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ニコチン酸欠乏症
伊藤 規絵

監修医師
伊藤 規絵(医師)

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旭川医科大学医学部卒業。その後、札幌医科大学附属病院、市立室蘭総合病院、市立釧路総合病院、市立芦別病院などで研鑽を積む。2007年札幌医科大学大学院医学研究科卒業。現在は札幌西円山病院神経内科総合医療センターに勤務。2023年Medica出版社から「ねころんで読める歩行障害」を上梓。2024年4月から、FMラジオ番組で「ドクター伊藤の健康百彩」のパーソナリティーを務める。またYou tube番組でも脳神経内科や医療・介護に関してわかりやすい発信を行っている。診療科目は神経内科(脳神経内科)、老年内科、皮膚科、一般内科。医学博士。日本神経学会認定専門医・指導医、日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医、日本老年医学会専門医・指導医・評議員、国際頭痛学会(Headache master)、A型ボツリヌス毒素製剤ユーザ、北海道難病指定医、身体障害者福祉法指定医。

ニコチン酸欠乏症の概要

ニコチン酸は、ビタミンB₃の一種で、水溶性ビタミンとして知られています。ビタミンB3は、別名ナイアシンとも呼ばれ、ニコチン酸やニコチン酸アミドなどの総称で、体内で糖質、脂質、タンパク質の代謝に関与する補酵素(酵素の働きを助ける小さな部品のような物質であり、これにより、酵素が体内で化学反応を進める力を発揮できる)の原料となります。

生鮮食品中では、ナイアシンは、主にピリジンヌクレオチド(NAD、NADP)の形で存在しますが、食品を調理・加工する際に分解され、動物性食品ではニコチンアミド、植物性食品ではニコチン酸になり小腸から吸収されます。ニコチン酸は、体内で酸化還元反応をサポートする補酵素として働きます。特に、ニコチン酸は、ほとんどがニコチン酸アミドの形で、広く動植物に分布しています。また、その大部分は、細胞内でNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)やNADP(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)に変換され、糖質、脂質、タンパク質の代謝に関与しています。また、皮膚や粘膜を正常に保つ作用や血流を改善する作用もあります。

ニコチン酸欠乏症は、ビタミンB₃(ナイアシン)が不足することで発生する栄養障害の一つです。この欠乏症は、主に食事に含まれるナイアシンやトリプトファン(アミノ酸の一種)が不足している場合に起こります。トリプトファンは体内でナイアシンに変換されるため、両者の不足がペラグラという病気を引き起こします。

主な症状は、皮膚炎、下痢、認知症の3つです。これらの症状は、皮膚、消化器系、神経系に影響を及ぼします。
原因は、食事の偏りです。トウモロコシが主食の地域では、ナイアシンとトリプトファンの摂取が不足しやすいようです。特に、トウモロコシをアルカリ処理しないと、ナイアシンが腸で吸収されにくいためです。また、栄養不良によりタンパク質やほかのビタミンB群の欠乏も同時に起こることが多く、特にアルコール依存症の方々に多いようです。

診断は、食事歴や症状、尿検査の結果に基づいて行われます。
治療には、高用量のニコチン酸アミドを経口投与する方法が一般的です。予防には、バランスの取れた食事が重要です。特に、ナイアシンを豊富に含む食品(肉、魚、卵、乳製品など)を摂取することが推奨されます。

ニコチン酸欠乏症の原因

ビタミンB₃(ナイアシン)が不足することで発生する栄養障害の一つです。この欠乏症は、主に食事に含まれるナイアシントリプトファン(アミノ酸の一種)が不足している場合に起こります。トリプトファンは体内でナイアシンに変換されるため、両者の不足がペラグラという病気を引き起こします。特に、トウモロコシが主食の地域では、ナイアシンとトリプトファンの摂取が不足しやすいです。トウモロコシには結合ナイアシンが含まれており、アルカリ処理しないと腸で吸収されにくいためです2)。このアルカリ処理は、トウモロコシをトルティーヤやタマーレなどの食品に加工する際に行われるニシュタマリゼーション(Nixtamalization;トウモロコシを石灰水や灰汁(あく)などのアルカリ水で処理する伝統的な方法)の一部です。

