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前田 広太郎

監修医師
前田 広太郎(医師)

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2017年大阪医科大学医学部を卒業後、神戸市立医療センター中央市民病院で初期研修を行い、兵庫県立尼崎総合医療センターに内科専攻医として勤務し、その後複数の市中急性期病院で内科医として従事。日本内科学会内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本医師会認定産業医。

偽性バーター症候群の概要

偽性バーター症候群とは、利尿薬や下剤の乱用、習慣性嘔吐などによりバーター症候群と似た病態を呈する疾患です。思春期以降の女性に多く、低カリウム血症と代謝性アルカローシスが特徴的です。治療は原因の除去とカリウムの補充を行います。原因の除去が行われなければ腎不全や栄養障害が進行するため、予後良好とは言えない疾患です。

偽性バーター症候群の原因

腎臓の尿細管には、利尿薬であるフロセミドが作用するナトリウム-カリウム-クロライド共輸送体(NKCC2)やカリウムチャネル、クロライドチャネルなどが存在し、電解質の調整を行っています。それらをコードする遺伝子が先天的に異常があることによりナトリウム、カリウム、クロライドの排泄に異常が起こることがバーター症候群の病態生理です。

偽性バーター症候群とは、バーター症候群でみられるような先天性の尿細管機能異常は認めず、利尿薬などの薬剤を長期使用するといった外因によりバーター症候群と同様の病態となる疾患です。通常、利尿薬や下剤の乱用、慢性下痢、嘔吐、神経性食思不振症などが原因となります。バーター症候群は乳幼児期に発症しますが、偽性バーター症候群は思春期以降の発症が多く、しばしば同時期に発症しやすいギッテルマン症候群として誤診されます。

偽性バーター症候群の前兆や初期症状について

主な症状としては低カリウム血症によるしびれ、手足がつる、四肢麻痺、筋力低下、多飲多尿、便秘があります。原因によりさまざまな症状を呈します。フロセミドの乱用では腎臓の石灰化をきたすこともあります。習慣性嘔吐があればう歯の増加、低体重などがあります。

偽性バーター症候群の検査・診断

血液検査、血液ガス検査では低カリウム血症と代謝性アルカローシスが特徴的です。習慣性嘔吐や下剤乱用といったように腎臓からの排泄以外でクロールが喪失する場合は尿中クロール濃度が低下します。利尿薬使用のタイミングにより尿中クロライド濃度が変化するため、利尿薬の使用を疑った時には、複数日にわたってタイミングを変えた尿検査で尿中クロライド濃度が変化することが診断の補助となることがあります。

バーター症候群とは異なり成長障害がなく、乳児期から小児期にかけては無症状です。ギッテルマン症候群と違い、低マグネシウム血症は認めにくいです。利尿薬負荷試験により、フロセミドとサイアザイドに対する反応性を確かめることで鑑別を行うこともあります。偽性バーター症候群においては、フロセミドを乱用していると、フロセミドを負荷しても反応性が乏しいです。摂食障害による偽性バーター症候群ではフロセミドとサイアザイドに対する反応は正常となります。

偽性バーター症候群の治療

原因となる薬剤があれば、まず薬剤の中止を試みます。低カリウム血症があれば、経口摂取によるカリウム補充を行います。習慣性嘔吐が原因の場合、プロトンポンプ阻害薬により胃酸分泌を低下させると嘔吐による代謝性アルカローシスを軽減することができます。摂食障害による偽性バーター症候群は予後が悪く、末期腎不全に至る例も少なくなく、透析導入を行っても摂食障害が持続するため生命予後も不良とされています。

偽性バーター症候群になりやすい人・予防の方法

思春期以降に発症し、圧倒的に女性に多い疾患です。ボディイメージの障害・認知の歪みが背景にありBMIが18以下のことが多いとされます。偽性バーター症候群の予防の方法は確立されていませんが、再発予防には精神療法的アプローチも重要となります。

参考文献

  • Matsunoshita N, Nozu K, Shono A, et al:Differential diagnosis of Bartter syndrome, Gitelman syndrome, and pseudo Bartter/Gitelman syndrome based on clinical characteristics. Genet Med 18:180 188, 2016
  • Wu KL, et al. Identification of the Causes for Chronic Hypokalemia: Importance of Urinary Sodium and Chloride Excretion. Am J Med. 2017;130(7):846. Epub 2017 Feb 14.
  • Colussi G, et al. Pseudo-Bartter's syndrome from surreptitious diuretic intake: differential diagnosis with true Bartter's syndrome. Nephrol Dial Transplant. 1992;7(9):896.
  • 林 松彦:腎臓《電解質異常を伴う症候群》バーター症候群、ギテルマン症候群、偽性バーター症候群. 臨床雑誌内科 109巻 6号 pp. 1375-1377
  • 中農 昌子, 他:乳児期早期からの体重増加不良を契機に診断した偽性Bartter症候群の1乳児例. 小児科 57巻 11号 pp. 1389-1393

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