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リッサウイルス感染症
前田 広太郎

監修医師
前田 広太郎(医師)

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2017年大阪医科大学医学部を卒業後、神戸市立医療センター中央市民病院で初期研修を行い、兵庫県立尼崎総合医療センターに内科専攻医として勤務し、その後複数の市中急性期病院で内科医として従事。日本内科学会内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本医師会認定産業医。

リッサウイルス感染症の概要

リッサウイルス感染症は、ラブドウイルス科リッサウイルス属のウイルスによって引き起こされる人獣共通感染症(動物からヒトにうつる病気)です。全数報告対象(4類感染症)であり、日本ではリッサウイルス感染症の発生やウイルスが分離された報告はありませんが、ヨーロッパ、アフリカ、オーストラリアに分布しているウイルスであり、コウモリが自然宿主と考えられています。発熱、倦怠感、四肢の疼痛といった非特異的な初期症状から、興奮性の亢進、嚥下・発生困難、恐水症状といった中枢神経症状がみられ、呼吸停止とともに死亡に至ります。診断にはPCR法などによりウイルスの検出を行います。治療法はありません。一部のリッサウイルス感染症は狂犬病ウイルスワクチンによって曝露後や曝露前予防が可能とされますが、リッサウイルス感染症全てを予防できるワクチンはありません。

リッサウイルス感染症の原因

リッサウイルス感染症は、ラブドウイルス科リッサウイルス属のウイルスによって引き起こされる病気です。リッサウイルス1本鎖RNAウイルスで大別すると2つの系統に分かれ、そのうち7種類の遺伝子型が報告されています。狂犬病ウイルスもリッサウイルス属に含まれますが、狂犬病と一般的なリッサウイルス感染症とは区別されることが多いです。リッサウイルスは1型は狂犬病ウイルス、2型はラゴスコウモリウイルス、3型はモコラウイルス、4型はドゥベンヘイグウイルス、5型はヨーロッパコウモリリッサウイルス-1、6型はヨーロッパコウモリリッサウイルス-2、7型はオーストラリアコウモリリッサウイルスと命名されています。その他にも、未分類のリッサウイルスや新しいリッサウイルスが近年同定されています。

狂犬病を除くリッサウイルスは主にヨーロッパ、オーストラリア、アフリカに分布し、多くがコウモリを自然宿主としています。リッサウイルスの遺伝子検出が報告されている地域としては、アフリカ(南アフリカ、ジンバブエ、ギニア、ナイジェリア、中央アフリカ、カメルーン、エチオピア、セネガル)、ヨーロッパ(デンマーク、ドイツ、オランダ、ポーランド、ロシア、ウクライナ、フランス、スペイン、スイス、フィンランド)、オーストラリアといった地域です。東南アジアではフィリピンとタイで中和抗体を保有するコウモリが報告されています。主にオオコウモリや食虫コウモリからウイルスが検出されています、食虫動物やげっ歯類からウイルスが検出されたとの報告もあります。

リッサウイルス感染症の前兆や初期症状について

ヒトにおけるリッサウイルス感染症は狂犬病と非常に似ており、臨床症状で狂犬病とリッサウイルス感染症を区別するのは困難とされます。初期症状として、狂犬病でみられるような発熱、食思不振、倦怠感、感染部位の疼痛やかゆみ、咽頭痛、知覚過敏といった症状が現れます。続いて、興奮しがちになったり(興奮性亢進)、物が飲み込めない(嚥下困難)、声が出ない(発生困難)、手足が思うように動かない(筋痙縮)といった神経系の症状が出現し、水が怖くなる(恐水症状)、精神攪乱といった症状が進行します。呼吸筋が麻痺することにより息がしにくくなったり、不安、大量のよだれ(流涎)、知覚がおかしくなるといった症状が強くなっていきます。終末期には手足が脱力、反射も消失し、昏睡状態となって呼吸停止し死亡にいたります。発症から死亡までは5日~5週程度(1ヶ月前後が多い)とされます。潜伏期間は20~90日と長く、宿主にかまれた部位や数によって期間が異なると考えられます。長い例では、オーストラリアで1998年にオーストラリアコウモリリサウイルスに感染した38歳の女性は27ヶ月後に発症したとされます。

リッサウイルス感染症の検査・診断

狂犬病との違いはまず感染経路で判断します。野生のコウモリの接触によって感染することから、リッサウイルス感染症が分布している地域への出入国があるかどうか、コウモリとの接触歴を確認します。ウイルス同定検査は狂犬病ウイルスと同様の方法で行います。現在狂犬病の検査に用いられる紫斑の検査用抗体は狂犬病ウイルスを含むリッサウイルス遺伝子型1~7全てに反応するため、リッサウイルス感染症と狂犬病ウイルスの区別は分離されたウイルスの遺伝子型を決めることで可能となります。ウイルス抗原の検出はRT-PCR法などによって、唾液、髄液、剖検時の脳組織からの検出が可能です。

リッサウイルス感染症の治療

リッサウイルス感染症の治療は狂犬病と同様に、特異的治療法がなく症状に応じた対症療法を行います。呼吸や中枢神経系に対するサポートを行い、苦痛を最小限に抑えます。免疫療法や抗ウイルス薬が実験的に用いられることもありますが、治療の有効性は確立されていません。発症後に回復した例の報告もありますが、発症すれば基本的に予後不良でほとんどが死に至ります。

リッサウイルス感染症になりやすい人・予防の方法

リッサウイルス感染症には治療法がないことから、感染しないようにすることが唯一の対策となります。発症予防を目的としたリッサウイルス感染症のためのワクチンや免疫グロブリンはありません。狂犬病ワクチンは一部のリッサウイルス感染症に対して発症予防が可能であり、ワクチンの部分的な交差反応による予防効果が期待される遺伝子型もあります。

リッサウイルス感染症に対して感染のリスクが高いとされる人は、ウイルス検査に携わる専門家・研究者、コウモリの専門家、コウモリを取り扱う研究者、コウモリの展示施設や野生動物保護の関係者など、野生動物との接触が多いとされる職種です。こういった職種において、オーストラリアやヨーロッパでは狂犬病ワクチンの接種が推奨されています。また、感染を疑われた場合に行う曝露後ワクチン接種には狂犬病ワクチンの使用が推奨されていますが、全てのリッサウイルス感染症に有効というわけではありません。

リッサウイルス感染症を発症しないためには、リッサウイルスが同定されている地域への渡航において野生動物(特にコウモリ)との接触を避けること、もし接触しなければいけない場合は狂犬病ワクチンを接種しておくことが重要です。

参考文献

  • 1)Anthony R Fooks, et al. Renewed Public Health Threat from Emerging Lyssaviruses. Viruses . 2021 Sep 4;13(9):1769.
  • 2)M J Warrell, et al. Rabies and other lyssavirus diseases. Lancet . 2004 Mar 20;363(9413):959-69.
  • 3)Fooks AR, et al. European bat lyssaviruses: an emerging zoonosis. Epidemiol Infect 2003 131(3):1029-39.
  • 4)Kuzmin IV, et al. Phylogenetic relationships of Irkut and West Caucasian bat viruses within the Lyssavirus genus and suggested quantitative criteria based on the N gene sequence for lyssavirus genotype definition. Virus Res 2005 111(1):28-43.
  • 5)井上 智:リッサウイルス感染症. 検査と技術 36巻 13号 pp. 1465-1467. 2008

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