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レッシュ・ナイハン症候群
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

レッシュ・ナイハン症候群の概要

レッシュ・ナイハン症候群は、細胞内におけるプリン体の代謝に関わる酵素が先天的に欠けることで生じる遺伝性疾患です。
発症頻度は10万人に1人程度とされ、患者のほとんどが男児です。

プリン体は細胞内で核酸(DNAやRNAなどの遺伝情報)を作る物質で、核酸を作る過程(代謝)によって尿酸が生じます。
作られた核酸が分解された場合はプリン体が再利用され、その際には「ヒポキサンチン・グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)」という酵素が必要になります。

しかし、レッシュ・ナイハン症候群では何らかの原因でHPRTが先天的に欠損しているため、プリン体が正常に再利用されず、体内にプリン体や尿酸が過剰に溜まります。
プリン体や尿酸が溜まることによって、高尿酸血症(痛風や腎障害)や神経学的異常(不随意運動、筋硬直)、自傷行為(唇や爪を噛むなど)、精神運動発達遅滞などが生じるのが特徴です。

診断は、血液検査や尿検査、遺伝子検査を組み合わせて行われます。
治療の中心は尿酸コントロールで、尿アルカリ剤などの薬物療法を行います。
不随意運動や筋硬直には抗痙縮薬や抗てんかん薬、自傷行為には物理的抑制や向精神薬などが用いられます。

レッシュ・ナイハン症候群は根治治療がなく、適切な治療をしても20〜30代で死に至ることが多いです。
予後をできるだけ良好に導くためには、乳児期からの尿酸管理や定期的な腎機能のモニタリングが欠かせません。

(出典:小児慢性特定疾病情報センター「114ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ欠損症(レッシュ・ナイハン(Lesch-Nyhan)症候群)」

レッシュ・ナイハン症候群の原因

レッシュ・ナイハン症候群の原因は、X染色体上にある「HPRT1遺伝子」の変異です。
HPRT1遺伝子は、HPRTの生成に関与しています。
HPRT1遺伝子の変異により、HPRTが不足もしくは完全に欠損すると、プリン体の再利用が正常に行われず、体内にプリン体や尿酸が過剰に蓄積します。

また、レッシュ・ナイハン症候群はX連鎖劣性遺伝形式をとるため、主に男児に発症します。
母親がHPRT1遺伝子の変異を保有している場合、産まれてくる男児は50%の確率で発症します。

レッシュ・ナイハン症候群の前兆や初期症状について

レッシュ・ナイハン症候群は、新生児期から症状が現れるケースが多いです。
生後早い段階で高尿酸血症が認められ、おむつに血尿が付着することもあります。
哺乳異常や発育不良も認められ、生後2〜3ヵ月ごろに腎障害による尿路感染症や腎結石、痛風発作などが生じることがあります。

成長に伴い精神運動発達遅滞が目立つようになり、同じ月齢の子どもと比べ、運動・精神発達の遅れが生じます。,
1歳ごろから舞踏病アテトーゼによる不随意運動や筋硬直なども現れます。

2歳ごろには唇や爪を噛む、頭を激しく振るなどの自傷行為が発生します。
これらの自傷行為はストレスによって悪化することも多いです。

さらに、歩行の獲得は難しく、多くの場合、移動に車椅子が必要になります。
HPRTが完全に欠損している重症例では、寝たきりになることもあります。

レッシュ・ナイハン症候群の進行は患者ごとに異なりますが、早期の診断と適切な管理が重要です。

レッシュ・ナイハン症候群の検査・診断

臨床症状からレッシュ・ナイハン症候群が疑われる場合、血液検査や尿検査、遺伝子検査を組み合わせて診断が行われます。

血液検査や尿検査では尿酸値の測定が重要であり、生後1か月から尿酸値の上昇が確認されることが特徴です。
また、尿中尿酸/クレアチニン比の上昇も診断の一助となります。
さらに、赤血球内のHPRTの活性低下についても確認します。

遺伝子検査ではHPRT1遺伝子の変異を特定することで確定診断が可能となり、アデノシンデアミナーゼ欠損症やプリンヌクレオシドホスホリラーゼ欠損症などの類似疾患との鑑別にも役立ちます。
これらの検査を総合的に評価し、診断が確定されます。

レッシュ・ナイハン症候群の治療

レッシュ・ナイハン症候群は、根本的な治療法がないため対症療法が中心となります。
高尿酸血症に対しては、積極的に水分摂取を促すとともに、尿アルカリ剤やキサンチン脱水素酵素阻害剤を投与します。
不随意運動や筋硬直に対しては抗痙縮薬や抗てんかん薬、自傷行為にはマスクなどの物理的抑制や向精神薬が用いられますが、これらの治療法の有効性は確立されていません。

治療の主な目標は、合併症の予防と症状の軽減によって、できる限り患者の生活の質を向上させ、予後を改善することです。

レッシュ・ナイハン症候群になりやすい人・予防の方法

レッシュ・ナイハン症候群は、母親がHPRT1遺伝子の変異を保有している場合、生まれてくる男児の50%が発症するX連鎖劣性遺伝疾患です。

現在のところ、レッシュ・ナイハン症候群を予防する方法は確立されていません。
出生後に特徴的な症状が見られた場合は、速やかに医療機関で相談することが重要です。

レッシュ・ナイハン症候群は高尿酸血症や腎機能障害が予後に大きく影響するため、早期発見と適切な治療介入が患者の生活の質の向上に欠かせません。

関連する病気

  • 高尿酸血症
  • 精神運動発達遅滞
  • 舞踏病アテトーゼ
  • アデノシンデアミナーゼ欠損症
  • プリンヌクレオシドホスホリラーゼ欠損症

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