

監修医師:
伊藤 規絵(医師)
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旭川医科大学医学部卒業。その後、札幌医科大学附属病院、市立室蘭総合病院、市立釧路総合病院、市立芦別病院などで研鑽を積む。2007年札幌医科大学大学院医学研究科卒業。現在は札幌西円山病院神経内科総合医療センターに勤務。2023年Medica出版社から「ねころんで読める歩行障害」を上梓。2024年4月から、FMラジオ番組で「ドクター伊藤の健康百彩」のパーソナリティーを務める。またYou tube番組でも脳神経内科や医療・介護に関してわかりやすい発信を行っている。診療科目は神経内科(脳神経内科)、老年内科、皮膚科、一般内科。医学博士。日本神経学会認定専門医・指導医、日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医、日本老年医学会専門医・指導医・評議員、国際頭痛学会(Headache master)、A型ボツリヌス毒素製剤ユーザ、北海道難病指定医、身体障害者福祉法指定医。
目次 -INDEX-
原発性免疫不全症・先天性免疫異常症の概要
原発性免疫不全症・先天性免疫異常症(primary immunodeficiency disease:PID)は、生まれつき免疫系のどこかに遺伝的な異常がある疾患群の総称です。 免疫系は、外部から侵入する細菌やウイルスなどの病原体を排除する役割を担っていますが、これらの防御機構の一部に先天的な欠陥があることで、感染症にかかりやすくなったり、重症化しやすくなったりします。 疾患の種類は大変多く、2020年代には200〜400種類以上が知られており、原因となる遺伝子も140以上が特定されています。欠陥が生じる部位によって、主に以下のように分類されます。抗体産生(B細胞)不全や細胞性免疫(T細胞)不全、両者の複合型、好中球やマクロファージなど貪食細胞の異常、補体系の異常、免疫調節異常や自己炎症性疾患などです。 患者数(平成24年度医療受給者証保持者数)は1,383人と報告されています。発症年齢は新生児期から成人まで幅広く、特に成人では小児よりもさらに抗体不全症の割合が高くなります。 主な症状は、反復する重症感染症(肺炎、中耳炎、副鼻腔炎、髄膜炎など)ですが、乳児で呼吸器・消化器感染症を繰り返し、体重増加不良や発育不良が見られます。 診断には、臨床症状や家族歴、免疫学的検査、遺伝子解析が重要です。治療は、感染症予防や免疫グロブリン補充療法、造血幹細胞移植、近年では遺伝子治療が考慮されます。 原発性免疫不全症は、早期診断・治療が患者さんのQOLや生命予後改善に直結するため、専門的な医療体制と研究の進展が求められています。原発性免疫不全症・先天性免疫異常症の原因
免疫系に関わるタンパク質を作る遺伝子の先天的な異常です。これらの遺伝子変異により、免疫細胞の分化や機能に障害が生じ、感染症への抵抗力が低下します。 現在、原因となる遺伝子は140種類以上が同定されており、単一遺伝子疾患として発症することが多いですが、遺伝形式は多様で、X連鎖性遺伝、常染色体顕性(優性)・潜性(劣性)遺伝、さらには新規突然変異によるものも存在します。 また、家族歴がなくとも発症する場合があり、必ずしも親からの遺伝だけでなく、本人に新たに生じた変異が原因となることもあります。これらの遺伝子異常は、免疫系のさまざまな構成要素(B細胞、T細胞、貪食細胞、補体など)に影響を及ぼし、疾患の多様な臨床像につながります。このように、原発性免疫不全症・先天性免疫異常症は、遺伝子レベルの異常が根本原因であり、早期診断・治療のためには遺伝子解析が重要です。原発性免疫不全症・先天性免疫異常症の前兆や初期症状について
主に易感染性が特徴です。これは、風邪症状(咳や膿性鼻汁など)がなかなか治らなかったり、何度も発熱を繰り返したり、通常の治療で改善しにくい感染症が多発することを指します。 特に、肺炎、中耳炎、膿瘍、髄膜炎などの重症感染症を繰り返す場合や、入院治療が必要となることもあります。また、感染症の部位は呼吸器系が多いですが、皮膚や消化器、全身症状として発育不良や体重増加不良がみられることもあります。 さらに、乳児期からは先天性魚鱗癬や毛髪異常、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹、喘息などのアレルギー症状、発育不良、精神発達遅滞なども初期症状として現れることがあります。年齢や疾患の種類によって初発症状は異なり、自己免疫疾患や免疫制御異常が最初に現れるケースも報告されています。 このような症状が複数回繰り返される場合や、通常の感染症より重症化・治癒遷延する場合は、原発性免疫不全症を疑い、早期に専門医の診察を受けることが重要です。原発性免疫不全症・先天性免疫異常症の病院探し