また、タンパク質やほかのビタミンB群の欠乏と同時に起こることが多く、特にアルコール依存症の方々に多いようです2)3)。慢性アルコール症は、食欲低下や吸収障害を引き起こし、ナイアシン欠乏を悪化させる要因となります。ナイアシン欠乏によるペラグラは季節性の病気である場合があり、毎年春に現れて夏の間続くことがあります。これは、食事の内容が主にトウモロコシ製品に偏る時期に発生するためです。

ニコチン酸欠乏症の前兆や初期症状について

皮膚症状が認められます。日光の当たる部分に左右対称に発赤や水泡が現れ、褐色の色素沈着が見られることがあります。特に手、足、首、顔に発生しやすいようです。さらに、消化器症状として、消化不良や吐き気、嘔吐、便秘や下痢(ときには消化管出血を伴う)が見られます。神経症状は、疲労感や不眠症、めまい、無関心などの訴えが現れます。初期症状が重症化すると、頭痛、抑うつ症、幻覚、錯乱、記憶障害などの神経系の症状が現れます。重症の場合、錯乱や発狂に至ることもあります。

 

ニコチン酸欠乏症の病院探し

内分泌代謝内科や一般内科、皮膚科、脳神経内科(または神経内科)の診療科がある病院やクリニックを受診していただきます。

ニコチン酸欠乏症の検査・診断

病歴と診察(特に皮膚と神経所見)に基づいて行われます。食事の習慣、大量飲酒の有無、薬物療法に関する情報は特に重要です。皮膚の診察では、日光の当たる部分に左右対称に発赤や水泡が現れ、褐色の色素沈着が見られることがあります。

確定診断のための特定の検査方法はありませんが、血液および尿中の代謝物質測定を行います。血液や尿中のL-トリプトファンNAD/NADP(酸化還元反応に関与する補酵素)などの濃度を測定することがあります。また、尿中のN1メチルニコチンアミド(N1-MN;NAD分解の最終代謝産物)やN1メチル2ピリドン5カルボキサミドの測定(2Py;NAD分解の最終代謝産物)も行われることがありますが、現時点では保険適用外で研究用途に限定されています。

ビタミンB群の血中濃度を確認することで、ほかの栄養素の欠乏状況を評価します。血清アルブミン値を測定し、全体的な栄養状態を評価します。

ニコチン酸欠乏症の治療

主にナイアシンの補充を中心に行われます。ニコチン酸アミドを経口投与することが一般的です。これらのビタミンB₃の形態は、体内で活性化され、欠乏症状を改善します2)。

一般的に、ニコチン酸アミドとして通常成人1日25〜300mgを3〜4回に分割して投与します5)。治療は3〜4週間続ける必要がありますが、皮膚症状は数日以内に改善します。重症例では、入院管理下でビタミンB群の静脈内投与が行われることがあります。

治療を開始すると、皮膚症状は数日以内に改善しますが、神経症状が完全に回復するには時間がかかることがあります。早期治療が重要であり、遅延すると非可逆的な神経症状を残すことがあります。

ニコチン酸欠乏症になりやすい人・予防の方法

ニコチン酸欠乏症になりやすい方は、トウモロコシが主食の方です。トウモロコシはナイアシンとトリプトファンが少なく、アルカリ処理しないと腸で吸収されにくいため、リスクが高まります。そのほか、偏食(食事の偏りがある方)やアルコール依存症の方です。慢性的なアルコール摂取は、消化管の機能を低下させ、ナイアシンの吸収を妨げます。また、栄養不良の方もタンパク質やほかのビタミンB群の欠乏と同時に発生することが多いようです。

予防には、バランスの取れた食事が重要です。特に、ナイアシンを豊富に含む食品を摂取することが推奨されます。例えば、魚介類(カツオ、マグロ)や肉類、レバー、きのこ類、落花生などを積極的に摂ることです。トリプトファンは体内でナイアシンに変換されるので、トリプトファンの摂取も大切です。さらに、タンパク質を多く含む食品を摂取することです。また、トウモロコシをアルカリ処理することで、ナイアシンの吸収を助けることができます。ペラグラの予防には、ナイアシンを豊富に含む食品を摂取し、アルコール依存症や栄養不良を避けることが推奨されます。

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