

監修医師:
大坂 貴史(医師)
横川吸虫症の概要
横川吸虫症は、横川吸虫という寄生虫が人の腸に寄生することで引き起こされる感染症です。この感染症は日本をはじめとした東アジア地域で特に多く見られ、淡水魚を生または十分に加熱調理せずに摂取することで感染します。寄生している横川吸虫の数が少ない場合には自覚症状がほとんどないため見過ごされやすいですが、寄生している横川吸虫の数が多いと腹痛や下痢といった消化器症状が現れることがあります。横川吸虫症はプラジカンテルの投与により駆虫できます。
予防としては自分で釣った淡水魚の生食はせず、食べる際には十分に加熱すること、調理器具の汚染を避けることが重要です。
横川吸虫症の原因
横川吸虫症は、横川吸虫 (Metagonimus yokogawai) という小型の寄生虫が人間の小腸に寄生することによって引き起こされる寄生虫感染症です。この吸虫は東アジア地域、特に日本、韓国、中国などに分布しており、中でも日本では昔から知られる感染症です。
1965年に国内66河川のアユを対象にした調査では、55河川のアユから横川吸虫に感染したアユが見つかったと報告されています (参考文献 1) 。1988年から1991年に愛知県の豊川水系で行った調査では感染率が100%に達したとされています (参考文献 1) 。
感染型幼虫 (メタセルカリア) が寄生した淡水魚 (アユ、ウグイ、シラウオなど) を生食するか、十分に加熱しないまま摂取することで人に感染します (参考文献 1) 。現在でも国内に数万人以上の感染者がいると推定されていて、現代の日本で最も流行している寄生虫感染症の一つです。
横川吸虫症の前兆や初期症状について
横川吸虫症に感染しても、多くの場合無症状で気づかないことが多いです。少数が寄生しているに過ぎない場合には無症状か症状があっても軽微であり、気づかれない場合も多いです (参考文献 1, 2) 。多数感染した場合には長引く腹痛や下痢、粘血便、体重減少といった症状が報告されています (参考文献 1)。
感染から発症まで長い期間が開くこともあり、感染時期が特定できない場合もあります。詳しくは後述しますが川で釣ったアユの生食などの習慣が感染のリスクになります。
長引く腹痛や下痢の症状がある方で、横川吸虫症感染リスクの高い食事歴のある方は、お近くの内科を受診してください。
診察の際に自分に当てはまる横川吸虫感染のリスク因子を教えていただけると、正しい診断・治療につながります。
横川吸虫症の検査・診断
症状は横川吸虫以外でも出るような非特異的なものなので、問診によるリスク因子の情報収集が正しい診断に直結します。特にアユに代表されるような淡水魚の生食の習慣・食事歴の有無は重要な情報です。
横川吸虫症の診断には便検査が基本となります。顕微鏡下で患者の便中に虫卵を確認することにより診断します (参考文献 2) 。
横川吸虫症の治療
横川吸虫症の治療には、プラジカンテルという抗寄生虫薬と下剤が用いられます。2回程度の投与でほぼ全ての患者で体内から横川吸虫が駆除されます (参考文献 1) 。
横川吸虫症になりやすい人・予防の方法
横川吸虫への感染リスクが高いのは、流行地域で淡水魚を生食する習慣がある方や、加熱処理が不十分な淡水魚を食べる習慣がある人です。
横川吸虫という名前がついていることから察せられるように、横川吸虫は日本も流行地域で、北海道以南の全国に分布しています (参考文献 3) 。
横川吸虫はアユ、シラウオ、ウグイなどの鱗に寄生しており、これらの魚を自分で釣って生食して感染する方もおられます。自分で釣った魚でなくても、旅行先で提供されるようなシラウオの踊り食いや、アユの ”背ごし” とよばれるアユの内臓を取り除いてぶつ切りにした郷土料理が日本における感染源として有名です (参考文献 2) 。
日本以外でも東アジアの多くの地域で横川吸虫の生息が確認されているため、現地での淡水魚の生食は横川吸虫への感染リスクを高める行動と言えます。
淡水魚の漁が盛んな河川・湖周辺地域では感染率が高いことを示唆する報告があるほか、河川や湖によって横川吸虫の検出率や汚染度合いが異なるのではという報告、季節によって淡水魚の汚染度合いが違うのではという報告などがあります。地域や季節によって感染リスクをコントロールすることも可能かと思いますが、古いデータが多くデータの信頼度にもバラつきがあるため、今回は個人でできる基本的な予防策にフォーカスして説明します。
他の食中毒の予防策とも重なりますが、横川吸虫症の感染を予防するためには中心部まで十分に加熱された淡水魚を食べることが重要です。また、-3℃の冷凍を3日間することで横川吸虫への感染を防止できるとされています (参考文献 1) 。
横川吸虫は宿主となる淡水魚の鱗 (うろこ) にいるため、調理の際に水が飛散することで汚染が広がります。淡水魚を洗うときの水が飛び散ったり、手を洗わないまま他の調理器具に触れることで、他の食品を介して体内に入り込んでしまうこともあるので注意してください。
感染源となり得る淡水魚の調理が終わったら、調理器具の洗浄と丁寧な手洗いをしてから他の食材の調理をするようにしましょう。
参考文献




