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22q11.2欠失症候群
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

22q11.2欠失症候群の概要

22q11.2欠失症候群は、「22q11.2」と呼ばれる第22番染色体の一部が、微細に欠失することで発症する先天性疾患です。まれな疾患であり、厚生労働省の指定難病に登録されています。
この疾患では、失われる遺伝子の数は約30個ほどとされているものの、さまざまな身体症状や発達障害が生じることが知られています。

22q11.2欠失症候群は、大半の場合、突然変異を原因として発症すると考えられています。
22q11.2欠失症候群の症状で主なものは、心疾患や特徴的な顔貌、胸腺低形成による免疫力低下、低カルシウム血症、精神発達遅滞などです。
成長に伴って統合失調症などの精神疾患が合併することもあります。

これらの中でも特に深刻な合併症と考えられているのは心疾患で、ファロー四徴症(心室中隔欠損・肺動脈狭窄・大動脈騎乗・右室肥大)や大動脈弓離断症が高頻度に発生します。

診断は出生後、臨床症状をもとに疑われ、遺伝子検査で確定します。
22q11.2欠失症候群の治療では、予後に大きく関わる心疾患の外科的手術が優先されるのが一般的です。
新生児期から病態に応じた手術計画を立て、生涯にわたって治療や生活指導を続けることが必要です。
そのほか、低カルシウム血症の治療や、免疫不全に対する感染症予防なども行います。
生活動作や生活の質向上を獲得するために、リハビリテーションも実施します。

日常生活では、心臓の負荷を避けるために、激しい運動や過度なストレスを控えるなどの注意が必要です。
また、精神発達遅延がある場合は、学校や就職先で社会支援が必要になることもあります。

(出典:難病情報センター「22q11.2欠失症候群(指定難病203)」

22q11.2欠失症候群の原因

22q11.2欠失症候群の直接的な原因は、22番染色体上にある22q11.2の微細な欠失であることがわかっています。
失われる遺伝子の数はわずか30個ほどではあるものの、その中に重要な機能を担う遺伝子が含まれていることで、さまざまな症状が生じます。

しかし、なぜ22q11.2の欠失が起こるのかは完全には解明されていません。
多くの症例では、こうした欠失は突然変異によって生じたものと考えられています。
もし両親のどちらかがこの病気を発症している場合、50%の確率で子どもに遺伝します。

22q11.2欠失症候群の前兆や初期症状について

22q11.2欠失症候群では、出生後から心疾患や、口蓋裂や小顎などの顔貌、胸腺低形成による免疫力低下、低カルシウム血症、精神発達遅滞などの症状が現れます。

ファロー四徴症などの心疾患を合併している場合は、チアノーゼによって唇や爪が紫色に変色したり、心不全によって多呼吸や哺乳困難が生じたりすることがあります。
進行すると、意識障害やけいれん発作を引き起こすこともあります。

また、成長するにつれて低カルシウム血症による低身長や、胸腺低形成による易感染性も目立つようになります。
さらに、斜視や脳萎縮、白内障、尖足、側弯症、腎臓の奇形、鼠径ヘルニアなどの合併症が生じることもあります。

小学生以降になると、口蓋裂による発声異常や、精神発達遅延による学習障害が顕著になり、日常生活や教育面で支援が必要になることがあります。

22q11.2欠失症候群の検査・診断

22q11.2欠失症候群の診断は、臨床症状から疑いが生じた場合に、複数の検査を組み合わせて行われます。
血液検査では、低カルシウム血症の有無や副甲状腺機能について確かめるほか、免疫機能を評価するためにT細胞やB細胞の数、免疫グロブリン値などを確認します。

さらに、心臓の奇形を確かめるために超音波検査などの画像診断が用いられ、ファロー四徴症や大動脈弓離断などの特徴的な心疾患の有無を調べます。

最終的な確定診断には、FISH法などの遺伝子検査が実施され、22q11.2の微細欠失について直接確認します。
これらの検査結果を総合的に評価し、診断が確定されます。

22q11.2欠失症候群の治療

22q11.2欠失症候群には根本的な治療法はありません。
新生児期から症状に応じた個別の治療計画と生活指導が行われます。

多くの場合、治療として優先されるのは心臓の手術です。
肺動脈狭窄がある場合、肺動脈と鎖骨下動脈をつなぐ「ブラロックータウシッヒ短絡手術」が行われます。
心室中隔欠損に対しては、右心室への流出路を形成する「心内修復術」が実施されます。
心内修復術には肺動脈弁を残す「自己弁温存法」、膜を当てて形成する「右室流出路パッチ拡大術」、人工血管などを利用する「ラステリ術」などがあります。

心臓の手術は乳幼児期に実施した後も、成長に伴い血液の流路に異常が生じた場合は、カテーテル治療やコイル塞栓術が選択されることもあります。

心臓の手術以外にも、低カルシウム血症の治療や免疫不全に対する感染症予防が必要です。
精神発達遅滞がある場合は、状況に応じた支援や治療が行われます。

また、言語や日常生活動作の獲得のために、理学療法、作業療法、言語療法などのリハビリテーションも重要な治療の一環となります。

これらの治療は生涯にわたって継続的に行われ、患者の状態に応じて適宜調整されます。

22q11.2欠失症候群になりやすい人・予防の方法

22q11.2欠失症候群の発症リスクが高い特定の因子や、予防法は現在のところ明らかになっていません。
出生前検査や着床前遺伝子学的検査を受けることで、産まれてくる子どもの発症リスクについて確認することはできます。

出生後は心疾患による重篤な症状を防ぐため、できるだけ早期に診断し、適切な治療を開始することが重要です。
早期発見と迅速な対応が、生活の質と予後の改善につながります。

関連する病気

  • ファロー四徴症
  • 大動脈弓離断症

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