

監修医師:
五藤 良将(医師)
目次 -INDEX-
ヤング・シンプソン症候群の概要
ヤング・シンプソン症候群は、先天異常症候群(複数の臓器に先天性の症状が見られる疾患)のひとつで、特徴的な顔つきや精神発達の遅れ、目の異常、骨格異常、内分泌系の異常、外性器の異常などが主な症状としてあらわれます。
発症頻度は約10〜20万人に1人とまれな疾患で、日本国内の患者数は100人未満と推定されています。遺伝子の異常によって引き起こされると考えられていますが、詳しい発症メカニズムはまだ解明されていません。
(出典:難病情報センター「ヤング・シンプソン症候群(指定難病196)」)
ヤング・シンプソン症候群の症状は、出生直後からみられることが多く、新生児期には軽度の呼吸障害や哺乳障害が目立ちます。とくに、哺乳力が弱いことで、ミルクをうまく飲めずに鼻から漏れることがほとんどのケースで報告されています。
身体的な特徴として、まぶたの開きが小さく、新生児期にほとんど目を開けないことが挙げられます。骨格にも異常がみられ、足が内側に曲がっていたり、膝の皿(膝蓋骨)が十分に形成されていなかったりすることがあります。精神発達の遅れは中等度から重度に及ぶことが多く、成長とともに日常生活での支援が必要になります。
現時点では、根本的な治療法が確立されておらず、それぞれの症状に応じた対症療法が中心です。必要に応じて外科的手術が検討されることもあります。発達支援やリハビリテーションを早期に開始し、適切な治療や支援を受けることで、生活の質(QOL)を向上させることが可能です。

ヤング・シンプソン症候群の原因
ヤング・シンプソン症候群の原因は「KAT6B」という遺伝子の異常だと考えられています。しかし、この遺伝子異常がさまざまな臓器に影響を及ぼすメカニズムについてはまだ十分に解明されておらず、さらなる研究が必要とされています。
ヤング・シンプソン症候群の前兆や初期症状について
ヤング・シンプソン症候群の症状は、出生直後からあらわれることが多く、新生児期には軽い呼吸障害や哺乳障害が目立ちます。とくに、哺乳障害は大半の患者にみられ、哺乳力が弱く、ミルクをうまく飲めずに鼻から漏れることがしばしばあります。また、体が強く反り返るため、母乳を直接飲むことが難しい場合もあります。
身体的な特徴として、目の開きが小さく(眼瞼裂狭小)、新生児期にはほとんど目を開けられないことが挙げられます。眼瞼裂狭小に関連して、鼻涙管閉塞や弱視がみられることがあります。聴力にも影響が出ることがあり、難聴をともなうケースも報告されています。
骨格の異常としては、足が内側に曲がっていたり(内反足)、膝の皿(膝蓋骨)が十分に形成されていなかったりすることがあります。
男児の場合、精巣が正しい位置に降りてこない「停留精巣」、陰茎が小さい「ミクロペニス」などの外性器の発育異常がみられることもあります。
内分泌系の異常としては、甲状腺機能の低下が挙げられます。これにより成長障害や代謝の低下が引き起こされることがあります。
成長とともに、中等度から重度の精神発達の遅れが顕著になります。言葉を理解することはある程度できても、自分の思いや考えを言葉で表現することが難しいケースが多くみられます。
ヤング・シンプソン症候群は、出生前から影響があらわれる場合もあり、胎児期に羊水が多くなる「羊水過多」が認められることが多く、約70%の症例で報告されています。
ヤング・シンプソン症候群の検査・診断
ヤング・シンプソン症候群の診断は、主要な6つの症状と遺伝子学的検査の結果をもとに行われます。確定診断には、原因となる遺伝子の異常が確認されることが必要ですが、遺伝子の異常が認められない場合でも、特定の症状が診断の手がかりとなります。
ヤング・シンプソン症候群の診断において必須となるのは、特徴的な顔つき(狭いまぶたや膨らんだ頬)、中等度から重度の精神発達の遅れ、目の異常(弱視や鼻涙管閉塞など)です。これらに加えて、骨格の異常、甲状腺機能低下症、外性器の異常のいずれかが認められる場合には、ヤング・シンプソン症候群と臨床的に診断されます。
ヤング・シンプソン症候群の治療
現時点では、ヤング・シンプソン症候群の根本的な治療法は確立されていません。そのため、それぞれの症状に応じた対症療法が行われます。
骨格の異常がある場合は、内反足などの矯正や手術が必要になることがあります。目の異常に対しては、眼科的な治療や眼鏡などの矯正器具を使用することで視力の改善を図ります。難聴がある場合には、補聴器の使用が検討されることが一般的です。甲状腺機能低下症に対しては、甲状腺ホルモンの補充療法を行うことで代謝機能の改善が期待できます。
また、精神発達の遅れに関しては、早期からの療育やリハビリテーションが重要です。言語発達や運動発達を促すためのリハビリテーションを行うことで生活の質(QOL)の向上が期待できます。
ヤング・シンプソン症候群になりやすい人・予防の方法
ヤング・シンプソン症候群は、常染色体優性遺伝という遺伝形式をとるため、両親のいずれかがヤング・シンプソン症候群である場合、子どもが発症する確率は約50%です。ただし、両親に遺伝子の異常が生じていなくても、、突然変異によって産まれてくる子どもが発症する可能性があります。
現時点では、ヤング・シンプソン症候群の発症を予防する方法は確立されていませんが、遺伝的な発症リスクが心配な場合は、専門医による遺伝カウンセリングを受けることも選択肢のひとつです。
関連する病気
- 外性器・膝蓋骨症候群
- 先天異常症候群
- 甲状腺機能低下症
- 逆内眼角贅皮症候群
参考文献




