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動物咬傷
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

動物咬傷の概要

動物咬傷(どうぶつこうしょう)は、動物に噛まれることで生じる傷害です。 日本国内では、ペットのイヌやネコに噛まれるケースが多いため、「ペット咬傷」と呼んで扱われることも多いですが、広義では、さまざまな野生動物、あるいはヘビや魚などによる噛み傷も、この動物咬傷に分類されることもあります。

動物咬傷(ペット咬傷)として、国内の症例の多くを占めるのはイヌやネコによる噛み傷です。

動物咬傷は単なる表面的な損傷にとどまらず、感染症のリスクも伴うのが特徴です。 噛まれた部位から細菌が侵入し感染する確率は、イヌよりネコの方が高いとされています。特定の細菌が感染した場合、パスツレラ症やカプノサイトファーガ感染症、破傷風などの重篤な疾患を引き起こす可能性があります。

医療機関での治療は主に抗菌薬の投与が中心となります。傷の状態によっては傷口の縫合も検討されますが、動物咬傷ではかえって感染症のリスクを高めてしまうケースもあるため、縫合などの治療は経過を見て慎重におこなわれます。 また、すでに細菌感染が進み、膿瘍ができているようなケースでは、切開して排膿する処置がおこなわれます。

皮膚や深部組織が壊死した場合には、壊死組織の切除や再建手術などの外科的な治療が必要となることがあります。

動物咬傷は感染による重症化リスクが高いため、適切な初期対応と医療処置をおこなうことが重要になります。応急処置として、できるだけ早く傷口を洗浄したうえで、たとえ傷が小さくても放置せずに医療機関を受診することが推奨されます。

なお、ペット以外の野生動物に噛まれた場合や、ヘビなどの有毒生物に噛まれた場合はさらに重篤な感染症、生命に関わる急性症状の可能性があります。すみやかに適切な救急処置を受ける必要があります。

出典:一般社団法人 日本創傷外科学会「動物咬傷(ペット咬傷)」

動物咬傷の原因

動物咬傷の原因は、さまざまな動物に噛まれることです。

人間に飼われているペットでも、じゃれつく中で人を噛んでしまうことや、驚いたり怯えたりして噛むことがあります。

イヌは強い咬合力を持つため、噛まれたときに組織損傷が大きくなりやすい傾向があります。大型犬では特に危険です。 ネコは鋭いキバを持つため、傷口は小さくても深くまで達する傾向があります。

動物の口腔内にはさまざまな細菌が存在しており、たとえペットであっても動物咬傷から、パスツレラ症やカプノサイトファーガ感染症、破傷風などの深刻な感染症を引き起こす可能性があります。

野生動物や有毒生物に噛まれた場合は、さらにさまざまな感染症や毒による急性症状のリスクが高まります。

特に注意が必要なのは狂犬病で、発症すると致死率がほぼ100%に達する危険な疾患です。 日本国内では1956年以降、狂犬病の発症報告はありませんが、海外で犬や猫、コウモリ、猿などに噛まれた場合は、狂犬病に感染するリスクがあるとされています。

出典:厚生労働省「狂犬病に関するQ&Aについて」

動物咬傷の前兆や初期症状について

動物咬傷の初期症状は、主に噛まれた部位に現れます。 最初に見られるのは出血や腫れ、痛みなどですが、その程度は損傷の深さや範囲によって大きく異なります。 損傷が重度の場合、組織が噛み切られることもあります。

傷口の大きさに関わらず、放置してしまうと感染症のリスクが高まります。細菌感染により傷口に膿瘍が形成されることがあり、さらに悪化すると、皮膚や深部組織が壊死し、黒く変色することもあります。

特定の細菌感染症では、より深刻な合併症が起こる可能性があります。

有毒生物に噛まれた場合は、毒素による急性症状が起きる可能性があります。

動物咬傷の検査・診断

動物咬傷の診断は、主に問診と視診によっておこなわれます。 医師は患者から咬傷の状況や経過、動物の種類などの情報を聴取し、傷の状態を詳細に観察します。噛んだ動物がペットであれば、主に感染症のリスクを念頭において診察します。野生動物や有毒生物であれば、さらに慎重な対応が必要になることもあります。

傷が深く、骨に達している可能性がある場合は、レントゲン撮影をして骨折や異物の有無を確認します。 また、動物に噛まれてから数日経過しても傷口の腫れや痛みが持続している場合は、細菌感染の可能性を考慮し、血液検査を実施することがあります。

動物咬傷の治療

動物咬傷で最初におこなうべき重要な処置は傷口の十分な洗浄です。 傷が深い場合は、麻酔を実施して傷の深部まで徹底的に洗浄することがあります。 この洗浄処置は感染リスクを軽減させるために重要です。

有毒生物に噛まれた場合などは、毒素などの急性症状に対しての処置を優先します。

動物咬傷の治療において、通常の外傷と異なる点は、傷口の縫合について慎重に判断する点です。たとえペット咬傷であっても、縫合する場合は感染症のリスクを十分に考慮したうえでおこないます。

傷口の状態から細菌感染の可能性が高いと判断された場合は、内服薬もしくは点滴によって抗菌薬の投与が開始されます。 破傷風予防のためのワクチン接種が推奨される場合もあります。

感染が進行して膿瘍が形成された場合には、傷口を切開して膿を排出させる処置がおこなわれます。 さらに感染が悪化し、皮膚や組織の壊死が生じた場合は、外科的に壊死組織を切除することもあります。 顔面など、傷跡が目立つ部位の場合、感染が落ち着いた後に形成外科による再建手術が検討されることもあります。

これらの総合的なアプローチにより、動物咬傷の適切な治療と合併症の予防がおこなわれます。

動物咬傷になりやすい人・予防の方法

動物咬傷は、犬や猫を飼育している人に発生しやすい傾向があります。 特にペット咬傷では、子どもが被害に遭いやすいことも知られています。 出典:公益社団法人「日本小児科学会 動物咬傷」

予防のためには、飼育動物に接するときに急な動きをして、驚かせないように注意が必要です。 ペットの飼い主は、動物との適切な接し方をしっかりと学び、子どもに対してそれらを教育することも重要な予防策となります。

外出時には、飼い主のいない犬や猫に近づかないよう注意することも大切です。 野良犬や野良猫は予測不可能な行動をとる可能性があり、咬傷のリスクが高くなります。

動物に噛まれてしまった場合は、直ちに傷口を水で十分に洗い流すことが推奨されます。 すぐに応急処置をすることにより、感染のリスクを軽減できます。

さらに、ペットではなく野生動物や有毒生物に接する場合、あるいは狂犬病が発生している国や地域で動物と接する場合は、噛まれることのないように最大限の注意が必要です。

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