

監修医師:
大坂 貴史(医師)
住血吸虫症の概要
住血吸虫症は血管内に寄生する寄生虫で、淡水に含まれる幼虫が皮膚を貫通して感染します。尿路系の静脈に感染するものと腸管系の静脈に感染するものが知られています。感染する住血吸虫の種類にもよりますが、初期には皮膚炎、発熱、頻尿、血尿、腹痛、下痢などの症状が現れます (参考文献 1, 2) 。放置すると腎不全や膀胱がん、肝不全、脳梗塞様の症状にいたる恐れがあります (参考文献 1) 。
流行地域への渡航歴がある方のうち疑わしい症状がある方は、医療機関を受診して渡航歴や行動歴を伝えて、専門家の診察を受けることが大切です。診断は尿や糞便からの虫卵検出が一般的で、治療には抗寄生虫薬のプラジカンテルが用いられます (参考文献 1, 2) アフリカや中東、東南アジアなど世界的には未だ流行地域が点在し、多数の患者が存在します。これらの地域で淡水に直接触れるレジャーや農作業を行うと感染リスクが高まるため、事前の情報収集と淡水との接触回避が有効な予防策です。
住血吸虫症の原因
「住血吸虫」は寄生虫の一種で、ヒトに感染すると静脈内に寄生するため、「血に住む虫」ということで住血吸虫と呼ばれています。住血吸虫にはいくつかの種類が知られていて、尿路系の静脈に寄生するビルハルツ住血吸虫、腸管の静脈に寄生する日本住血吸虫、マンソン住血吸虫、メコン住血吸虫、インターカラーツム住血吸虫の5種類が主に問題となります (参考文献 1)。
これらの住血吸虫は、人が川や湖、沼などの淡水に接触することで感染します。たとえば日本住血吸虫はミヤイリガイという巻貝を中間宿主として、人に感染します (参考文献 1) 。淡水中を泳いでいる日本住血吸虫の幼虫 (セルカリア) が人の皮膚を貫通して、人の血中に侵入することが主な感染経路として知られています (参考文献 1) 。
住血吸虫症の前兆や初期症状について
共通の症状として、皮膚から侵入した後にセルカリア皮膚炎と呼ばれる痒みを伴う皮膚症状があります (参考文献 1) 。
尿路系に感染するビルハルツ住血吸虫は初期症状として血尿や頻尿がみられることがあります (参考文献 1, 2) 。腸管の静脈に寄生する住血吸虫の初期症状として発熱や蕁麻疹、腹痛、下痢、血便、咳が生じることがあります (参考文献 1, 2) 。
住血吸虫症は放置すると慢性化・重症化します。尿路系に感染するビルハルツ住血吸虫症は慢性化すると腎不全や膀胱がんに繋がるほか、腸管系に寄生する住血吸虫症は腸閉塞や肝不全、脳梗塞に似た症状が出ることが知られています (参考文献 1) 。後述する住血吸虫症のリスクになるような行動歴のある方で、気になる症状があれば、渡航歴などを明確にしたうえでお近くの総合病院を受診してください。
住血吸虫症の検査・診断
診断には、糞便や尿検査による寄生虫卵の検出が最も一般的です。検体中に存在する虫卵を顕微鏡で確認することで診断を確定します (参考文献 2) 。
住血吸虫症の治療
現代では住血吸虫全般の治療として、プラジカンテルという抗寄生虫薬が一般的に使用されます (参考文献 1, 2) 。
余談ですが、住血吸虫症を世界規模でコントロールするために、WHOは感染流行地域の住民に、プラジカンテルを定期的に投与する活動を行っています (参考文献 2) 。予防キャンペーンにより数々の地域で感染伝搬が止められてきた歴史がありますが、未だ治療が必要な患者にプラジカンテルが届ききっていないというのが現状です。
住血吸虫症になりやすい人・予防の方法
住血吸虫症は熱帯や亜熱帯地域での流行が確認されています。以前は日本でも日本住血吸虫が流行している地域がありましたが、中間宿主であるミヤイリガイを全国各地で駆逐した結果、日本住血吸虫症は日本において根絶されました。その他の住血吸虫も日本での流行はないため、普段日本で生活している分には感染する可能性は限りなく低いといってよいでしょう。
日本国内で流行していないとはいえ、世界中でみれば治療が必要な患者は2016年時点で2億人程度存在すると考えられています (参考文献 2) 。現在流行が知られている地域への渡航と、その地域でのリスクの高い行動歴がある人が住血吸虫になりやすいといえます。
流行地域は次の通りです (参考文献 2) 。
・ビルハルツ住血吸虫: アフリカ、中東、フランスの一部地域 (コルシカ)
・マンソン住血吸虫: アフリカ、中東、カリブ海諸国、ブラジル、ベネズエラ、スリナム
・日本住血吸虫: 中国、インドネシア、フィリピン
・メコン住血吸虫: カンボジアの一部地域とラオス
・インターカラーツム住血吸虫: 中部アフリカの雨林地域
これらの流行地域での淡水に触れるような活動が感染リスクを高めます。カヌーなどの淡水でのレジャーや、農業やボランティア活動での淡水との接触が具体例です。
予防法は流行地域へ渡航する際に淡水との直接接触を避けることです。海や塩素処理されたプールでは感染しないので、アクティビティがどのような環境で行われるかを事前に確認することも有効だといえるでしょう。




