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バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症

バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症の概要

バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌 (VRSA) は、従来の抗生物質では治療が難しい、薬剤に対して強い耐性を持った細菌です。私たちの皮膚や鼻の中に存在する黄色ブドウ球菌は、普段は無害ですが、体力が落ちたときなどに感染を起こすことがあります。その中でも、抗生物質が効きにくい「MRSA (メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 ) 」は病院で特に注意される存在です。さらに、このMRSAが「バンコマイシン」という強力な抗菌薬にまで耐性を持ってしまったものがVRSAです。原因としては、体内で別の耐性菌 (VRE) と一緒に存在することで、薬に強くなる遺伝情報を受け取ってしまうことが知られています。

VRSA感染症は、通常の治療では改善しない皮膚感染や菌血症などを引き起こします。治療には複数の強い抗菌薬の組み合わせが検討されます。リスクが高いのは、糖尿病や透析中の方、長期入院中の方、カテーテルを使用している方などです。予防の基本は、日常の手洗いや、抗生物質の正しい使用にあります。日本国内での報告はまだありませんが、海外からの散発的な報告があり、今後の注意が必要な感染症のひとつです。

バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症の原因

「黄色ブドウ球菌」という菌の名前を聞いたことがある方もいるかもしれません。これは私たちの皮膚や鼻の中などに普通に存在する細菌の一つです。健康なときには問題になりませんが、けがをしたときや体の抵抗力が弱っているときには、感染症を引き起こすことがあります。

この菌は、薬が効きにくい「薬剤耐性」とよばれる能力を獲得することがあります。中でも、「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA) 」は、ふつうの抗生物質が効かず、病院で注意が必要な菌として知られています。そのMRSAに対しても有効だった「バンコマイシン」という薬が、最後の切り札のように使われてきました。

ところが近年、このバンコマイシンすら効かなくなってしまった新たな耐性菌が現れました。それが「バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌 (VRSA) 」です。

では、なぜこのような強い耐性菌が出てくるのでしょうか?主な原因はMRSAがバンコマイシンへの耐性を独自に獲得してしまうことと、薬に強い別の菌 (バンコマイシン耐性腸球菌、VRE) と黄色ブドウ球菌が同じ体の中にいるときに、薬に強くなる情報が黄色ブドウ球菌に移ってしまうことです (参考文献 1) 。この情報のやり取りは、まるで「バンコマイシンへの対抗法を教えてもらう」ようなものです。こうして薬が効かない新しいタイプの菌が生まれてしまいます。

バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症の前兆や初期症状について

VRSAが引き起こす感染症自体の症状は、通常の黄色ブドウ球菌感染と類似しており、創部感染、皮膚膿瘍、敗血症など多岐にわたります。
患者さんが自覚する初期の症状は非特異的であり、発熱や局所的な炎症、痛みが最初のほうに現れると考えられます。

後述するような併存疾患がある場合や、長期間の抗菌薬治療をされている場合に、皮膚症状や発熱があれば、かりつけの医療機関を受診したり、入院中の場合には担当のスタッフへしらせてください。

バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症の検査・診断

VRSA感染症を疑うタイミングは、適切な抗菌薬治療を行っているにも関わらず、通常は菌がいない部位から数日間続けて黄色ブドウ球菌が分離されたときです (参考文献 1) 。特に2~3日以上続く菌血症、膿瘍が改善しない、あるいはバンコマイシンへの耐性を確かめるMIC (最小発育阻止濃度) の検査値が高値を示す場合には、耐性菌出現の可能性を考慮します (参考文献 1) 。

バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症の治療

VRSAは多くの抗菌薬に耐性を示すため、一般的に用いられる抗菌薬による治療が難しいです。感染部位が局所的なのか、コントロールされているのか、体の深いところに感染源がないかといった評価結果にもとづいて、治療方針を決めていきます。

ダプトマイシン、リネゾリド、アルベカシン、ST合剤という抗菌薬による治療が検討されます (参考文献 2) 。海外では他の抗菌薬の使用もされていて、症状に応じて場合によっては複数の薬剤を組み合わせて治療します (参考文献 1) 。

バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症になりやすい人・予防の方法

VRSAに限りませんが、抗菌薬治療中であったり、並存疾患がある、病院に長期入院中の方は耐性菌への感染リスクが高いです。たとえば以下のような方々です (参考文献 3) 。

  • 糖尿病や腎疾患などの併存疾患がある方
  • カテーテルを体に入れている方
  • 抗菌薬使用中の方

では、VRSAを防ぐためにはどうすればよいのでしょうか?

まずは、手洗いの徹底が一番の基本です。病院や介護施設では、患者さんや入所者に触れる前後の手指消毒をきちんと行うことが求められています。入院期間中や面会に行く際には手洗いを徹底しましょう。

抗生物質を必要なときに、必要な期間だけ使うことも重要です。風邪などウイルスが原因の病気に対して抗菌薬を使うのは無意味であり NG です。こうした誤った使い方が、耐性菌を生み出す一因になります。

もしもVRSAが見つかった場合は、その人を個室で管理したり、専用の医療器具を使うといった対策がとられます。感染が広がらないよう、病院全体で厳重な注意が必要になります。

VRSAは今日までに日本で検出されたことはありませんが、世界各地で散発的に報告されており、日本でも警戒が必要です。
また、個人でも日ごろから感染予防を意識することが、社会全体で耐性菌のリスクを減らすことにつながります。手洗いの徹底や、不要な抗生物質の使用を避けることは、VRSAを含めたさまざまな感染症から自分や社会を守るための第一歩です。

この記事の監修医師