

監修医師:
五藤 良将(医師)
類鼻疽の概要
類鼻疽(るいびそ)とは、「類鼻疽菌」という細菌による感染症です。
類鼻疽菌に感染しても、すべての人が発症するわけではありません。しかし、発症して重症化すると命を落とすこともある、危険性の高い感染症として知られています。
類鼻疽を発症すると、感染経路に応じて「発熱」「肺炎」「傷口の化膿」などの症状が見られます。症状の重さは個人差が大きく、類鼻疽を特徴づけるようなものもありません。さらに、類鼻疽は潜伏期間が一定ではないことが知られており、感染から数日で発症することもあれば、数か月、数年という長い潜伏を経て発症する例も報告されています。
類鼻疽菌は主に亜熱帯~熱帯地域の土壌や水に生息しており、東南アジアやオーストラリア北部、中国南部、台湾などの国で確認されています。
このような地域では、類鼻疽菌に汚染された水や土壌に触れたり吸い込んだりすることで感染し、類鼻疽を発症することがあります。また、まれではあるものの類鼻疽菌は人から人にうつる可能性があります。
類鼻疽は日本国内の水や土壌には常在していないと考えられており、これまでのところ国内の環境を感染源とした患者の報告はありません。
しかし、東南アジアなどの流行地域で類鼻疽菌に感染し、帰国後に発症する事例は報告されています。類鼻疽は「感染症法」で4類感染症に分類されており、診断した医師による届出が義務付けられています。
なお、類鼻疽と似た症状が出る感染症に「鼻疽」というものもあります。鼻疽は「鼻疽菌」という細菌への感染で発症します。
類鼻疽では汚染された土や水からの感染が多いのに対し、鼻疽は馬などの動物からの感染することが多いのが特徴です。
類鼻疽では、特に糖尿病や免疫不全などの基礎疾患がある人で発症リスクが高く、重症化もしやすいとされています。重症化すると「敗血症」などを合併して致命的な状態に陥るケースもあります。
類鼻疽を予防するためのワクチンは現在のところ存在しません。流行地域では感染対策を徹底し、疑わしい症状が出た場合はすみやかに医療機関を受診することが大切です。
出典:一般社団法人日本感染症学会 「類鼻疽(Merioidosis)」

類鼻疽の原因
グラム陰性桿菌という種類の「類鼻疽菌」と呼ばれる細菌に感染することで発症します。
類鼻疽菌は東南アジアやパプアニューギニア、オーストラリア北部、インド亜大陸、台湾、中国南部、香港などの亜熱帯~熱帯地域の水や土壌の中に生息していることが確認されています。
このような地域では、類鼻疽菌に汚染された水や土壌に触れることで皮膚の小さな傷から感染したり(経皮感染)、汚染水を飲んで感染したりすることがあります(経口感染)。また、類鼻疽菌に汚染された土や水しぶきを吸い込んで感染することもあります(経気道感染)。
通常は経皮感染、経口感染、経気道感染のいずれかによって感染しますが、まれに感染者の体液や血液に触れることで感染するケースもあります。
類鼻疽菌に感染しても、すべての人が発症するわけではありません。数年単位の潜伏期間を経て発症したり、糖尿病などの基礎疾患の影響を受けて発症するケースも知られています。
類鼻疽の前兆や初期症状について
類鼻疽菌に感染すると、潜伏期間を経て発熱などの症状が出現します。
どのようにして感染したかによっても症状は異なり、経皮感染の場合には皮膚の傷が膿んで腫れたり、膿瘍ができたりすることがあります。また、経気道感染の場合には肺炎を起こして痰絡みの咳や呼吸困難などを生じるほか、敗血症を合併して血圧低下などの症状を起こしたりすることがあります。
発症者の約半数には、本来無菌状態の血液中に細菌が存在する「菌血症」が認められ、血圧低下や意識障害などのショック症状を呈するケースもあります。また、菌血症によって肝臓や腎臓、脾臓などさまざまな臓器に膿瘍ができることもあります。
類鼻疽菌に感染しても、発症せずに無症状で経過することも多いとされています。また、数年単位の潜伏期間を経て発症する人もいます。
基礎疾患として糖尿病や慢性腎不全、アルコール性肝障害などを発症している場合や免疫不全が起きている場合には重症になりやすいことが知られています。
出典:厚生労働省検疫所FORTH 「類鼻疽(Melioidosis)」
類鼻疽の検査・診断
類鼻疽の診断では、問診のほか体液や分泌物から類鼻疽菌を検出するための検査がおこなわれます。
問診では、海外への渡航歴や渡航先での行動、症状などを確認します。
類鼻疽菌を検出するためには、血液や皮膚の傷から出る膿、痰、尿などを検体として採取し、培養して顕微鏡で観察します。
このほか、必要に応じて胸部X線検査や腹部の超音波検査、CT検査をおこなったり、血液検査で肝機能や腎機能などを調べたりすることもあります。
類鼻疽の治療
類鼻疽の治療では、抗菌薬を用いた薬物療法がおこなわれます。
一般的に、類鼻疽は発症してしまうと難治性であり、数か月間かけての治療を必要とします。
初期治療では点滴による薬剤投与が中心となり、症状が落ち着いてきたら内服治療に切り替えることが多いです。
菌血症によって全身の臓器に膿瘍を認める場合には、膿瘍から膿を排出させる「ドレナージ」という処置がおこなわれることもあります。
敗血症に至っている場合には、症状によって人工透析やおこなわれたり、人工呼吸器管理が必要になったりすることもあります。
類鼻疽は、治療によって一旦症状が軽快した後も再発リスクがあるとされています。治療後も慎重な経過観察が必要です。
出典:一般社団法人日本感染症学会 「類鼻疽(Merioidosis)」
類鼻疽になりやすい人・予防の方法
東南アジアや南アジア、オーストラリア南部、アフリカなど類鼻疽菌の流行地域へ渡航する人には、類鼻疽菌に感染あるいは類鼻疽を発症するリスクがあります。
さらに、流行地域で類鼻疽菌に汚染された水や土壌に触れる機会がある人では、より発症リスクが高まります。
糖尿病など免疫に関わる基礎疾患のある人は、感染により発症しやすく、症状も重症化するリスクが高いとされています。
現在のところ、類鼻疽を予防できるワクチンはないため、流行地域の行動ではじゅうぶんに感染対策を講じることが重要です。
参考文献




