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先天性嚢胞
春日 武史

監修医師
春日 武史(医師)

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練馬光が丘病院 総合救急診療科 集中治療部門

先天性嚢胞の概要

先天性嚢胞(せんてんせいのうほう)は、生まれつき臓器やリンパ節、皮膚などに液体を含む膜状の構造物(嚢胞)ができる状態です。
胎児が子宮内で発育する過程で生じる異常によって引き起こされます。

多くの場合、先天性嚢胞は無痛性の腫瘤として現れますが、大きさや位置によってはさまざまな症状を引き起こす可能性があります。
咽頭に嚢胞ができた場合は飲み込みが難しくなったり、腎臓にできた場合は腎臓病の症状が出たりします。
肺に発生した場合は胎児の時点で肺の異常が生じ、重篤な呼吸障害や胎児死亡につながることもあります。
また、発生した嚢胞が細菌に感染すると、膿が生じて痛みや発赤、腫れなどの炎症症状を伴うこともあります。

先天性嚢胞の診断は主に画像検査によっておこなわれます。
超音波検査やCT検査、MRI検査などが用いられ、嚢胞の存在や大きさ、周囲の組織との関係を評価します。
場合によっては、悪性腫瘍との鑑別が必要となることもあり、その際は病理学的検査が実施されます。

治療については、嚢胞の大きさや位置、症状の有無によって方針が決定されます。
無症状で小さな嚢胞の場合は、経過観察のみで対応することもあります。
しかし、外見上の問題や機能障害を引き起こす場合、あるいは悪性化の可能性がある場合には、外科的手術によって嚢胞を摘出することが一般的です。
特に、胎児期から肺に嚢胞が発生する「先天性嚢胞性肺疾患」では、感染やがん化のリスクを考慮して、多くの場合手術による治療が推奨されます。

先天性嚢胞の原因

先天性嚢胞の原因は、胎児が子宮内で発育する過程で、発生や分化に異常が起こることです。
胎児期に臓器やリンパ節などが形成される際、通常は管状構造物が閉鎖したり、組織が分化したりしますが、この過程に異常が生じると嚢胞が形成されます。

これらの異常は全て胎児期に発生し、生まれた時点ですでに嚢胞が存在している状態となります。
つまり、先天性嚢胞は胎児の発育分化異常によって引き起こされる奇形の一種といえます。

先天性嚢胞の前兆や初期症状について

先天性嚢胞は多くの場合、無痛性の腫瘤として現れますが、発生部位や大きさによってさまざまな症状が見られます。

特にリスクが高いのは先天性嚢胞性肺疾患が起きた場合です。
肺に嚢胞が形成されると胎児の生命維持にも影響が生じ、呼吸機能や全身の浮腫(胎児水腫)、羊水過多などが観察されることがあります。
最悪の場合、子宮内胎児死亡に至るケースもあります。
先天性嚢胞性肺疾患は無事に出生した後も呼吸不全や反復性肺炎、気胸などのリスクが高まります。

また、咽頭に嚢胞ができると、飲み込みの困難さだけでなく、外見上にしこりが現れることがあります。
嚢胞に傷がつき細菌感染を起こすと、膿や腫れ、痛みなどの症状が生じます。
また、腎臓に嚢胞が形成されると腎臓病のリスクが高まり、頻尿やむくみなどの症状が現れる可能性があります。
これらの症状は、嚢胞の位置や大きさ、数によっても異なります。

先天性嚢胞の検査・診断

先天性嚢胞の検査・診断は、発生部位に応じてさまざまな方法でおこなわれます。
主に視診や触診による身体診察や、画像検査などが実施されます。

画像検査では主にCT検査、MRI検査、超音波検査が用いられ、嚢胞の位置や大きさ、周囲の組織との関係を詳細に評価します。
特に肺に発生した嚢胞性病変は、胎児期の超音波検査やMRI検査で発見されることもあります。
また、悪性腫瘍との鑑別が必要な場合などでは、病理検査が実施されます。
病理検査では、採取した細胞や組織を顕微鏡で詳細に観察し、嚢胞の性質や悪性所見の有無を確認します。

先天性嚢胞の治療

先天性嚢胞の治療は、主に外科的手術が選択されますが、症状がなく外見上も問題がない場合は経過観察となることもあります。
臓器や咽頭に嚢胞が形成され、機能障害や外見上の問題が生じた場合には、嚢胞を摘出する手術が適応されます。
感染を伴う場合には、抗菌薬の投与も考慮されます。

しかし、先天性嚢胞性肺疾患によって胎児に重篤な症状が出ている場合は注意が必要です。
胎児の生命を脅かす重篤な状況(胎児水腫を伴う病変など)では、母親のお腹にいる時点で嚢胞の吸引や経皮的シャント留置などがおこなわれることがあります。
出生後も、呼吸障害や肺炎のリスクがある場合には、できるだけ早く手術を実施することが推奨されています。

先天性嚢胞になりやすい人・予防の方法

先天性嚢胞は胎児の発育過程で生じる異常であり、特定の人がなりやすい傾向は現在のところ解明されていません。
また、予防法も確立されていません。

しかし、体に嚢胞のような症状が観察された場合、できるだけ早期に専門医の診察を受けることが重要です。
特に肺に嚢胞が形成された場合は、重篤な症状につながる可能性があるため注意が必要です。
呼吸困難などの症状が頻繁に見られる場合は、速やかに医療機関に相談することが推奨されます。
早期発見と適切な治療介入が、患者の予後改善と生活の質向上につながる可能性があります。

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