本多 洋介

監修医師
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)

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群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

ハチ刺傷の概要

ハチ刺傷とは、昆虫のハチ(蜂)の仲間に刺されることによって起こる、健康被害です。

世界に約10万種以上が確認されているハチの仲間のうち、人間を刺すことがあるのはごく一部です。しかし、日本においては、スズメバチやアシナガバチの仲間、ミツバチやマルハナバチの仲間など、人を刺す可能性のあるハチが、少なくとも数十種類生息していることが知られています。

林業や農業のような仕事に従事する人はもちろん、自然の多い地域に暮らす人はこうしたハチとの遭遇率が高いと言えます。都会型の人間の生活域、すなわち街路樹や公園といった環境にも一部のハチは見られます。

ハチ刺傷の症状の大半は、ハチの毒針から注入される毒素(ハチ毒)によって引き起こされます。
ハチ毒による局所症状として、刺された部位に痛みやかゆみを伴う発赤や腫脹が生じます。ハチ毒の強さはハチの種類によってさまざまで、症状の度合いにも個人差があります。局所症状のみであれば、通常は数日内には軽快するため特別な治療を必要としないケースもあります。

一方で、ハチ刺傷をきっかけにアレルギー反応が起き、アナフィラキシーショックから命を落とすケースは、決して珍しくありません。したがって、ハチ刺傷の治療では局所症状の治療より、アレルギー反応への治療が優先されます。アナフィラキシーショックのリスクは、2回目以降のハチ刺傷で高まることが知られています。
また、ハチの大群に襲われたようなケースでは、大量のハチ毒が体内に入り、致死的な状態に陥る可能性があります。

攻撃性が高く、強毒を持つスズメバチの仲間には特に注意する必要があり、ハチ刺傷を予防するための知識、装備、行動などが重要です。アナフィラキシーショックへの予防策である、アドレナリン自己注射薬(エピペン®︎など)の携行も推奨されています。

ハチ刺傷の原因

ハチ刺傷の原因は、主に偶発的に起こるハチとの遭遇や接触により、ハチに刺されることです。
どのような状況で刺されやすいかは、ハチの種別によっても異なります。

以下に、日本国内でハチ刺傷が起きやすいハチについて、特徴や生態を紹介します。

スズメバチの仲間によるハチ刺傷

スズメバチの仲間は、総じて大型で強毒を持つことから、ハチ刺傷の原因としてもっとも注意すべきハチと言えます。特にオオスズメバチやキイロスズメバチは獰猛な性質で知られます。巣に近づいただけで集団で襲ってくる可能性があり、興奮状態になると単独でも執拗に人を攻撃します。

アシナガバチの仲間によるハチ刺傷

アシナガバチの仲間は、基本的にはおとなしい性質とされ、スズメバチほどの攻撃性は見られません。ただし、巣を攻撃されると防衛のために集団で攻撃してくるケースもあり注意が必要です。なお、アシナガバチの持つ毒素はスズメバチに近い強毒であり、刺された場合は重症になり得ます。

ミツバチの仲間によるハチ刺傷

日本で見られるミツバチの仲間は攻撃性が低く、積極的にヒトを刺すようなことは基本的にありません。ただし、巣を攻撃された場合は集団で反撃することがあります。持っている毒は比較的弱いものの、アナフィラキシーショックの原因となる可能性はあるので注意が必要です。

マルハナバチの仲間によるハチ刺傷

基本的にミツバチの仲間と似たような性質を持つハチです。ミツバチほど大きな巣は作らないため、単独で見かけることの多いハチです。持っている毒もそれほど強くないですが、ミツバチ同様にアナフィラキシーショックには警戒する必要があります。

クマバチの仲間によるハチ刺傷

大型のハチであるクマバチの仲間は、大きな羽音をたててホバリングする姿から恐れられることもあります。しかし、攻撃性は極めて少なく、ヒトを刺すことはほとんどないうえに弱毒性のハチです。そのためハチ刺傷の原因にはなることはまれです。

