

監修医師:
大坂 貴史(医師)
顎口虫症の概要
顎口虫症は、顎口虫という寄生虫の幼虫がヒトの体内に侵入することで発症する寄生虫感染症です。通常、顎口虫は犬や猫などの肉食動物の体内で成虫になりますが、発育途中の幼虫がウナギやドジョウ、カエルなどを介してヒトに感染することがあります。特にこれらの動物を生または加熱不十分な状態で食べた際に感染しやすいです。2022年には青森県でシラウオの生食による集団感染が報告されています。
症状としては、皮膚の下を移動する皮膚爬行症が典型的で、痛みや腫れを伴います。脳や眼球などに侵入した場合には重篤な合併症を引き起こすこともあります。診断は臨床症状や血液検査、画像検査、抗体検査などを組み合わせて行います。治療にはアルベンダゾールなどの内服薬や、場合によっては外科的摘出が用いられます。
予防には、生の淡水魚や両生類・爬虫類の加熱不十分な上体での摂取を避け、食べる際には中心まで十分に加熱・冷凍処理することが重要です。特に海外旅行先では、衛生状態の不明な屋台での生食などを避けることが予防になります。
顎口虫症の原因
顎口虫症は、顎口虫という寄生虫の幼虫がヒトの体内に侵入することで引き起こされる感染症です。顎口虫は、本来は犬や猫などの肉食動物の体内で成虫として生活しますが、その発育の途中段階である幼虫がヒトの体内に入ってしまうことで感染が成立します。
顎口虫の生活環について簡単に説明します。卵から孵化した幼虫はミジンコなどの第一中間宿主に取り込まれ、魚類や両生類、爬虫類などの第二中間宿主に移動して感染を広げていきます。これらの中間宿主を捕食する肉食動物が終宿主となり、成虫として腸管内に寄生し産卵するというのが通常の生活環です (参考文献 1, 2) 。
ヒトは本来この生活環には含まれませんが、これらの中間宿主を加熱不十分な状態で食べた際に感染してしまいます。具体的な感染源としては、ウナギやドジョウ、ナマズ、カエル、ヘビなどが知られています (参考文献 1) 。
2022年には青森県で約300例の感染報告があり、これはシラウオの生食が原因と考えられています (参考文献 2) 。
顎口虫症の前兆や初期症状について
顎口虫症の初期症状として有名なのは、皮下を移動する幼虫による皮膚爬行症・移動性皮下腫脹です。これは消化管から体内に侵入した幼虫が、肝臓などを経て全身を移動するなかで、皮膚の下に到達した幼虫が動き回ることによる症状です。痒みや痛み、こぶが症状として多いですが、痛みはときに激烈なものになります (参考文献 2) 。症状は数日から数週間続き、別の部位へ移動していくのが特徴です (参考文献 1) 。
体を自由に動き回るというのが怖いところで、脳や眼球に侵入した場合には麻痺や意識障害、失明といった症状が出ます。薬物療法が確立する前には、中枢神経系に顎口虫が侵入した場合の致死率は 25% にもなったようです (参考文献 1) 。
後述するような感染リスクが高い行動をした後に、これら症状が出た場合には、すぐに総合病院の内科を受診してください。
顎口虫症の検査・診断
皮下の移動性腫脹や食事歴をもとに疑われます。生検で皮下の腫脹部から虫体を直接摘出できれば確定となりますが、摘出組織内に虫体が確認できない場合が多く、ほかの検査方法も併用して診断していきます。
血液検査では他の寄生虫疾患と同様に好酸球増多がみられることが多く、抗体検査で顎口虫に対する抗体価の量や値の推移を確認することが有効な手段になります。顎口虫の感染がどこまで広がっているのか評価するためには画像評価が有効です。
顎口虫症の治療
顎口虫症の治療には、駆虫薬による薬物療法と、外科的な摘出手術の2つの選択肢があります。
直接病巣を摘出することができる場合には手術をしますが、病巣の場所や数によっては手術のみでの完治が難しいので、薬物療法が重要になります。
薬物療法では、主にアルベンダゾールやイベルメクチンという内服薬が使用され、数週間の治療が必要になります (参考文献 2) 。
顎口虫症になりやすい人・予防の方法
先述の通り、顎口虫に感染した生の淡水魚、爬虫類、両生類を介して、顎口虫に感染します。2022年にはシラウオの生食によって青森県で多くの患者が発生しました。寄生虫症は国内での感染リスクが低いものが多いですが、顎口虫症は近年の国内集団発生事例もあり、注意が必要な感染症です。
予防の基本は「生で食べない」「十分に加熱する」ことです。淡水魚や爬虫類、両生類をいわゆる「ゲテモノ」として食べた際に感染する事例が知られています。
加熱処理 (中心温度70℃で数分以上) 、冷凍処理 (−20℃で3日以上) で感染力を失うとされているため、感染リスクのある食材を食べる際には適切な処理がされていることを確認してください (参考文献 1, 2) 。
提供される食べ物以外にも、自分で釣った魚を食べる際には注意してください。ブラックバスを介した感染も報告されています (参考文献 1) 。
顎口虫は世界中で流行している感染症です。旅行先の食事、特に屋台などで適切な処理がされていない食べ物は感染リスクが高いです。他の感染症の予防法とも共通しますが、事前に食事先を調べて決めていくなどして、リスクの高い食事を避けることが予防になります。
参考文献




