びまん性胸膜肥厚
本多 洋介

監修医師
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)

プロフィールをもっと見る
群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

びまん性胸膜肥厚の概要

びまん性胸膜肥厚(びまんせいきょうまくひこう)とは、肺を覆う「胸膜」に広範囲かつ慢性的な炎症が起き、やがて厚く硬くなることで、肺の膨らみを制限してしまう病気です。

胸膜は肺と胸壁の間にある薄い膜状の組織で、呼吸時の摩擦を減らすなどの役割を果たしています。しかし、びまん性胸膜肥厚を発症すると、胸膜の線維化が進むことで、胸膜は柔軟性を失います。

初期の段階では自覚症状がない場合も多いものの、病状が進行すると肺が十分に膨らまなくなり、息切れや胸の圧迫感が現れます。他にも、胸痛、咳、痰の症状や、肺炎などの呼吸器感染がみられるケースもあります。

びまん性胸膜肥厚の主な原因として、石綿(アスベスト)の曝露が有名です。結核性胸膜炎などの感染症や、リウマチなどの自己免疫疾患が原因となるケースも知られています。

びまん性胸膜肥厚には、現在のところ根本的な治療法はなく、症状の進行を抑えるための治療や、生活の質を維持するための酸素療法や呼吸リハビリテーションが行われています。

びまん性胸膜肥厚の原因

びまん性胸膜肥厚の原因として、もっともよく知られているのは石綿(アスベスト)への曝露です。

石綿(アスベスト)への曝露で発症するとされる疾患には、肺がん、中皮腫などの悪性腫瘍が有名です。しかし他にも、石綿肺、良性石綿胸水、胸膜プラークなどの非腫瘍性疾患も引き起こすことが知られており、びまん性胸膜肥厚もその1つです。びまん性胸膜肥厚のその他の原因として、結核性胸膜炎の後遺症や放射線治療、開胸手術などもあげられます。

リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患も、胸膜の炎症を引き起こし、びまん性胸膜肥厚の要因となり得ることが知られています。

びまん性胸膜肥厚の前兆や初期症状について

びまん性胸膜肥厚は、初期の段階では自覚症状がほとんどないことが多いです。

病気が進行すると、胸膜が厚く硬くなることで肺が十分に膨らまなくなり、体内に取り込める酸素の量が減少するため、息切れを感じます。

階段の昇降や速歩きといった軽い運動時に息切れを感じるようになり、次第に日常生活の動作でも息苦しさが増していきます。

胸膜の炎症が長期間続くことで、神経が刺激されるため、胸の圧迫感や違和感、胸痛を訴える人もいます。

さらに病状が進行すると、安静時でも息苦しさを感じるようになり、場合によっては、慢性呼吸不全により意識障害を引き起こすこともあります。

びまん性胸膜肥厚の検査・診断

びまん性胸膜肥厚の診断には、主に画像検査と肺機能検査が用いられます。

健康診断の際に偶然発見されることもあり、胸膜の異常を正確に把握するために追加の検査が重要となります。

胸部X線検査

胸部X線検査では胸膜の肥厚の範囲や左右の肺への影響を確認します。

びまん性胸膜肥厚の特徴として、胸膜の厚みが一定以上であることや、肋骨と横隔膜の間の角(肋横角)が鈍くなっていることが挙げられます。

胸部CT検査

胸膜の厚みや癒着の程度を詳細に観察するためには、胸部CT検査が有効です。

胸膜の線維化の進行具合を確認し、肺への影響を把握することができます。

高分解能CT(HRCT)を用いることで、びまん性胸膜肥厚と似た症状を示す胸膜プラークや悪性胸膜中皮腫などの疾患と区別が可能です。

肺機能検査

肺機能検査では、深く息を吸い込んでから勢いよく吐く、または一定の速度でゆっくり吐く動作を繰り返し、肺活量や呼吸の流れを測定します。

肺活量や換気能力を測定し、呼吸機能がどの程度制限されているかを評価します。

びまん性胸膜肥厚の治療

びまん性胸膜肥厚には、現在のところ根本的な治療法が確立されていません。

治療は主に、症状の管理と生活の質の維持を目標として進められます。

軽症のうちは特別な治療を行わず、定期的な検査を受けながら経過を観察することが一般的です。

病気が進行すると呼吸機能の低下が顕著になり、日常生活にも影響を及ぼすため、適切な治療が必要になります。

酸素療法

酸素療法は酸素を補給することで体内の酸素濃度を維持し、症状を軽減する治療法です。

びまん性胸膜肥厚が進行すると、肺の膨らみが制限され、十分な酸素を体内に取り込めなくなるため、息苦しさが強くなった場合には、酸素療法が必要になります。

慢性的な呼吸不全に至った場合には、在宅酸素療法(HOT)が導入されることがあります。

呼吸リハビリテーション

呼吸リハビリテーションでは、呼吸を深く行う練習や、呼吸筋を強化する運動を行い、少しでも楽に呼吸ができるようサポートします。

また、適度な運動を取り入れることで、体力の維持とともに肺機能の低下を防ぐことができます。

薬物療法

びまん性胸膜肥厚に対して、根本的な治療薬はありませんが、胸膜の炎症による痛みや圧迫感が強い場合に、抗炎症薬や鎮痛薬が症状を和らげるのに役立ちます。

薬物療法は一時的な対症療法であり、病気の進行を止めるものではないため、ほかの治療法と併用しながら症状を管理する必要があります。

外科的治療

胸膜の癒着が進行するような重症例では、外科的手術(胸膜剥離術など)が検討されることもあります。

高齢者や基礎疾患を持つ患者では、手術によるリスクが高く、手術後も症状が再発する可能性があるため、すべての患者に適用されるわけではありません。

びまん性胸膜肥厚になりやすい人・予防の方法

びまん性胸膜肥厚は、長期間にわたって石綿(アスベスト)に曝露した経験がある人は、発症リスクが高いとされています。一般的に石綿による健康被害は、数十年単位での潜伏期間を経て発症する傾向があります。そのため、過去の職場環境などで曝露した人は、長期の経過観察が重要です。

びまん性胸膜肥厚の予防のためには、新たな石綿へのばく露を避けることが重要です。

現在、日本では石綿の使用が厳しく規制されていますが、古い建物の解体やリフォームの際には、石綿が飛散する可能性があるため、適切な防護措置を講じることが求められます。

石綿以外の原因によるびまん性胸膜肥厚に関しては、予防する方法はありません。しかし、原因となりうる疾患などについて既往歴のある人は、やはり長期の経過観察が重要です。


関連する病気

  • 悪性胸膜中皮腫
  • 転移性髄膜腫
  • 結核性胸膜
  • 全身性エリテマトーデス(SLE)
  • 石綿肺(アスベスト肺)
  • 良性石綿胸水

この記事の監修医師

S