

監修医師:
前田 広太郎(医師)
侵襲性カンジダ症の概要
侵襲性カンジダ症とは、真菌(いわゆるカビ)であるカンジダが血流または深部組織に侵入し、通常は無菌とされる部位で感染を引き起こす病態です。血行性に複数の臓器・広範囲にカンジダが播種される場合があり、しばしば肝臓・脾臓・尿路・眼・脳・皮膚などに病変を形成します。血液培養でカンジダが陽性となること、および病巣組織でのカンジダ属の証明などで診断されます。治療としては中長期的な抗真菌の投与や、カテーテルなどの感染原因となる宿主因子の排除に加え、病態によっては外科的治療を要することもあります。
侵襲性カンジダ症の原因
侵襲性カンジダ症患者の多くは免疫不全を伴っています。カンジダ血症のリスク因子として、好中球減少、臓器移植は幹細胞移植後、ICU入院中、広域抗菌薬の使用、中心静脈カテーテル留置、経静脈栄養、埋め込み式人工装置、免疫抑制剤の使用、悪性腫瘍、腹部手術、重度の熱傷などがあります。
侵襲性カンジダ症は3つのサブタイプに分類され、1)カンジダ血症のみ(深在性病変なし)、2)カンジダ血症に加えて深在性・臓器感染を伴うもの、3)カンジダ血症を伴わない深在性カンジダ症の3つがあり、これらはそれぞれ1/3程度の割合で発生しています。
カンジダの種類としては、カンジダ・アルビカンスによる感染が最多で、それ以外のカンジダは非アルビカンスと呼ばれ、カンジダ・グラブラータ、カンジダ・クルセイ、カンジダ・パラプシローシスが臨床上多くみられます。血液悪性腫瘍がある場合はカンジダ・グラブラータやカンジダ・クルセイが多く、固形腫瘍ではカンジダ・グラブラータが多いとされます。
侵襲性カンジダ症の前兆や初期症状について
広域抗菌薬に反応しない発熱や炎症反応高値がみられることが多いとされます。肝脾カンジダ症では季肋部痛などが出現しえます。眼内炎や脈絡網膜炎をきたした場合は視力障害が出現します。皮膚病変が膿疱や紅斑、壊死性結節性病変などが出現することがあります。筋肉膿瘍の場合は筋肉痛として症状が現れ、主徴・熱感・圧痛を伴うことがあります。中枢神経系カンジダ症の場合は髄膜刺激症状(頭痛や項部硬直など)や意識障害などが出現する場合があります。
侵襲性カンジダ症の検査・診断
血液検査では白血球とCRPを評価します。β-D-グルカン検査は補助診断法として有用ですが、感度は70~80%、特異度60~70%とされ偽陽性が多く、侵襲性カンジダ症に特異的な検査ではありません。カンジダマンナン抗原検出は補助診断として使用可能ですが、結果の解釈は慎重に行う必要があります。
血液培養検査は少なくとも2セット採取する必要があります。中心静脈カテーテル留置患者ではカテーテルと末梢から採血を行います。血液培養でカンジダ属が検出されればカンジダ血症の確定診断となりますが、侵襲性カンジダ症の約半数が血液培養陰性となることから、血液培養が陰性でも侵襲性カンジダ症は否定できません。侵襲性カンジダ症では血流感染による全身散布の結果として全身の各種臓器に感染巣(膿瘍)を形成していることが多いとされ、CTやMRI、超音波検査などの画像検査で感染臓器の検索を行います。また、尿培養でもカンジダの検出を認める場合があります。皮膚や実質臓器の病変がある場合は、生検を行い病理組織学的検査を施行します。カンジダ血症は眼内炎を高頻度(約1~20%と報告により差があり)で起こすという報告があり、全てのカンジダ菌血症患者に対して早期(治療開始後1週間以内)に眼底検査を施行すべきとされます。特に、カンジダ・アルビカンスは非アルビカンスと比較して眼内炎を引き起こすリスクが高いとされています。
侵襲性カンジダ症の治療
侵襲性カンジダ症の治療は、抗真菌薬投与に加え、宿主状態の改善策を施行することと、ドレナージなどの外科的治療からなります。
抗真菌薬については、カンジダ・アルビカンスと非アルビカンスで適切な抗菌薬が概ね決まっており、病原菌に応じた抗真菌薬を投与します。病原菌が不明な場合は経験治療として抗真菌薬の投与を行いますが、好中球減少の有無によって適切な第一選択が変化します。病変によっては中枢神経移行性や眼内移行性も考慮し抗真菌薬を選択します。
また、原因となっているカテーテルなどの人工物があれば抜去したり、不必要な広域抗菌薬の中止、膿瘍に対するドレナージ、異物や壊死組織の除去、栄養状態の改善などが必要です。血液培養は毎日もしくは隔日採取し、カンジダ血症の消失を確認します。眼内炎を発症した場合は最低4~6週程度の抗真菌薬投与が必要で、視力障害や硝子体炎など重症であれば眼科的手術も必要となります。感染性心内膜炎や感染性関節炎では6週間以上、骨髄炎では6ヶ月以上の長期投与が必要とされます。
侵襲性カンジダ症になりやすい人・予防の方法
侵襲性カンジダ症患者の多くは免疫不全を伴っています。好中球減少、臓器移植は幹細胞移植後、ICU入院中、広域抗菌薬の使用、中心静脈カテーテル留置、経静脈栄養、埋め込み式人工装置、免疫抑制剤の使用、悪性腫瘍、腹部手術、重度の熱傷の場合はカンジダ血症になるリスクが高いとされます。骨髄移植やその他の臓器移植、低出生体重児といった特殊な病態においては抗真菌薬の予防投与も考慮されます。固形臓器移植後の侵襲性真菌症の発症率は肝移植で7~42%、心移植で0~32%、肺/心移植で15~35%、膵移植で18~38%、腎移植で0~14%と報告により様々で、おおくがカンジダかアスペルギルスによる感染です。そのうちカンジダ属が原因となる割合は、肝移植では77~83%、 肺/心肺移植では 60~100%、膵移植では約 100%、腎移植では 60%、心移植では約 30%とされます。同種造血幹細胞移植患者では、一律に抗真菌薬の予防的投与を行うことが推奨されており、真菌を多く含む食物の摂取をさけることが望ましいとされます。
参考文献
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