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クリプトコックス症
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

クリプトコックス症の概要

クリプトコックス症は、クリプトコックス属という真菌 (カビの仲間) によって起こる病気です。主に原因となるのはCryptococcus neoformans (クリプトコックス・ネオフォルマンス) とCryptococcus gattii (クリプトコックス・ガッティ) という種類です。このカビは、空気を吸い込むことで肺に入って感染し、そこから髄膜 (脳や脳を包む膜) に広がって炎症を起こしやすい特徴があります。

自然界では、ハトの糞やユーカリの木などに生息していて、人は気づかないうちに吸い込んでしまうことがあります。体の中でこの真菌と戦うのに大切なのは、CD4リンパ球という免疫細胞です。そのため、免疫が弱っている人、たとえばエイズの患者さん、糖尿病の患者さん、ステロイドの薬を使っている人などで発症しやすいことが知られています。ただ、こうした病気を持っていない人にも発症することもあります。

治療には抗真菌薬を約12〜24週間飲み続ける必要があります。

クリプトコックス症の原因

原因となるのは、莢膜 (きょうまく) と呼ばれる厚い膜を持った真菌です。この真菌は土や鳥の糞の中に存在し、とくにハトの糞に多いといわれています。乾燥した糞が粉のようになり、空気中に漂ったものを吸い込むことで人に感染します。

クリプトコックスにはいくつかの型があります。昔はA~Dに分けられていましたが、現在では次のように整理されています。

A型、D型→クリプトコックス・ネオフォルマンス

B型、C型 →クリプトコックス・ガッティ

日本ではほとんどがA型ですが、クリプトコックス・ガッティは亜熱帯地域に多く、オーストラリアのユーカリの木などに関連しています。最近は北米で流行したり、日本国内でも感染例が報告されたりしており、注目されています。

クリプトコックス症の前兆や初期症状について

もともと元気な人の場合は、ほとんどが無症状のまま肺に小さな感染巣をつくる程度ですが、免疫の弱い人では脳にまで広がり、重い炎症を引き起こすことがあります。特にエイズの患者さんでは、65〜94%という高い割合で中枢神経にも感染してしまうことが知られています。感染した部位ごとに以下のような症状が現れます。

  • 脳髄膜炎の症状
    頭痛、吐き気、意識がもうろうとするなどがみられます。これらは命に関わるため、特に注意が必要です。

  • 肺の症状
    咳や息切れなど、一般的な呼吸器の症状が出ます。胸部のレントゲンやCTでは、肺にしこりのような影やもやもやした白い影が見られることがあります。

  • 中枢神経の異常影
    脳にこぶのような塊ができることがあり、画像検査で発見されることもあります。

クリプトコックス症の検査・診断

クリプトコックスの肺への感染が疑われる場合は気管支鏡検査を行います。そこで肺を洗浄した液や採取した肺の組織からクリプトコックスを培養します。特殊な染色をして顕微鏡で観察し、クリプトコックスがいることが確認されるとクリプトコックス症と診断されます。

また、血液検査を行って、クリプトコックスの膜のタンパク質の有無を調べることもあります。この検査ではクリプトコックス・ネオフォルマンスとクリプトコックス・ガッティを区別することはできませんが、診断を助けるのに有用な検査です。

そして、脳への広がりを調べるために髄液検査が行われることもあります。この検査では腰に針を刺して髄液を採取し、クリプトコックスが感染していないかを調べます。

クリプトコックス症の治療

クリプトコックス症の治療には抗真菌薬という、真菌に対する抗生物質を用います。どの抗真菌薬を使うかや治療期間は感染した部位や患者さんの免疫状態によって変わります。

  • 脳や中枢神経に感染した場合
    抗真菌薬はアムホテリシンBリポソーム製剤とフルシトシンを組み合わせて使います。症状によってはステロイドを併用することもあります。また、脳の圧が高いときには水を抜く処置や手術が必要になることもあります。

  • 肺に感染した場合
    主にフルコナゾール、イトラコナゾール、ボリコナゾールなどの抗真菌薬を使います。

治療の期間は、免疫が正常な人では約12週間、免疫不全のある人では約24週間が目安となります。特にエイズの患者さんは脳髄膜炎を起こしやすく危険なため、長期的に治療することが大切です。

クリプトコックス症になりやすい人・予防の方法

日本では、免疫不全のない人に発症する真菌の病気の中ではクリプトコックス症が最も多いとされています。

以前はクリプトコックス・ガッティによる感染は海外での発症が多いと考えられていました。しかし日本でも2007年に、北米で流行している株と同じ遺伝子型を持つクリプトコックス症が報告されました。その後、国内で感染・発症したと考えられる事例も見つかっており、国内でも感染する可能性は否定できません。

クリプトコックス症を確実に予防する方法はわかっていませんが、免疫不全のある人や糖尿病の患者さん、ステロイドの薬を飲んでいる人は注意が必要です。

参考文献

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