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酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症

酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症
伊藤 たえ

監修医師
伊藤 たえ(医師)

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浜松医科大学医学部卒業。浜松医科大学医学部附属病院初期研修。東京都の総合病院脳神経外科、菅原脳神経外科クリニックなどを経て赤坂パークビル脳神経外科 菅原クリニック東京脳ドックの院長に就任。日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本脳ドック学会認定医。

酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症の概要

酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症(ASMD)は、特定の酵素が先天的に欠損してしまう「ライソゾーム病」の一種です。ライソゾーム病は障害の起きる遺伝子や酵素ごとに細かく病型が分かれていて、現在までにこのASMDを含め50種類以上が知られています。ライソゾーム病全体が、まれで治療の難しい疾患として厚生労働省の指定難病に登録されています。

ASMDでは「酸性スフィンゴミエリナーゼ」という酵素がうまく働かない、または欠けているために「スフィンゴミエリン」という物質が分解されず、体内の各所に蓄積しさまざまな症状が引き起こされます。

ASMDは症状の現れ方によって主に3つのタイプに分類されます。生後数ヶ月で発症する「乳児内臓神経型」、神経症状が現れにくい「慢性内臓型」、内臓症状に加えて何らかの神経症状が現れる「慢性内臓神経型」です。

ASMDの根本的な治療法は今のところ確立されておらず、治療では主に「酵素補充療法」という欠損している酵素を補う方法がおこなわれます。ASMDを発症した患者さんは生涯にわたって点滴治療を受けるケースも少なくありません。

ASMDは非常にまれな病気であり、なかには症状が軽いタイプもあるとされます。そのため、診断が下されるきっかけがないまま過ごしている患者さんもいると推測されています。

早期発見と適切な治療により、重症化の予防や生活の質の向上につながる可能性があります。

酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症の原因

ASMDの原因は特定の遺伝子の異常です。この遺伝子に問題が生じると酸性スフィンゴミエリナーゼがうまく作られなかったり、機能しなくなったりします。

酸性スフィンゴミエリナーゼとはライソゾームという器官の中にある酵素です。そもそもライソゾームとは細胞1つ1つの中にある小さな器官で、不要になった物質を処理する役割があります。

ライソゾームの中には多くの酵素が含まれており、それぞれが特定の物質を分解する役割を担っています。ASMDはこのうちの酸性スフィンゴミエリナーゼという酵素の働きが弱いか、または機能しなくなるために発症します。

酸性スフィンゴミエリナーゼが正常に機能せず、スフィンゴミエリンが分解されないままでいると肝臓や脾臓、肺や中枢神経などの細胞内に蓄積し、さまざまな症状を引き起こします。

病気の程度は、酸性スフィンゴミエリナーゼの活性の程度によって決まります。活性がほとんどない場合は症状が重く、活性がある程度ある場合は症状が比較的軽い傾向があると考えられています。

酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症の前兆や初期症状について

ASMDの症状は病気のタイプによって異なります。ただし、同じ病型であっても症状の現れかたには個人差があり、進行の速さもさまざまです。

乳児内臓神経型

乳児内臓神経型の場合、生後数カ月頃から肝臓と脾臓の腫れによりお腹がふくらむなどの症状が現れ始めます。

おなかが膨れるためミルクを吸う力が弱い、頻繁に嘔吐する、すぐに不機嫌になる、夜泣きが多いなどの症状が現れます。筋肉がやわらやく、抱きかかえたときに手に力が入らず垂れ下がるといった症状も現れます。

一般的に症状の経過は速く、神経系や臓器に重い症状が現れることが多いとされます。

慢性内臓型

慢性内臓型は子どもから大人まで幅広い年齢で発症する可能性があります。

一般的な初期症状は肝臓や脾臓の腫れによるお腹のふくらみです。咳や息切れといった呼吸器の症状が現れることもあります。

血液検査ではLDLコレステロールやトリグリセリドの値が高く、HDLコレステロールの値が低い脂質異常症が見つかることがあります。

慢性内臓神経型

慢性内臓神経型は慢性内臓型と似た症状に加えて、筋力の低下やけいれん、筋肉のこわばりなどの神経症状が現れます。

比較的ゆっくりと進行するケースが多い点が特徴とされています。

酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症の検査・診断

ASMDでは問診や視診、腹部超音波検査や胸部X線検査、血液検査などの結果によって診断します。

問診や視診では発達の遅れなどを確認し、腹部超音波検査では肝臓や脾臓の腫れなどの症状を確認します。呼吸器系の感染症を起こしている場合、胸部X線検査も有用とされています。

血液検査ではLDLコレステロールやHDLコレステロール、トリグリセリドの値を調べ、脂質異常症の有無を確認します。 さらに、酵素活性の測定や遺伝子の検査を行って確定診断になります。

ASMDはまれな疾患であり、ほかの病気との鑑別が容易でないケースもあり診断に時間がかかることがあります。

酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症の治療

現在のところASMDの主な治療法は「酵素補充療法」です。これは不足している酵素を点滴で補充する方法で、近年日本でも実施可能になりました。酵素補充療法により細胞内に蓄積した物質を分解し、症状の進行を抑えることが期待できます。

腹部や肺の症状に対しては効果が期待できるものとされていますが、神経症状の改善は難しいとされている面もあるため、神経症状に対する治療は対症療法をおこないます。

ASMDは進行性の病気であるため、早期発見や早期治療が重要です。現在、ASMDを根治できる方法は見つかっていませんが、適切な治療によって症状の進行を遅らせることができると考えられています。

治療方針は一人ひとりの状態によって異なるため、専門医との相談が欠かせません。

酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症になりやすい人・予防の方法

ASMDは遺伝性疾患であるため、特定の生活習慣や環境要因によって発症するわけではありません。ASMDの発症そのものを予防する方法はありませんが、カウンセリングによって家族計画に関する情報を得ることは可能です。

ASMDの家族歴がある場合はできるだけ早い段階で医療機関へ受診し、専門の医師と相談しましょう。病気の進行を予防する点において早期発見や早期治療が重要です。

診断後も、定期的な受診と医師の指示に従った治療の継続が、患者さんの生活の質の維持につながると考えられています。

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