

監修医師:
五藤 良将(医師)
目次 -INDEX-
ミトコンドリア異常症の概要
ミトコンドリア異常症(ミトコンドリア病)とは、細胞内のエネルギーを作る「ミトコンドリア」と呼ばれる細胞内小器官の働きが低下することで起こる病気の総称です。
ミトコンドリア異常症の主な原因は、遺伝子変異とされています。特にミトコンドリアDNAの異常は母系遺伝の特徴を持ち、親から子へと遺伝するケースもあります。まれに薬剤の影響で後天的に発症する場合もあります。
ミトコンドリアは、体を動かすエネルギーを産生するという重要な役割があります。ミトコンドリアの機能が低下することで、細胞の働きが悪くなり、さまざまな症状が現れます。どの臓器のミトコンドリアに機能障害が起こるかによって、症状は異なります。
特に、脳や筋肉などのエネルギーを多く必要とする臓器に影響が出やすく、けいれん、脳卒中様症状、筋力低下などの症状が現れます。
診断には遺伝子検査、病理検査、生化学検査を行い、ミトコンドリアの機能障害を調べます。治療法は確立されておらず、症状を軽くしたり、なくしたりすることを目的とした対症療法や、ミトコンドリア内の代謝を促す水溶性ビタミンの補充が中心です。
家族歴がある場合、発病する確率が上がるとされています。確立した予防法はありませんが、遺伝リスクを知るためには出生前診断や着床前診断、遺伝カウンセリングが有効な場合があります。

ミトコンドリア異常症の原因
ミトコンドリア異常症の主な原因は、ミトコンドリアDNAの異常と核DNA上の遺伝子の変異が挙げられます。薬剤の影響で後天的に発症することもありますが、ほとんどは遺伝子の異常が関係しているとされています。
ミトコンドリアは細胞のエネルギーを生み出す重要な器官で、その働きには約1500種類のタンパク質が関わっています。
遺伝子は、体を作るための設計図のようなもので、その中にはミトコンドリアを正常に機能させるための情報も含まれています。しかし、何らかの理由で遺伝子変異が起こると、ミトコンドリアの機能が低下し、エネルギーを作る力が弱まってしまいます。これにより、体のさまざまな臓器が影響を受け、その影響に応じた症状が現れます。
遺伝形式は母系遺伝や常染色体劣性遺伝など多様であり、家族内での発症も見られます。
ミトコンドリアDNAは、通常母親から子どもにのみ遺伝するとされており、父親のミトコンドリアは子どもへは遺伝しません。ただしミトコンドリアDNAの変異は、母親からの遺伝ではなく、新しく起きた変化である可能性もあるとされています。
核DNAの変化が原因で発症する場合、「常染色体劣性遺伝」とよばれる形式で両親から子どもへ伝わります。この場合、母親と父親が病気の原因となる遺伝子を一つずつ持っており、それが両方とも子どもに受け継がれたときに発症します。
ミトコンドリア異常症の前兆や初期症状について
ミトコンドリア異常症の症状はミトコンドリアの機能が低下している臓器の部位によって異なります。
ミトコンドリアは体中のほぼすべての細胞に存在し、エネルギーを産生しています。ミトコンドリアの働きが低下すると、細胞の機能が弱まり、最終的には全身の臓器の働きにも影響を及ぼします。
特に、脳や筋肉などのエネルギーを多く必要とする臓器で症状が出やすいことが知られています。具体的には、けいれんや脳卒中様症状のような中枢神経の異常、筋力低下による疲れやすさや歩きづらさなどの症状が挙げられます。さらに、心臓や肝臓、腎臓、膵臓、消化器官、血液、皮膚、内分泌など体中の臓器に症状が出現することもあります。
また、新生児期から乳児期に発症したケースでは、発育異常や発達の遅れがみられることもあります。
ミトコンドリア異常症は、あらゆる年齢で発症する可能性があり、症状の出方や程度には個人差があります。単一の臓器症状のみの場合もあれば、複数の臓器症状を併せ持つ場合もあります。
ミトコンドリア異常症の症状は多様なため、それぞれの患者さんに応じた治療を行っていく必要があります。
ミトコンドリア異常症の検査・診断
ミトコンドリア異常症の検査は、どのような症状が出現しているかを調べる検査と、ミトコンドリアの機能障害を調べるための検査があります。
どのような症状が出ているのかを詳しく確認するために、診察や血液検査、髄液検査、脳や肝臓の画像検査、眼底検査、心電図検査などを行います。これらの検査でどの臓器に異常がでているかを特定していきます。
ミトコンドリアの機能障害を調べるためには、遺伝子検査、病理検査、生化学検査などを行います。これらの検査を通して、ミトコンドリアのDNAや形、働きを詳しく確認していきます。
ミトコンドリア異常症の治療
ミトコンドリア異常症を根本的に治すための治療法はいまだ確立されていません。症状を軽くしたり、なくしたりするための対症療法や、ミトコンドリアの働きを回復させることを目的とした治療が行われます。
対症療法では、現れている臓器症状に応じた適切な治療を行うことが重要です。たとえば、糖尿病を合併している場合は、血糖値を下げるためにインスリン注射や血糖降下薬を用います。てんかんがある場合は、抗てんかん剤を用いてけいれん発作を予防します。
ミトコンドリアの働きを回復させる治療としては、代謝を促す補酵素として働く水溶性ビタミンを補充します。あわせて、ミトコンドリアの機能を低下させる行動を避けることも重要です。ミトコンドリアに負担をかける飲酒や過食を避け、栄養バランスのよい食事や適度な運動、十分な睡眠をとることが大切です。
ミトコンドリア異常症の症状は個人差があり経過も様々であるため、治療方針は患者さんの症状や状態に応じて選択され、定期的な通院による治療が必要となります。
ミトコンドリア異常症になりやすい人・予防の方法
ミトコンドリア異常症は、特定の年齢や性別に偏ることなく、誰にでも発症する可能性がある病気です。しかし、遺伝によって起こることもあるため、家族歴がある場合は発症リスクが高まると考えられています。
ミトコンドリア異常症には、「核DNA」と「ミトコンドリアDNA」の二種類が関係しています。核DNAの変異による場合、親から子へ遺伝することがありますが、突然変異が起こることもあります。一方、ミトコンドリアDNAの変異は母親からのみ遺伝します。しかし、母親が変異を持っていても、その割合が低ければ発症しないこともあり、逆に母親に症状がなくても子どもが発症する場合があります。
ミトコンドリア異常症を根本的に予防する方法はまだ確立されていませんが、出生前診断や着床前診断、遺伝カウンセリングを受けることで、遺伝の可能性を評価することができます。
日常生活ではバランスの良い食事や適度な運動などを心がけ、ミトコンドリアの働きを促す規則正しい生活を整えることも大切です。
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