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ハーラー症候群
山田 克彦

監修医師
山田 克彦(佐世保中央病院)

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大分医科大学(現・大分大学)医学部卒業。現在は「佐世保中央病院」勤務。専門は小児科一般、小児循環器、小児肥満、小児内分泌、動機づけ面接。日本小児科学会専門医・指導医、日本循環器学会専門医。

ハーラー症候群の概要

ハーラー症候群(ムコ多糖症Ⅰ型の重症型)は、細胞内の「ライソゾーム」という部位で働く酵素が欠損することで、ムコ多糖(グリコサミノグリカン)が分解されず、細胞内に溜まる先天性疾患です。
約10万人に1人の割合で発症し、日本では70症例以上が報告されています。

ムコ多糖症は、異常が生じている酵素や細胞内にたまるムコ多糖の種類によって、7つの型にわけられます。
ハーラー症候群は、この7つの型の中のムコ多糖症Ⅰ型の最重症型で「α-L-イズロニダーゼ」という酵素の欠損が生じ、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸などのムコ多糖が分解されずに細胞内に蓄積し、多臓器に障害を及ぼすのが特徴です。

症状は、生後6ヵ月から2歳の間に見られ始め、特徴的な顔貌や精神運動発達遅滞、心臓弁膜症、水頭症、角膜混濁、心不全、肝臓や脾臓の腫大、関節拘縮などが生じます。

検査は画像検査や尿検査、血液検査、遺伝子検査などが行われ、原因酵素活性の低下が確認された場合に確定診断となります。

治療は、水頭症や心臓弁膜症などの合併症各々に対する支持療法、原因に対する治療としてα-L-イズロニダーゼの補充療法、造血幹細胞移植などを行います。
造血管細胞移植は、生涯にわたって酵素の供給が可能になりますが、移植片対宿主病のリスクに注意が必要です。

(出典:小児慢性特定疾病情報センター「75ムコ多糖症Ⅰ型」

ハーラー症候群の原因

ハーラー症候群の原因は、細胞内のライソゾームで働くα-L-イズロニダーゼの欠損です。

α-L-イズロニダーゼは、細胞間のつながりや、骨や軟骨の形成に重要な役割を果たすムコ多糖を分解する働きを持っています。
ハーラー症候群では、α-L-イズロニダーゼの欠損もしくは活性低下により、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸などのムコ多糖が分解されずに体内に蓄積します。
それにより、全身の臓器や結合組織などに影響を及ぼし、さまざまな症状を引き起こします。

ハーラー症候群は常染色体劣性遺伝性疾患であり、両親がともにIDUA遺伝子に変異を保因している場合、子どもが発症する確率は25%、保因者となる確率は50%です。

ハーラー症候群の前兆や初期症状について

ハーラー症候群の乳児は出生時には正常に見えますが、広範囲の蒙古斑(もうこはん)や肝臓・脾臓の腫大、臍ヘルニア、鼠径ヘルニアなどの皮膚症状や腹部症状に気づかれることがあります。
6ヶ月以降、上記のほか、骨格の変形、顔貌の特徴、角膜の混濁、巨舌、前額部の突出、関節拘縮などが目立ちはじめ、1-2歳までには精神発達遅滞が顕著になり、言葉の遅れが目立つようになります。

骨・関節系の異常も進行し、脊椎や大腿骨、股関節の変形、手指や肘、膝などの関節拘縮が生じます。
それによって、3歳以降は成長が鈍化します。

さらに、心臓弁膜症や心筋症などの心合併症による心不全、水頭症、角膜混濁、緑内障、網膜変性による視力障害、反復性中耳炎、難聴、扁桃腺の肥大、睡眠時無呼吸症候群、呼吸障害などの症状も現れることがあります。
これらの症状は徐々に進行し、患者の生命予後と生活の質に大きな影響を与えます。

ハーラー症候群の検査・診断

ハーラー症候群の検査では、画像検査や尿検査、血液検査、遺伝子検査などが行われます。
画像検査では、X線検査で骨や軟骨の形成異常や、脳MRI検査で脳室の拡大などの所見について評価します。

尿検査ではデルマタン硫酸やヘパラン硫酸の排出、血液検査ではα-L-イズロニダーゼの活性低下について確かめます。
遺伝子診断は確定診断に必須ではありませんが、重症度の予後判定や家族内の保因者診断、次子の出生前診断に有用です。

ハーラー症候群の治療

ハーラー症候群の治療は、対症療法、酵素補充療法、造血幹細胞移植を組み合わせて行われます。

対症療法

個々の症状に応じた対症療法が実施されます。
慢性中耳炎には鼓膜チューブの挿入、睡眠時無呼吸症候群には扁桃腺切除や経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP)、気管切開が行われます。
心弁膜症に対しては薬物療法や手術、水頭症には脳室腹腔シャント術が適用されます。
角膜混濁には角膜移植、関節変形や骨折には整形外科的手術が検討されます。

酵素補充療法

酵素補充療法として、α-L-イズロニダーゼの遺伝子組換え製剤である「ラロニダーゼ」を週1回点滴静注します。
定期的に酵素補充療法を実施することにより、いくつかの症状の改善が期待できますが、補充された酵素は脳に到達しにくく、中枢神経障害の進行を止める効果は限定的です。また発熱や蕁麻疹などの副作用リスク、抗体産生による効果消失の可能性もあります。

造血管細胞移植

造血幹細胞移植は生涯にわたる酵素供給を可能にし、生後2年未満で移植が行われた場合のより高い効果が認められていて、中枢神経系への効果も期待できます。
しかし、ドナーの確保が困難な場合や、移植片対宿主病のリスクがあるため、適応は慎重に検討する必要があります。

(出典:日本先天代謝異常学会「ムコ多糖類(MPS)Ⅰ型診療ガイドライン2020」

ハーラー症候群になりやすい人・予防の方法

ハーラー症候群は常染色体劣性遺伝性疾患であり、両親がともにIDUA遺伝子の変異を保有している場合、産まれてくる子どもが発症する可能性があります。
現時点では予防法はありませんが、遺伝的リスクがある家族は遺伝カウンセリングを受けることが推奨されます。
ハーラー症候群は、ムコ多糖症Ⅰ型のうちの最重症型で、進行性かつ多臓器に障害を及ぼす重篤な疾患ですが、近年は酵素補充療法や造血幹細胞移植などにより治療成績が改善しつつあります。早期診断と多職種による包括的ケアが、予後と生活の質の向上に不可欠です。

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