

監修医師:
高宮 新之介(医師)
目次 -INDEX-
多発血管炎性肉芽腫症の概要
多発血管炎性肉芽腫症は、血管に炎症が起こることでさまざまな症状をきたす血管炎と呼ばれる疾患の一つです。英語ではGranulomatosis with Polyangiitis(GPA)と呼ばれ、以前はWegener(ウェゲナー)肉芽腫症という名前で知られていました。
多発血管炎性肉芽腫症を含めた血管炎は、細菌やウイルスなどの病原微生物から身を守る免疫の働きに異常が生じ、誤って自分の血管を攻撃してしまう自己免疫性疾患です。その結果、血管の壁に炎症や壊死が起こり、血流が滞ったり、周囲の組織が損傷を受けたりします。
多発血管炎性肉芽腫症は血管炎のなかでも、特に小さな血管に炎症が起こるANCA関連血管炎という病気のグループの一つです。ANCA関連血管炎にはほかに、顕微鏡的多発血管炎や好酸球性多発血管炎性肉芽腫症と呼ばれる疾患があります。そのなかでも多発血管炎性肉芽腫症は炎症に伴って肉芽腫と呼ばれる免疫細胞の塊が形成されるのが特徴です。
特に炎症が起こりやすい場所が3ヶ所あります。それは、①鼻・耳・副鼻腔などの上気道、②肺、そして③腎臓です。これらの部位に炎症が広がると、鼻づまり・鼻血・難聴・咳・息切れ・血尿・むくみなど、全身に多様な症状が現れます。一般的には上気道→肺→腎臓の順番で症状が進行することが多いです。
多発血管炎性肉芽腫症の原因
多発血管炎性肉芽腫症の原因は、現時点では明らかではありません。しかし、多くの研究から、遺伝的な体質と環境的な要因が組み合わさって発症すると考えられています。
この病気に関係する大きな特徴の一つがANCA(抗好中球細胞質抗体)という異常な抗体が作られることです。抗体とは、本来は身体の中に入ってきた病原微生物を認識してくっつき、身体を守ってくれる免疫システムのタンパク質です。ところがANCAは、白血球の一種である好中球の細胞質(核以外の領域)の成分を認識して結合します。ANCAが結合した好中球は異常な活性化をきたし、血管を構成する細胞を傷つけてしまうのです。
ANCAのように自分自身の細胞やタンパク質などに対して作られる抗体を自己抗体と呼びます。ANCAにはいくつかの種類がありますが、多発血管炎性肉芽腫症で特に多く認められるのはPR3-ANCAと呼ばれるタイプです。
多発血管炎性肉芽腫症を含めたANCA関連血管炎の発症に関連していると考えられている環境因子には、次のようなものが挙げられます。
- 薬剤:プロピルチオウラシル(抗甲状腺薬)・ミノサイクリン(抗生剤)・ヒドララジン(降圧薬)など
- 環境化学物質:特にシリカ
- 感染症
多発血管炎性肉芽腫症の前兆や初期症状について
多発血管炎性肉芽腫症で侵されやすい3ヶ所のうち、初発症状として最も多いのは上気道の症状です。難治性中耳炎による難聴、鼻出血、副鼻腔炎による鼻づまりや顔面痛などの上気道症状がおよそ90%の患者さんで起こると言われています。上気道に近い目に炎症が波及することもあり、目の痛み・視力低下・眼球突出などで発症することもあります。
初期の時点では多発血管炎性肉芽腫症による上気道病変や眼病変と、ほかの疾患による症状とを見分けることは困難です。そのため、まずは耳鼻咽喉科や眼科への受診が望ましいでしょう。
また、発熱や体重減少などの全身症状も重要な初期症状です。ただし、こちらも多発血管炎性肉芽腫症に特異的な症状ではないため、一般内科・総合内科への受診がすすめられます。
ほかに多く認められるのは肺病変です。息切れ・呼吸困難感や咳、血痰などが起こります。こちらもさまざまな原因で起こるため、まずは一般内科・総合内科や呼吸器内科への受診が望ましいです。
多発血管炎性肉芽腫症の検査・診断
