

監修医師:
前田 広太郎(医師)
リドル症候群の概要
リドル症候群は、腎臓にある集合管の上皮ナトリウムチャネル(ENaC)の機能亢進を原因とする稀な常染色体の遺伝性疾患です。本症では、アルドステロンとは無関係にナトリウム再吸収が促進され、結果として血圧上昇、低カリウム血症、代謝性アルカローシスが生じます。これらの臨床像は、原発性アルドステロン症などの鉱質コルチコイド過剰症とよく似ています。血漿レニン濃度と血漿アルドステロン濃度が低値になることが特徴で、確定診断は遺伝子検査が必要です。治療はアミロライドやトリアムテレンの内服と塩分制限をはじめとした血圧コントロールです。
リドル症候群の原因
腎臓にある集合管では尿中の様々な物質が吸収・排泄されています。リドル症候群では集合管の上皮ナトリウムチャネルが増えることにより、ナトリウムが血中に再吸収され、同時にカリウムが尿中に排泄されます。ナトリウムが増加することで体内の水分量が増加するため、レニン・アルドステロン系が抑制されます。上皮ナトリウムチャネルはα、β、γの3つのサブユニットがあり、それぞれをコードする遺伝子SCNN1A、SCNN1B、SCNN1Gが変異することがリドル症候群の原因です。遺伝性疾患ですが、孤発例も報告されています。
リドル症候群の前兆や初期症状について
若年性の高血圧が出現します。高血圧に伴う頭痛や嘔吐がみられることがあります。低カリウム血症によるしびれ、四肢麻痺、筋力低下、多飲多尿などが出現することがあります。低カリウム血症は必ずしも全てのリドル症候群で高度ではないため、低カリウム血症による症状が目立たないこともあります。
リドル症候群の検査・診断
血液検査・血液ガス検査では低カリウム血症、代謝性アルカローシスを呈することが特徴的です。 血漿レニン活性および血漿アルドステロン濃度が共に低値である点が、原発性アルドステロン症との違いです(原発性アルドステロン症では血漿アルドステロン値は高値)。 尿中アルドステロン排泄量も低値となります。 鑑別診断には、原発性アルドステロン症、二次性アルドステロン症、先天性副腎過形成、グルココルチコイド抵抗症、明らかな鉱質コルチコイド過剰症、グリチルリチン(甘草)過剰摂取、 クッシング症候群、デオキシコルチコステロン産生腫瘍、コルチコステロン産生腫瘍などが挙げられます。完全な確定診断のためには遺伝子検査を行う必要があります。
リドル症候群の治療
リドル症候群の治療は、原因である上皮ナトリウムチャネルの過剰活性化を直接阻害することを目的とします。アミロライド、トリアムテレンといったカリウム保持性利尿薬は、上皮ナトリウムチャネルを直接阻害し、ナトリウム再吸収を抑制し高血圧および低カリウム血症の両方を改善します。スピロノラクトン(アルドステロン受容体拮抗薬)は無効であることも特徴的で、これはリドル症候群のナトリウムチャネル活性化がアルドステロンを介していないためとされます。また、リドル症候群では食塩感受性高血圧の要素が強く、高血圧のコントロールには必ず食塩制限を併用することが重要です。利尿薬のみでコントロール困難な場合はβ受容体拮抗薬や血管拡張薬など他の降圧薬を併用します。血圧のコントロールに問題がなければ予後は良好ですが、血圧コントロール不良例では腎硬化症から腎不全に至る場合もあります。
リドル症候群になりやすい人・予防の方法
多くの症例は30歳未満で発症します。発症平均年齢は15.5±3.3歳と報告されています。30歳以前に高血圧を発症した患者のうち、0.9~1.5%がリドル症候群の病因遺伝子を有しているとされており、高血圧を有する若年発症の患者には一定の割合でリドル症候群が存在することが推察されています。リドル症候群は常染色体発現の遺伝性疾患で、家族歴のある早期発症の高血圧患者では、家族へのスクリーニングも考慮されます。家族歴のない孤発性のリドル症候群も報告されており、家族歴がなくても臨床症状があれば疑う必要があります。
参考文献
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