小児科や血液内科、一般内科の診療科がある病院やクリニックを受診していただきます。原発性免疫不全症・先天性免疫異常症の検査・診断
多段階的かつ体系的に行われます。まず、臨床的には易感染性や重症感染症の反復、発育不良などの症状や家族歴から疑いを持ちます。国際免疫学会(International Union of Immunological Societies:IUIS)の分類や日本免疫不全症研究会が作成した診断基準に基づき、疾患のカテゴリや重症度を評価します。 初期検査では、血液検査による白血球分画、リンパ球サブセット(T細胞、B細胞、NK細胞の数)、免疫グロブリン(IgG、IgA、IgM)値の測定、補体活性の評価などが行われます。これにより、どの免疫系の異常が疑われるかを絞り込みます。さらに、T細胞やB細胞の機能検査、好中球の貪食能や殺菌能、抗体産生能の評価など、より詳細な機能的検査を追加します。 確定診断には遺伝子検査が不可欠です。従来は疑われる遺伝子を個別に解析していましたが、近年は次世代シーケエンサー(大量のDNA配列を同時解析する装置)を用いた網羅的な遺伝子解析が普及し、300種類以上の関連遺伝子を一度に解析できるようになりました。これにより、診断精度と速度が大きく向上し、適切な治療選択や予後改善に寄与しています。 診断の過程では、感染症以外の自己免疫症状やアレルギー症状、悪性腫瘍の有無も考慮されます。最終的には、臨床症状・免疫学的検査・遺伝子診断を総合して診断が確定されます。原発性免疫不全症は疾患数が多く診断が難しいため、専門医による多角的な評価と新しい遺伝子診断技術の活用が重要です。原発性免疫不全症・先天性免疫異常症の治療
原発性免疫不全症・先天性免疫異常症の治療は、疾患の種類や重症度によって大きく異なります。 軽症例では、感染症予防を目的とした抗菌薬、抗ウイルス薬、抗真菌薬の予防的内服が有効です。特に抗体産生不全症の場合、ヒト免疫グロブリン製剤(静脈内または皮下注射)を定期的に補充することで感染症の発症をほぼ防ぐことができます。 好中球減少症にはG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)、慢性肉芽腫症にはIFN-γ(インターフェロン・ガンマ)の定期投与が効果的とされています。また、症状が重い場合や複合免疫不全症などでは、早期に造血幹細胞移植(骨髄移植や臍帯血移植)が根治療法として選択されます。適切なドナーが見つからない場合や特定の疾患では、遺伝子治療も海外で行われ始めています。 さらに、自己免疫症状や炎症が強い場合には、免疫抑制薬やステロイド薬の投与が必要となることもあります。治療の基本は感染症の予防と早期治療であり、日常生活でも手洗いやうがい、感染源との接触回避などの注意が重要です。 このように、原発性免疫不全症・先天性免疫異常症の治療は多岐にわたり、個々の患者さんの状態や疾患特性に合わせて適切な治療法が選択されます。専門医による継続的な診療と、新しい治療法の導入が患者さんの予後改善に不可欠です。原発性免疫不全症・先天性免疫異常症になりやすい人・予防の方法
主に遺伝的要因によって発症する希少疾患群であり、国内では、平成二十年の全国調査では、人口10万人あたり有病率2.3人でした。男女比は、2.3対1、年齢の中央値は12.8歳(15歳以上が42.8%)という結果があります。 多くはX連鎖潜性(劣性)遺伝や常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、家族歴がある場合や乳幼児期に感染症で死亡した親族がいる場合は発症リスクが高まります。また、突然変異による発症も報告されています。 予防の基本は感染症対策です。日常的な手洗い・うがい、感染源との接触回避が重要です。また、適切なワクチン接種(ただし生ワクチンは避ける)、抗菌薬や抗真菌薬の予防投与、ヒト免疫グロブリン製剤の定期補充などが感染予防策として推奨されています。 重症例では専門医による早期診断と治療が不可欠です。家族歴や感染症の反復がみられる場合は、早めに医療機関を受診し、専門的な評価を受けることが重要です。関連する病気
- 重症複合免疫不全症
- 慢性肉芽腫症
- 選択的IgA欠損症
参考文献




