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リーシュマニア症
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

リーシュマニア症の概要

リーシュマニア症は、サシチョウバエが媒介する寄生虫リーシュマニア原虫による感染症で、3つの主な病型があります。皮膚型は感染部位に潰瘍ができ、粘膜型は鼻や口の粘膜が侵されて顔面が変形し、内臓型は全身症状がメインです。
病変部から検体を採取して顕微鏡やPCR検査で原虫の存在を証明することで診断します。治療は病型に応じ、抗寄生虫薬や五価アンチモン化合物を使用します。内臓型は特に重篤化しやすいため、早期診断と治療が重要です。
流行地域に訪れる際にはサシチョウバエとの接触予防をしてください。肌の露出を避け、防虫スプレーや蚊帳を使用するほか、流行地域では衛生環境の整った宿泊施設を選ぶことが推奨されます。

リーシュマニア症の原因

リーシュマニア症は、リーシュマニア原虫という寄生虫が原因で発症する感染症です。リーシュマニアに感染したサシチョウバエに刺されることで原虫が体内に侵入し、人への感染が成立します。

リーシュマニア症は世界各地で見られ、年間70万〜100万人が新たに発症、2〜3万人が死亡していると考えられています (参考文献 1)

リーシュマニア症の前兆や初期症状について

リーシュマニア症の症状は、病型によって異なります。

皮膚型リーシュマニア症

数週間〜数カ月の潜伏期間の後に、ピンク色の丘疹が出現、皮疹は徐々に拡大して中心部分が潰瘍化します。多くの場合痛みは少ないものの、潰瘍は治った後も瘢痕が残ります。
(参考文献 1, 2)

粘膜型リーシュマニア症

主に鼻や口、喉の粘膜に症状が出現します。初期には鼻づまりや軽い炎症がメインですが、ゆくゆくは組織の破壊が進行し、顔面が変形します。発声や呼吸機能などの機能的問題のほか、人の目につく器官が破壊されるので外観が著しく損なわれます。
(参考文献 1, 2)

内臓型リーシュマニア症

感染後2〜6か月の潜伏期間を経て、倦怠感、発熱、体重減少、食欲不振、腹部膨満感 (主に脾臓や肝臓の腫大によるもの) といった症状が現れます。脾臓・骨髄に負荷がかかることによる重度の貧血も特徴です。進行してくると肝臓がダメージを受けることによる肝機能障害、黄疸、浮腫が現れます。(参考文献1, 3)

後述するような渡航歴やサシチョウバエとの接触歴がある方で、気になる症状がある場合にはお近くの内科を受診してください。その際には該当するリスク要因を忘れず伝えるようにしてください。

リーシュマニア症の検査・診断

皮膚型・粘膜型リーシュマニア症を疑うような病変があり、リーシュマニア症のリスク要因に患者が該当する場合に検査をします。病変から検体を採取し、組織学的検査や培養、PCR検査の結果、病変部位にリーシュマニア原虫がいることが証明されればリーシュマニア症と診断されます (参考文献 2) 。
内蔵型リーシュマニア症が疑われる場合にも、検体中にリーシュマニア原虫がいることを確認することで診断しますが、検体の採取のために脾臓や骨髄からの検体採取といった処置が必要になります (参考文献 3) 。

リーシュマニア症の治療

治療法は病型や患者の状態によって異なりますが、以下の方法が一般的です。

皮膚型リーシュマニア症

合併症がない場合には凍結療法や軟膏などを用いた局所治療を、合併症がある場合には抗寄生虫薬の内服によって治療します。(参考文献 4)

粘膜型リーシュマニア症

抗寄生虫薬やリーシュマニア原虫が感受性を示す五価アンチモン化合物とよばれる薬剤を内服して治療します。
(参考文献 4)

内臓型リーシュマニア症

抗寄生虫薬の内服による治療を行います。アムホテリシンBとよばれる薬剤を用いることが一般的です。HIVとの重複感染をすることがあり、その場合にはHIVによる症状と内蔵型リーシュマニア症の相乗作用により症状が悪化しやすいので、HIVの治療も併せて行います。(参考文献 5)

リーシュマニア症になりやすい人・予防の方法

リーシュマニア症は、中南米、アフリカ、中東、南アジアなどの流行地域に渡航する人で特に感染リスクが高いです。これらの地域を訪れる際には服装、就寝場所に気を付けて予防をしましょう。

長袖・長ズボンを着用して皮膚の露出面積を減らすことや、こまめに虫よけスプレーを使うといった対策は、サシチョウバエにも有効です。

サシチョウバエは夕方から夜間に活動するため就寝時の対策が重要です。衛生環境の悪い宿泊施設の利用や屋外での就寝は、サシチョウバエとの接触リスクを高める可能性があります (参考文献 1) 。渡航前によく情報収拾し、なるべく清潔な宿泊施設を利用してください。サシチョウバエは自ら飛ぶのではなく風にのるような形で飛行するので、2階以上のフロアに宿泊すると刺されずらいことが知られています (参考文献 6) 。

サシチョウバエは蚊の3分の1程度の大きさしかなく、羽の音も小さいです (参考文献 6) 。服装や宿泊施設に気を使っていても知らぬ間に同じ空間に入り込んでしまうこともあるでしょう。防虫剤をかけた目の細かい蚊帳 (かや) を利用することも予防になります。

関連する病気

  • HIV/AIDS
  • シャーガス病
  • マラリア

参考文献

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