遺伝性痙性対麻痺
田頭 秀悟

監修医師
田頭 秀悟(たがしゅうオンラインクリニック)

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鳥取大学医学部卒業。「たがしゅうオンラインクリニック」院長 。脳神経内科(認知症、パーキンソン病、ALSなどの神経難病)領域を専門としている。また、問診によって東洋医学的な病態を推察し、患者の状態に合わせた漢方薬をオンライン診療で選択する治療法も得意としている。日本神経学会神経内科専門医、日本東洋医学会専門医。

遺伝性痙性対麻痺の概要

遺伝性痙性対麻痺(いでんせいけいせいたいまひ=HSP:Hereditary Spastic Paraplegia)は、下半身の筋肉が固くなり、力が入りにくくなる病気です。

痙性対麻痺(下半身のつっぱりや麻痺)のうち、遺伝的な原因を持つものがこの疾患に分類されます。

HSPの発症メカニズムは神経の働きに関係しており、遺伝的な原因で脳から体へ動きの指令を伝える「錐体路」という経路が障害を受けて発症します。
HSPには、足の筋肉が固くなるだけの「純粋型」と、体のバランスが取りにくい、手足の感覚が鈍くなる、視力が低下するなど他の症状も現れる「複合型」の二つのタイプがあります。
いずれの症状も、個人差はあれどもかなりゆっくり進行するのがこの病気の特徴です。病状が進行すると、ふらつきや足のつっぱりが強くなり、自力歩行が難しくなることもあります。

HSPは、厚生労働省の指定難病である「脊髄小脳変性症(SCD)」の中に含まれており、その割合はSCD患者の5%程度と、まれな疾患とされています。
HSPの根本的な治療法や、病状の進行を止める治療法はまだありませんが、リハビリや薬を使って症状を和らげる方法がおこなわれています。

遺伝性痙性対麻痺の原因

遺伝性痙性対麻痺(HSP)は、神経の働きに必要な遺伝子が変化してしまうことが原因で起こる病気です。

原因遺伝子は現在までに60種類以上見つかっており、その中でもSPG4という遺伝子が原因となる例が多いと考えられています。しかし、約半数の症例ではまだ原因遺伝子不明なものもあるとされ、すべての原因遺伝子や発症メカニズムについて明らかになっているわけではありません。

HSPを含めて指定難病となっている「脊髄小脳変性症」では、遺伝的背景とは無関係に発症する(孤発性)のものも知られますが、HSPには何らかの遺伝的要因があるとされています。

遺伝性痙性対麻痺の前兆や初期症状について

遺伝性痙性対麻痺(HSP)の初期症状は、主に歩行のぎこちなさや足の筋肉が硬くなる違和感として現れます。
自覚症状としては、階段の上り下りが難しくなったり、足が重く感じたりすることが多いようです。

純粋型では、足の筋肉が緊張して動かしにくくなる痙縮や、徐々に進行する下肢筋力の低下だけの症状に限られるのが特徴です。

一方、複合型の場合は、歩行の障害に加えて、手足の感覚が鈍くなる、視力が落ちる、バランスが取りにくくなるなどの他の神経症状も併発します。

症状の進行はゆっくりで、最初は疲れやすい程度だったものが、徐々に歩行や日常生活に支障をきたすようになります。症状が現れるタイミングや進行の速さは、原因遺伝子などによってさまざまです。

遺伝性痙性対麻痺の検査・診断

遺伝性痙性対麻痺(HSP)の診断では、家族歴の確認や症状の評価がおこなわれます。
家族内で同様の症状が見られる場合、HSPを疑うことになります。

歩行障害や下肢の痙縮といった特徴的な症状を観察し、HSPの可能性を検討します。
基本的な情報を基に、画像検査や遺伝子解析、神経伝導速度検査といった詳細な検査がおこなわれます。

画像検査

MRI(磁気共鳴画像装置)を用いて、脳や脊髄の構造的な変化を調べます。
HSPでは、脳梁の菲薄化(薄くなること)や脊髄の萎縮が確認されることがありますが、純粋型ではこれらの異常が見られない場合もあります。
画像検査は、HSPの特徴を確認するとともに、多系統萎縮症や脳血管障害など他の疾患との鑑別診断にも役立ちます。

遺伝子解析

遺伝子解析は、HSPの原因となる遺伝子変異を特定するためにおこなわれます。
SPG4など、HSPに関連する遺伝子を調べると、病型を明確にできます。
家族歴がある場合や、他の検査で原因が特定できない場合に有用です。
遺伝子解析をおこなうと、治療方針の立案や家族内でのリスク評価が進められます。

神経伝導速度検査および筋電図検査

神経伝導速度検査では、神経が信号を伝える速度を測定し、神経の機能に異常がないかを確認します。また、筋電図検査では、筋肉の活動を記録し、神経や筋肉の障害を評価します。これらの検査は、HSPに伴う末梢神経障害や筋力低下の程度を調べるためにおこなわれます。

遺伝性痙性対麻痺の治療

遺伝性痙性対麻痺(HSP)では、現在のところ根本的な治療法は確立されていません。
しかし、症状を緩和し、生活の質を向上させるための対症療法がおこなわれています。

症状の進行を遅らせるためにリハビリテーションや筋力強化運動がおこなわれ、痙縮や痛みに対しては薬物療法が用いられます。
患者の歩行をサポートするために装具療法が用いられる場合もあります。

リハビリテーション

リハビリテーションは、遺伝性痙性対麻痺(HSP)の症状緩和における重要な治療法の一つです。
ストレッチや筋力強化運動をおこなうと、下肢の痙縮を軽減し、歩行能力を向上させる効果が期待されます。
患者一人ひとりの症状に合わせた運動プログラムが作成され、日常生活での動作の改善を目指します。

薬物療法

薬物療法では、筋肉の緊張を和らげる効果を持つ薬剤が処方されます。
痛みやけいれんなどの付随する症状に対して鎮痛薬や抗けいれん薬が処方されることもあります。
患者の状態に応じて調整され、他の治療法と組み合わせるのが一般的です。

装具療法

HSPによる歩行障害を補助するために、装具療法が用いられることがあります。
足首を支える装具(足関節固定装具)や、歩行を安定させるための杖や歩行器が使用されます。
装具を使用すると転倒リスクを軽減できるので、患者が自立した生活を目指すのに役立ちます。
装具療法では適切な装具を選択し、リハビリテーションと組み合わせるサポートが重要です。

遺伝性痙性対麻痺になりやすい人・予防の方法

遺伝性痙性対麻痺(HSP)は遺伝が原因で起こる病気です。
親や兄弟姉妹、あるいは近い血縁者に同じような症状の人がいる場合、この病気を発症する可能性が高くなります。
この病気を完全に予防する方法は今のところありません。
対症療法や装具着用により、症状の進行を抑えたり、症状の影響を軽減することができます。また、早期発見と適切なリハビリテーションが患者の生活の質の維持に役立ちます。


関連する病気

  • 脊髄小脳変性症(SCD)
  • 多系統萎縮症(MSA)
  • Charcot-Marie-Tooth病(CMT)
  • 副腎白質ジストロフィー(ALD)
  • 遺伝性運動感覚ニューロパチー(HMSN)
  • ビタミンE欠乏症

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