多発血管炎性肉芽腫症の診断には、症状の確認に加え、血液検査・尿検査・画像検査、さらに必要に応じて組織を調べる検査である生検を組み合わせて行います。一つの検査だけでは確定できないため、総合的な判断が大切です。
血液検査では、全身の炎症の程度を示すC反応性タンパク(CRP)や腎機能の程度を示すクレアチニンなどの数値を確認します。ANCA関連血管炎において重要な自己抗体であるANCAも血液検査で測定します。特に多発血管炎性肉芽腫症の場合はPR3-ANCAが重要です。
尿検査では、血尿や蛋白尿の有無から腎臓に影響が起こっていないかを調べます。
また、胸部X線やCT検査によって肺に炎症や出血、結節や空洞病変などがないかを確認します。
その他、症状がある臓器に炎症が起こっていないかを調べる検査をします。例えば、胸部X線やCT検査によって肺に結節や空洞性病変などがないかを確認したり、尿検査で蛋白尿や血尿など腎臓の炎症を示す所見があるかを調べたりします。
症状や全身状態によっては、より確実に診断するために鼻・肺・腎臓などの組織を採取して顕微鏡で調べる生検を行うこともあります。典型的には壊死性肉芽腫性血管炎が認められます。これは、小さな血管に炎症が起こり、血管やその周りの組織が壊れ、さらに免疫細胞のかたまり(肉芽腫)ができている状態のことです。
多発血管炎性肉芽腫症の治療
治療は疾患の活動性を抑え病気の勢いがない寛解状態に持ち込むための寛解導入療法と、寛解状態を保つための寛解維持療法に分けられます。
寛解導入療法
多くの場合は炎症と免疫を抑える作用の強いステロイドを使用します。
また、ステロイドに加えて、免疫抑制剤であるシクロフォスファミドや、B細胞という免疫細胞を抑えるリツキシマブという薬剤が多く併用されています。
最近、免疫システムの一部である補体というシステムの一部をブロックすることで炎症や血管の障害を抑えるアバコパンという薬剤が開発されました。今後の治療の選択肢として期待されています。
また、急速に進行する腎不全などの重症合併症がある場合には血漿交換療法を行うこともあります。血漿交換とは、血液を一度フィルターに通して、炎症性物質や自己抗体などを取り除く治療です。
実際には重症度や患者さんの身体の状態に応じて、これらの治療薬を組み合わせた治療を行います。
また、ステロイドをはじめとした各種薬剤による副作用の対策を並行して行います。
寛解維持療法
寛解状態になった後は、再発をしないように注意しながらステロイドを徐々に減らしていきます。必要に応じて免疫抑制薬を継続します。ステロイドは長期に大量に使用すると感染症・骨粗鬆症・代謝異常などの副作用をきたすため、できるだけ最低限で使用します。ただし、再発も多く起こるため、一定量のステロイドを長期に継続することも多くあります。
多発血管炎性肉芽腫症になりやすい人・予防の方法
多発血管炎性肉芽腫症になりやすいのはどのような方なのかははっきりわかってはいません。40〜60歳頃に多いと言われていますが、お子さんやご高齢の方にも発症します。一部の甲状腺の治療薬などはANCAの産生と関わる可能性が示唆されているため、内服している方は注意する必要があります。しかし、血管炎の発症はごく一部の方のみですので、過剰に心配する必要はありません。
残念ながら、確立された予防方法もありません。ただし、早期発見ができれば重篤な臓器障害を残す可能性が低くなります。長引く副鼻腔炎や中耳炎、原因不明の体調不良は放置せず、早めに病院を受診しましょう。抗甲状腺薬などリスクのある薬剤を内服している方は、定期的な血液検査を受けるように心がけてください。
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- 膠原病内科/血管外科/一般内科
参考文献




