

監修医師:
大坂 貴史(医師)
包虫症の概要
包虫症は、エキノコックス属の条虫の幼虫が体内で繁殖し、主に肝臓に病変を形成する感染症です。エキノコックス症と呼ばれることも多いです。日本ではとくに多包条虫による「多包虫症」が北海道を中心に発生しており、感染源はキツネやイヌなどの終宿主が排出する虫卵です。人が汚染された水や食物を経口摂取することで感染し、症状が出るまでに10年程度かかることもあります。発症すると右腹部痛や黄疸、肝腫大などを生じ、進行すれば命に関わる可能性もあります。診断には画像検査と血清学的検査が用いられ、切除可能な場合は手術が第一選択です。予防には特に北海道でキャンプをする際における野生のキツネとの接触回避、生の水や食べ物の摂取回避、手洗いの徹底などが重要です。北海道では行政と住民が一体となった感染対策が進められており、地域単位での予防意識の向上が包虫症対策の鍵とされています。
包虫症の原因
包虫症は、エキノコックス属の幼虫が、人の体内で発育することで起こる寄生虫感染症で「エキノコックス症」として知られています。ヒトに感染を引き起こす代表的な種には多包条虫と単包条虫があり、多包条虫による「多包性エキノコックス症」が現在問題となっています。
多包条虫は20世紀以降の人やモノの交流が盛んになってきた時期に、北方の島々から北海道に侵入してきたと考えられています (参考文献 1) 。自然界ではキツネやイヌを成虫が寄生する終宿主として、野ネズミを幼虫が寄生する中間宿主としています (参考文献 1) 。この生活環のなかにヒトが中間宿主として入りこんでしまうことがあり、これが包虫症の原因です。
キツネやイヌとの接触時に多包条虫の卵を経口摂取してしまうことにより、幼虫がヒトの腸壁に侵入して、血液やリンパの流れに乗って全身に広がります (参考文献 1) 。
キツネやイヌと直接接触する以外にも、感染したキツネやイヌの糞に汚染された食べ物や水を摂取してしまうことで人に感染する経路もあります。
包虫症の前兆や初期症状について
包虫症は感染から発症までの潜伏期間が非常に長く、10年程度かかることもあります (参考文献 1, 2) 。
多包性エキノコックス症では、ほとんどの症例で肝臓が最初に侵されます。肝臓に生着した多包条虫が嚢胞を作りながらどんどん増殖していき、時間をかけて大きな腫瘍を形成します。
肝臓に形成された嚢胞によって、右わきの圧迫感や痛み、腹痛、黄疸、疲れやすさなどの症状が見られることがあります (参考文献 1-3) 。病変が進行すると周囲の臓器に浸潤して黄疸が悪化したり、肝不全が進行して腹水がたまったり、病巣への感染を合併したりして重篤な状態になることがあります。
肺や脳に転移することもあり、咳や喀血、意識障害、けいれん等の症状が出ることもあります。
後述する包条虫の発症リスクに該当する場合には、気になる症状があれば近くの総合病院の内科を受診してください。「最近は北海道に行っていない」という方でも、この病気の潜伏期間は非常に長いため、一度でも北海道でキャンプ・野営をして、野生動物との接触があれば感染リスクがあると考えてください。
包虫症の検査・診断
包虫症の診断には画像検査と血清検査が組み合わされます。まず、腹部超音波検査やCTによって肝臓をはじめとした全身の状態を確認します。生活歴と画像検査の結果から包虫症を疑えば血液検査をして包虫へ感染しているかチェックします。
包虫症の治療
切除可能であれば手術をして病巣を取り除くのが第一選択です (参考文献 1-3) 。進行していると切除が困難になるので、その場合には抗寄生虫薬のひとつであるアベンダゾールによる薬物療法を行います (参考文献 2, 3) 。
単包虫症であれば、超音波で病巣を確認しながら病巣を針で刺して、内部の液体を吸入した後にエタノールを注入する PAIR法 という治療選択肢もあります (参考文献 2) 。
包虫症になりやすい人・予防の方法
国内の包虫生息地域は主に北海道です。北海道におけるキツネとの接触機会がある人は包虫症の発症リスクが高いと考えられます。そして北海道でのキツネとの接触を避けることが感染予防において最も重要です。
キャンプや野営時に野生のキツネとの距離が近くなることがあります。餌付けや生ごみの放置をすると近くに寄ってきて感染リスクが上がります。このようなことは包虫症予防の観点のみならず、自然界に入る際のマナー違反にもなるので絶対にやめてください。
また、イヌが知らぬ間に包虫に感染した野ネズミを食べて、そのイヌと接触することによってヒトに感染することがあります (参考文献 4) 。特に北海道においてはイヌの放し飼いは避けてください。
また、井戸水や沢水は感染したキツネやイヌの糞が混ざっていることがあり、そのまま飲むと包虫症の感染源になり得ます。基本的には上水道からの水を摂取するほか、虫卵除去装置で処理した水を飲むようにしてください。
手洗いは様々な感染症の予防の基本です。知らぬ間に包虫に汚染された環境に手が接触している場合があるので、何かを口にする前には必ず手を洗ってください。
参考文献




