでしょう。個人のアドレスなどを使って直接やりとりすることは御法度で、コンプライアンスやプライバシーの確保が求められます。加えて、一般的なメールでも問われる「コミュニケーション力」が必要でしょう。
最後に、読者へのメッセージがあれば。
歯科医院の概念を、患者さん側も医療従事者側も、変えていく必要があるでしょう。つまり、「歯を削るところから、歯や歯周組織を守るところへ」です。「外出自粛だから歯科メンテに行けない」のではなく、「どうやったら必要な予防措置を自宅で続けられるのか」というところまで、国民の意識を高めたいですね。また、相談の垣根を低くして、重篤化に至らせないことも可能なはずです。その答えが、オンライン歯科診療や遠隔健康医療相談だと考えています。
編集部まとめ
医学的な見地から、「来院の必要性があるのか、自宅でなんとかできるのか」を教えてもらえるという点は、私たちの大きな助けになるでしょう。ただし、その振り分け方が今後も続いていくかというと、まだ、なんとも言えない状況です。一方、診察室の中でしかやりとりできない問診と異なり、日頃の様子をライブで映せることは、実態の正確な把握につながります。オンライン歯科診療をどう取り入れるかで、歯と口に関する「勝ち組」と「負け組」が決まってくるのではないでしょうか。本題の結論としては、「非常時の初手に有効だが、平時の日常にも役立つ」ということなのだと思います。
医院情報
所在地 | 〒590-0113 大阪府堺市南区晴美台3-1-3 |
アクセス | 南海バス晴美台回り「晴美台センター」から徒歩1分 |
診療科目 | 歯科・口腔外科 |