ハチ刺傷の前兆や初期症状について

ハチ刺傷は偶発的な事故により起きることが多いため、前兆はありません。

初期症状は、刺された瞬間に鋭い痛みを感じることが多く、ハチ毒による局所症状として、刺された部位に痛みやかゆみを伴う発赤や腫脹が生じます。強毒による重症例では、痛みによるショック症状や体温上昇などがみられることもあります。
一方、アレルギー反応が起きずに局所症状だけの軽症例では、通常は2~3日で軽快していきます。

強毒であるスズメバチなどに刺された場合や、全身の複数箇所を刺された場合、小児が刺された場合などは重症化のリスクが高いとされています。

アレルギー反応によるアナフィラキシーショックは、刺されてから15分以内の短時間で見られます。刺された人の意識、呼吸、脈拍などに異常が見られる場合はそれらが前兆となります。ハチ刺傷直後から吐き気、めまい、冷や汗、じんましん、ふるえなど何らかの全身症状が見られた場合はアレルギーを疑う状況です。アナフィラキシーショックのリスクは、2回目以降のハチ刺傷で高まることが知られています。

ハチ刺傷の検査・診断

ハチ刺傷の診断では、問診が最も重要です。受傷部位と刺したハチの種類を特定することが、治療方針に重要です。皮膚テストやハチ毒特異的IgE抗体測定を補助的に用いることもあります。

なお、アレルギー症状がすでに出ている状況であれば、診断より救命が優先されます。

ハチ刺傷の治療

ハチ刺傷の治療は、受傷直後におこなわれるべき応急処置、局所症状に対する一般的な治療、アレルギー反応が出た場合への対応があります。

受傷直後の応急処置

受傷直後は安全を確保したうえで、まずは傷口を流水でよく洗い流します。可能であれば「傷口を強く絞り毒を出す」「ポイズンリムーバーを使用する」といった応急処置が推奨されます。ミツバチに刺された場合は傷口に毒針が残っている場合があり、可能ならこれも取り除きます。

その後は安静にしてアレルギー反応に注意します。アレルギー反応の兆候が少しでもある場合は、医療機関への救急搬送が推奨されます。アドレナリン自己注射薬(エピペン®︎)などを携行している場合は使用します。

すでにアレルギー反応を起こしている場合は、救急搬送を待つ間にも、気道確保や人工呼吸、心臓マッサージなどの救命措置をおこないます。

局所症状に対する治療

局所症状に対しては、抗ヒスタミン剤やステロイド軟膏などを使用します。

アレルギー反応への対応

ハチ刺傷においてアレルギーの疑いが強い場合の緊急治療は、アドレナリン注射が第一選択です。アナフィラキシーショックの兆候がある場合、受傷後30分以内にアドレナリン注射などをおこなうと、救命率が高いとされています。

ハチ刺傷になりやすい人・予防の方法

ハチ刺傷になりやすい人は、林業、農業などの仕事に従事する人、庭仕事や山登りなどの自然と触れ合う趣味がある人です。

予防の方法は、ハチについて正しい知識を持つこと、事前にじゅうぶんな防護策をとること、アレルギーに対する予防措置をしておくことです。

ハチの多くは夏から秋にかけて巣が大きくなり、人間との接触も増えます。また、大きな音や振動などの刺激を受けると、興奮して攻撃性を増すことがあります。黒いもの、動くものを目標に攻撃する性質があるので、ハチに遭遇した場合は頭を隠し姿勢を低くして、ゆっくりその場を離れるとよいでしょう。万一刺されてしまっても、慌てず騒がず、安全を確保することが重要です。

山林に出かける場合は、黒い服装を避ける、肌をなるべく露出しないなどの防護策が有効です。林業従事者など、ハチ刺傷のリスクが特に高い人や過去にハチ刺傷でアレルギーの兆候があった人などは、万一に備え、アドレナリン自己注射薬(エピペン®︎)などの処方を受け、携行しておくこともアレルギーの予防策になります。


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